心機一転
久しぶりの陽の光。
心機一転という託ち種に都合の悪いことを葬る。
「レッシュは朝早いね。」
「シアが遅いんだ。今日はちゃんと起きたな。」
夢のように断片的な昨日の話は、きっとレッシュに通じていない。それで良い。
「そういえばさ、ぼくはどれくらい寝てたの?」
「3年くらいかな。」
え!?どうしよう!そんなにも無駄に時間を過ごしちゃった!?
「どうしよう。折角飛び級したのに……。」
「本当は3週間。」
「……。ぼくが全力が出せる状態なら鳩尾に拳を入れてやりたい。」
怨念を込めてレッシュを睨む。
「シアがそんな顔したって全然怖くないぞ。」
椅子から降りてベッドに向かってくる。
「そろそろ起きなきゃね。」
「身支度をしろ。朝ご飯だ。」
席に着くとエソペールさんが現れた。
「ノシアールさんお目覚めでしたか。体調は如何ですか?」
「ご迷惑おかけしました。体が動かし難いくらいで、他は問題ないですよ。ありがとうございます。」
「猫被り。」とレッシュが呟いた。
「いえいえ、常日頃レッシュ様がお世話になっておりますので。力を取り戻すためにも、遠慮せずどうぞお召し上がりください。」
「ありがとうございます。いただきます。」
目の前にある肉を口に入れる。
「んー!これ美味しいね。なんのお肉?」
「フューだ。ここではあまり見ないな。」
食べたことあるな。試験を受けに王都に行ったときに、父さんに奮発してもらった……。早く家族にも会いたいな。
「全部美味しかった。ご馳走様!ちょっと食べすぎたかも。」
「よくそんなに入ったな。それだけ食べて何でそんなに小さいんだ?」
「レッシュと違ってぼくは頭でもエネルギーを消費するからね。」
したり顔でそう言い放つと、レッシュは薄ら悪いを浮かべて擽るような動作をした。
「ちょっと……ここには他の人もいるから、ベッドに戻ってからにしよ?」
「何考えてんだ阿呆が。」
「あのさ、あの後どうなったの?」
聞きたくはないが聞いておかねばならない。レッシュもぼくを心配して聞かれるまで黙っているつもりのようだったし。
「どうも何も、そんなに驚くようなことは起こってないぞ。シアはあのままここに連れてきた。次の日にシアのお母さんが来て引き取りに来たんだけど、俺のせいだから俺が面倒を看るって断ってそのままシアはここにいる。3日くらいしてからかな、ノニャン、エリー、ナック、トゥロフが見舞い……に来た。それくらいだな。」
「別にレッシュの所為じゃないのに。ずっとぼくの面倒看てたの?学校は?」
「……。本当はずっと休むつもりだったんだけど、みんなが見舞いに来たときに学校に来るように言われた。」
「あたりめぇだろこら!そんなんで休んでんじゃねえよ!いてまうぞ!」
「何だよ急に……。みんなも休んで面倒を看ててもシアは喜ばないって言ってた。だからそこからはちゃんと学校に行ったぞ。」
そんなに心配しなくて良いのに。
「ったりめえだ!」
「エガヴュアスは歩けるくらいには回復して問題はなさそうだ。」
あの女ね。思い出したくない。
「こんなに眠るくらいなら、治療しないでポックに乗せてけば良かった。」
「それ、言おうとしたんだけど……間に合わなかった。」
終わったことだしもう良いや。
「ご馳走様。そろそろ帰るね。」
「まだ昼前だぞ。もう少しゆっくりしてけよ。」
「明日は学校でしょ?ぼくは寝てた間の勉強をしなきゃいけないし、レッシュもぼくの面倒で疲れたでしょ。今日は休んだ方が良いよ。」
「……そうか。」
エソペールさんと医者が見送りに来た。
「何から何まで面倒看ていただいてありがとうございました。それでは、これで失礼します。」
「いえいえ、お気になさらず。どうぞご自愛ください。またいつでもいらっしゃってくださいね。」
「どうぞ、体調にはお気を付けください。不調があるようならこちらにいらしてもらえれば診察いたします。」
「ありがとうございます。それでは。レッシュ、また明日。」
「ああ。飛んでくのか?」
「うん。ばいばーい。」
そう言ってぼくは体を浮かせ……体を浮かせ……あれ?
「なんか、魔法使えなくなったかもしれない。」




