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この不等式を証明せよ②

ある部分を読んでいるときに聴いていただきたい曲名とURLを貼っています。


調べた結果、問題はなさそうです。詳しくは活動報告まで。


「ピアノソナタ第17番 テンペスト 第三楽章/ベートーヴェン」

https://youtu.be/rGWP9NrYark?si=n9-zlTfkuHlWpEKV


ー以下レッシュ視点ー


「ここだよ。」


杖を構えたまま左手で自分の頭を指す。


「……。」


「優しさってね、具現化した思考力だから。数式では到底表しきれないことが色んな所で、頭の中でも起こってるの。そこから情報を抽出して、相手が喜ぶことを導き出すの。ぼくは好きな人にしかそれをしない。」


「シアの優しさは作り物……?」


足首に目を遣って、誕生日に貰った手作りのアンクレットを目に入れる。


「じゃあ本能から来る行動だけで相手を喜ばせられるのが天然の優しさなの?頭で考えて相手のことを思って起こした行動は贋物(がんぶつ)?それは良くないこと?」


「……違う。」


「居るよ。確かにそこまで深く考えなくとも優しくできる人は確かに居た。でもやっぱり思考の果のものと比べたら欠陥が多い。結局頭の悪さは身勝手を起こして迷惑を掛けても気付けないようなことをする。ほら、早くどいて。」


「シアはもっと優しいと思ってた。」


「それしか言えないの?(ほとほと)残念な気分になった。もう……」


友達すら説得できない非力さに潸然(さんぜん)と泣いてしまった。


それを見たシアはバツの悪そうな顔をして杖を下げた。


「泣くなよ。ぼくの考えとレッシュのものが合わなかっただけ。全く同じ考えの人は居ない。それこそ血が(つな)がってたって。」


「この人は、俺が……なんとか、する。だから、今日はここで引いて……。」


声が上擦って上手く喋れない。


「無駄だと思うけどなぁ。」


「俺は、前よりは、マシになった、と、思う……。だからシアは、友達に、なってくれたんだろ?」


「分かった分かった。レッシュが手綱を持っていられるなら任せる。その代わり、もう一度迷惑かけてきたら今度は本当に殺すからね。」


「……分かった。」


「あと1つ宿題。-2x+3とx^2、どっちが大きい?」


「……え?」


この期になんだ?怪奇に涙が引く。


「ほら早く。」


「-3<x<1で-2x+3が大きい。その範囲の外では大小が逆転する。」


「次、π^eとe^πはどっちが大きい?」


「何だよ急に。」


「良いから。」


「eって何だ?」


「ネイピア数。」


「……習ってないから分からない。」


「じゃあ次。害虫と人間の命はどっちが重い?」


「……人間。」


「それは正答?どうやって導いた?少なくともぼくはその帰結を得る(すべ)を習ってない。レッシュもそうだよね?」


「そうだ。でも当たり前だ。頭の良いシアなら分かるだろ?」


「それ止めてくれない?悪意がないのが分かってるから何も言わなかったけど、そうやって評価されるの嫌いなの。1年生が10年生のインジエーニの授業と5年生の普通クラスの授業、どちらが高度なのか判断できると思う?」


「いや……。」


「教師はできると思う?」


「うん。」


「そういうこと。能力の評価って自分より下のものしかできないから。だからぼくは先生とかお母さんとか、そういう人にしか評価されたくないの。」


「悪かったよ。」


何もかも否定されたような気分になる。


「別に悪気がないのは分かってるから謝るようなことじゃない。考え方が違っただけ。話を戻すよ。そこら辺の虫よりも人間の命が重いことが、ぼくには当たり前に思えないの。一般的にそう認識されてることは分かってるけどね。でも、このクソアマの命なんて害虫のよりも価値の低いものだと思ってるから。」


この人、エガヴュアスの更生もそうだけど、シアも正しい道に導いてやらなきゃな。……こう話していると、何が正しいのかが分からなくなってきたが。


「そんなことはない。」


根拠が示せなくても、今は断言しておこう。


「その不等式を証明して、それが宿題。2つ目の大小比較みたいに、帰結を得る術まだ習ってない。というかこの宿題に関してはこれから習うこともない。1つ目の問題みたいに、解答根拠を途中式で示せるようにして。いつでも良いから。」


人としての情をシアにも分かってもらいたい。でもそれを直接伝えたらシアは反発するだろう。今度はシアが間違うのならば、俺が正しく引き戻そう。


「分かった……。」


言われすぎて気落ちしてしまった。口を一文字にして下を向くしかできない。


「ごめん、言いすぎた。でも悔恨とか(わだかま)りを残したくなかったからさ。レッシュも何か言いたいことがあれば忌憚(きたん)なく。」


もう一度アンクレットに目を向ける。色々な感情がぐるぐると頭を巡ってまた目から涙が落ちる。


「シアは……、シアはまだ俺と友達でいられる?」


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