高校生⑨ 出会いとさようなら
3年生になった。クラスメイトは成績順なので相変わらず。ぼくの立ち位置も変化なし。
化学の授業は相変わらず好きだった。紫外線や放電で酸素は特異臭を持つオゾンに変わると習った。子供の頃から電気の匂いと思っていたものはこれかな。
いつものように虚無感を紛らわせてくれる人を探していた。そんな中、8つ上の齋藤祐也という男と出会った。
数年前に事故に遭い、受給で生活していた。電車で2.5時間くらいの距離だったが、ぼくは甲斐甲斐しく会いに行った。小遣いは交通費に消えて消えていった。
いつものパターンで電話を重ねて会いに行って好きになった。暇だったのか、よく話の相手をしてもらっていた。歳上の割には子供っぽい顔で好みだった。
何度か相手に好意を伝えたが、はっきりと断られた。ぼくは相手の好みではなかった。めげずに好きだと言い続け、4回目だっただろうか。根負けしたのか付き合うことを承諾してくれた。何人目の彼氏だったか覚えていない。
子供らしく相手を「ゆうちゃん」と呼んだ。ぼくは名前で呼ばれたり、生まれつき日本人にしては色黒だったので「くろすけ」なんて呼ばれたりした。
それから通い妻のようなことを始めた。祐也はお金に余裕がなかったので、付き合うときにぼくが会いに行く条件をつけられていた。お金のかかる遊びはあまりしなかったが、一緒に居るだけで楽しかった。幸せだった。
自然が好きなようで、山に登ったり、虫をとったりした。もう虫を触るは苦手になっていたが、見るのは面白かった。ぼくが玉虫の死骸を見つけたときは、祐也は喜んで飾っていた。
夏になると近くの河原に蛍が飛んだ。田舎育ちだが蛍が棲息する程度ではなかったため、生まれて初めて生で蛍を見た。あんなに光るんだね。
地元の花火大会も一緒に行った。花火はやっぱり好きだな。花火を見上げている祐也の横顔を見た。雨上がりだったので、泥濘るんでいた土手からぼくは転げ落ちて泥だらけになった。
祐也は短気だったので、よく怒った。当時は威嚇する動物が怖かったため、早々に引き上げることが多かった。ぼくもぼくで未熟なところが多く、相手の心持ちに沿った言動をできないことも原因だが。
そんなこんなで喧嘩しながらも着々と関係が深まって言った。知り合いだと言う1つ上の男、カップルの2人の男が加わるようになった。カップルの1人は20前半でもう1人はぼくと同い年だった。時々この5人で集まって遊んでいた。
祖母は高校生になるとテストの順位を喜んでいた。小さい頃はぼくに勉強を仕込んでいたが、疾うに祖母を抜かし、漢字の読みなどを訊いてくるようになった。
そんな祖母が癌に倒れ入院した。じっとしていられない質で、入院する数日前まで体調の悪い中畑仕事をしていた。瞬く間に死んだ。初めての親族の死に打ちひしがれた。普段おちゃらけていた祖父が初めて涙するのを見た。
数ヶ月後、祖父も癌に倒れた。こちらも直ぐに死んだ。死に対する感情は慣れるようなものではなかった。
兄は縄張り意識が強くなり、家の至るところに自分の物を置き、テリトリーを主張した。俗に言うマーキング行為である。本当に邪魔で、コイツが死ねば良いのにと思っていた。何かがなくなると母親の所為にし、家の物を壊したり壁に穴を開けたりした。
他の動物の方がまだ良い。可愛いと言う利点がある。この動物は不潔で醜悪でなんの価値もないどころか、存在自体がマイナスだ。
周りが大学受験に向けて勉学に勤しむ中、ぼくは恋愛にかまけていた。そんなとき、嫌なことが起こった。




