新メンバー
天蓋を仰ぎ現状を諒解した。顔を横に向けるとレッシュが椅子に座って本を読んでいた。
冷や汗をかいたはずなのに、皮膚が涼しい。消毒液として用いられたであろう加爾基のような臭いもする。体を拭いてくれたのだろうか。というか、服も肌触りの良いものに変わっている。
「ぼくが寝てる間に変なことしてないでしょうね。」
「起きたか。元気そうだな。まだ具合悪いとこあるか?」
凹んだ顔でレッシュはそう言う。なんだよ、折角和ませようとしたのに。レッシュなりに責任を感じているのだろうか。
「寝て回復したから大丈夫だよ。お腹空いたから帰る。連れてきてくれてありがとう。」
「水臭いこと言うな。約束のお礼だ。食べていけよ。」
「冗談だって言ったじゃん。」
「まあそれを抜きにしても、治してくれたお礼だ。」
体が怠い。
「分かった。ありがと。その前に疲れたからマッサージして。」
「誰か呼んでやろうか?」
「レッシュで良いよ。他の人呼ぶと申し訳ないし。」
「一国の王子に何たる不敬。普通は俺にやらせる方が申し訳ないんだぞ。」
「あー、うるさいうるさい。じゃあ良いよ。」
膨れっ面をレッシュに向ける。
「俯せになれ。」
「最初からそうすれば良いのに。とりあえず脚からやって。」
「しょうがないな……。」
ここに来てからお酒を飲んだことはないけれど、飲みすぎて醒めてからの筋肉痛のような気怠さがある。
「んあぁっ、レッシュ、そんなにぐりぐりしちゃいやぁ。」
「気持ち悪いな、変な声出すなよ。止めるぞ。」
「いやぁ、止めないで。」
体を翻してレッシュと対面し、目を細めて少し口を開けた。これは前にやっていた誘うときの表情。
眉間に皺を寄せたレッシュはぼくに手を伸ばし……
「いーひっひゃひゃ!ごめん!ふざけないから!止めて!体力なくなる!」
此奴はぼくの弱点を知っている。侮れない。
「イレシュノン様から伺いました。この度は誠にありがとうございます。」
魔法で母さんにご飯をご馳走になると伝えて、また豪華な食事をお腹に詰め込んだ。毎日来ても食べさせてくれそうだけど、流石にそこまで図々しくはできない。
「いえ、友を助けるのは当然のことですので。」
キリッとした表情を作り格好をつける。
「猫かぶり。」
「レッシュもだよ。」
お腹が満たされて眠くなってきた。
「泊まってっても良いぞ。」
「いや、明日も学校だし帰るよ。ご馳走様でした。ありがとうね。」
「分かった。じゃあな、気を付けろよ。」
「明日はレッシュの特訓だからね。確り休めよ、若造。」
いつも通りの朝。
「ナック、おはっよー!」
助走をつけてノナックにダイブする。
「うっ……おはよう。そろそろシアは落ち着いた方が良いよ。怪我したらどうするの。」
「そう言えば昨日レッシュが怪我してさー、ぼくが治してあげたんだ。」
ことのあらましをノナックに話した。
「気絶したの?大丈夫だった?」
「へーきへーき。何回かしたことあるけどなんともないもん。」
「あんまり無茶しないでね。」
「ご褒美ちょうだい。」
ノナックの胸に軽く頭突きをすると、意図を理解して頭を撫でてくれた。この時間が1番幸せだ。
「シアは治癒魔法も使えるのね。それも討伐部の部長が治せないほどの傷を治すなんて……それ以上近づいたら怒るわよ。」
偶にはエリーにも撫でてもらおうと頭を向けて近づいたら怒られた。
「ナックぅ、エリーが怖い。」
「シアが悪い。」
慰めてはくれないようだ。
ということで、今日はノニャンとレッシュとぼくの3人で鬼退治に来ました。
「暫くはレッシュの特訓がメインね。ぼくたち2人は大分慣れてきたから。レッシュが少し慣れたら、あと1人くらいこの固定グループに入れたい。」
「王子様はどれくらい戦えるですか?5年生で入ってきたってことはシア君と同じくらい強いですよね?」
ノニャンとレッシュはぼくの8歳の誕生日のときに少し顔を合わせたくらいで、部活の紹介のときも昨日の見学のときも口を利いていない。
これからは確りとコミュニケーションをとって円滑な連携を期待したい。
「レッシュで良いよ。」
「おい、レッシュ。ノニーは先輩なんだぞ。なんだその口調は。」
まあタメ口を利きたくなる気持ちも分かる。レッシュと比べると年下の女の子に見える。
「シアだって砕けた口調じゃないか。」
「ぼくは同期なので。」
「はぁ……、僕はシアよりは強くはないよ。7歳で試験に受かって2年飛び級してる。シアより勝手が利かないけと、魔法で物を動かせる。」
「そう、つまりぼくの下位互換ってわけ。」
「そんな傲慢だといつか力に溺れるぞ。」
「レッシュだってぼくに最初に会ったとき相当酷かったじゃん。ばーか。」
そう言って目をひん剥いて口を大きく開けて舌を出した。
「ノニャン2人でやろう。」
「それが良さそうです。」
そして変顔をしたぼくが触れられることなく独り取り残される。
「おいゴラァ!待て!置いてくんじゃねえ!」
「ねえなんで無視するの?意地悪しちゃいけないんだよ!」
「分かった!ぼくが悪かったです!ごめんなさい!仲間に入れてください!」
"アレグロ"
魔法で加速をつけてレッシュに飛びつくと、レッシュはバランスを崩したが倒れはしなかった。
「……っ、危ないだろ。ほら、行くぞ。」
少しは2人も打ち解けたかな。
スィリュオを見つけた。先ずは此奴で練習してもらうか。




