大学生③ 考察と安堵と禍(わざわい)
【注意】軽微な性的描写があります。
『今日から思い出』/『Aimer』様
https://youtu.be/gN6AhnJFuDY
ある部分を読んでいるときに聴いていただきたい曲名とURLを貼っています。
調べた結果、問題はなさそうです。詳しくは活動報告まで。
元々精神が弱いので気が狂いそうだった。もう薬に頼るしかない。車を運転できる状態ではないし、ゴールデンウィーク中で病院は殆ど閉まっているだろう。
「付き合っている人が自殺した。精神科連れてって。」
母親にそれだけ言った。そこで初めて涙が出た。親の前で泣くのなんて何年振りだろうか。恋愛関係の話なんて今まで全くしてこなかったししたくなかったけど、限界だった。
緊急の対応をしている病院を探してもらい、拒む病院に無理を通して診察してもらうことになった。とりあえず薬だけ欲しい。
車で2時間くらいかけて病院に行き、診察を受けて処方箋を貰った。祐也と同時に止めていた煙草を吸った。何か少し食べた気がする。
家に帰って薬を飲んで寝た。起きてから現実を理解し始めて咽び泣いた。字通りの意味の方の一掬の涙が出たのではないだろうか。
泣き止んで少し落ち着くと遺書を取り出した。
「事故に遭ってから、何もできなくて辛かった。好きな剣道をやりながら働きたかったけど、それが叶わなくて無気力だった。そんな中お前に会って、一緒にいて楽しかった。幸せだった。
………
幸せにしてやれなくてごめん。颯は良いやつだから、絶対良い人が見つかるよ。幸せになってね。
………
先に見つけたらここに電話して。
XXX-XXXX-XXXX」
インクが滲んで紙もふやけた。
ふざけるな。そんなこと一言も言わなかったじゃないか。いつもぼくが泣いてばかりいるから、いつも慰め役に回るしかなかったから、大人で居るしかなかったから、何も言えなかったって言うのか。ぼくのせいか。
じゃあ何故、何故最期になって言うのか。もっと早く言ってくれてたら、ぼくだってちゃんと聞いたよ!寄り添って共感して、次の道を一緒に考えることだってできたじゃんか!!狡い!クソ野郎!死ね!
赤ペンで添削をした。最期の手紙で誤字をするな。見せて馬鹿にしてやれないのが残念だ。
死神見たとか言ってたのはなんだろう。死ぬ前の日も生活用品とか買ってたから、突発的なものだったはずなのに。未だに分からない。
少し冷静になってきた。やっと考察することができるようになった。やはり根本的な原因は事故か。でもぼくが引き金を引いたのは間違いない。あのとき電話に出ていたら、結果は変わっていただろうか。終電まで待たずに、起きて直ぐに向かっていたらまだ死んでいなかっただろうか。
そんな反実仮想を繰り返した。反実仮想は何の役にも立たないのに、どうしてしまうんだろう。
喧嘩しても何だかんだ仲直りして戻るパターンだったじゃないか。今回もどうせそうなると思わなかったのだろうか。もしかしたらそうなることを予見して、負担にならないように死んだのだろうか。大学生活謳歌できるように。
『お前と別れたら、俺、死ぬから。』
祐也の言葉が脳裏を過った。ちゃんと言ってたんだ。ただの愛情表現の冗談だと思った。どっちかって言うと別れたらぼくの方が死にそうだったのに。
ぼくも希死念慮が強かったので、自殺肯定派だ。辛くて逃げるのは防衛本能だ。祐也が死んでもそれは変わらなかったが、もっと足掻いて頼って、それでも駄目だったらにしてほしかった。いや、祐也は足掻いて駄目だったと思っていたのかな。
悲しみの中に、ほんの少しの歪んだ安堵と嬉しさがあった。もう束縛がなくなり、徒心を心配しなくて良くなったこと。ぼくを想って死ぬほど、ぼくを好きで居てくれたこと。ぼくだけのものになったこと。
『ゆうちゃんが死んだら、一緒に死ぬから。』
よくそんなことを言っていたが、死ぬ気にはなれなかった。後れたことが胸を劈くからだ。祐也はそれを分からなかったのだろうか。そこまで考える余裕がなかったのだろうか。取り敢えずもう少し生きてみるよ。
ここで、元々持っていた刹那主義は消え、消極的だった虚無主義は積極的なものへと変化した。
もう返信のないと分かっているアカウントに、思いの丈を綴った。ちゃんと相談してほしかったこと、もっと一緒に居たかったこと、感謝の気持ち、大学生頑張るよってこと。
飼っていた犬を抱き締めて泣いた。犬臭い。
気晴らしにサークルの飲み会に出た。中学の頃にやっていたテニスをもう一度始めたくて入っていた。ウイスキーをストレートでがぶ飲みして吐いた。
車で来ていたため、同じ大学の人の家に泊まることにした。少し前からネットで関わっていた外部からの院生で、同じ指向を持つ男だ。泣きながら洗いざらいぶちまけた。相手はドン引きだろう。最初は慰めてくれていたが、雰囲気が徐におかしくなった。え?このタイミングで?
抵抗する気力もなく、されるがままだった。泣くしかできなかった。一難去ってまた一難の泣きっ面に蜂の踏んだり蹴ったりの弱り目に祟り目の虎口を逃れて龍穴に入った。途中で一案を講じた。胃に残った物を吐き出した。その案は見事に成功し、そこで終わった。謝って軽く掃除して寝た。起きて帰った。じゃあなロンダリングクソ野郎!お前も死ね!
大人になっても警戒心のなさは変わらない。




