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喚び召す魔法

「エルビルさん、召喚魔法について書かれている本はどこら辺にありますか?」


「調べてくるからちょっと待っててね。」


ぼくは村の図書館に来ていた。ポックと召喚について調べるためだ。


「あったよー。次は召喚魔法?もう私なんか一撃でやられちゃうんだろうな。」


「まだそこまで強くはなれてないですよ。」


「召喚魔法って難易度高いからそこまで使う人が居ないのよね。この図書館にあるのはこの2冊だけみたい。どう?借りてく?」


少なっ。こんなに本が沢山あるのに2冊しかないのか、王都の図書館ならもっとあるのだろうか。


「だから知名度か低いんですね。ありがとうございます。借りてきます。」


「ただいまー。」


「おかえりー。丁度良かった。買い物行きたかったけど、お父さんもシアも居なくて困ってたのよ。エル看といて。」


「えー、本読みたかったのに。お父さんは?」


「そんなこと言わないの。エルがいたって読めるでしょ?お父さんは仕事仲間の家でご飯ご馳走になってくるんだって。」


「そうなんだ。行ってらっしゃい。」


さて。


「あわーー。」


こんなんいたら集中できない。


「いひひひひー!お兄ちゃんですよー!」


エルを抱っこして揺さぶる。


「きゃはははー。」


膝に乗せて本を読むか。どれどれ。


召喚魔法とは魔獣を呼び出す魔法。それは知っている。魔獣を呼び出すには契約をしなければいけない。契約とは(なん)ぞや。


契約とは魔獣の魔力と召喚者の魔力を同調させるようなものらしい。何が契約だよ。何も契約してねえじゃねえか格好つけやがって。


ということは、ポックの魔紋をぼくの魔紋に置き換えられれば契約したことになるのか。ポックが魔力を扱えるならばだが。


何が契約なのか分からないが、契約と呼ばれている以上ぼくも契約と呼ぼう。契約に必要な条件は魔獣が魔法使いに従うと決めることだ。信頼、屈服など理由は何でも良い。だから、そのように考えられる程度の知能を持った魔獣でなければいけない。


魔獣は基本的に人間と敵対する。敵対の意思があるのかは分からないが、魔力を感知し魔力の多い他の魔獣や魔法使いを本能的に襲う。したがって、信頼を得ることは難しく屈服に()って従わせることが多い。知能の高い、つまりそこそこ強い魔獣を打ち負かす難易度は高い。これが第一関門。仲間になりたそうにこちらを見ている。


強い魔法使いにとって、第一関門は関門たりえない。それでも召喚魔法が広く使用されないのには理由がある。魔力の同調だ。(たと)えるならば、満腔の血液を他人の血液で置換するようなものだ。満腔を置換するのだ。


何がいけ好かないかと言えば、この可否に定量性どころか定性性がないのだ。屈服させて直ぐに契約できる場合もあれば、長くを共にしてもできない場合もある。


そして本題に戻るが、ぼくはポックと契約した覚えがない。


「うあー!ひひひひー!」


本を読み終えてエルをポックのところへ連れて行く。エルもポックが好きなようだ。


「ねえ、ポックって魔獣なの?」


「あう。」


何て言っているのだろう。


「ねえ、ポックって魔獣なの?」


「そうよ。」


夕食時に父さんと母さんに尋ねてみる。


「えー、知らなかった。何で教えてくれなかったの?」


「てっきりシアのことだから気付いてると思った。お前が呼べば直ぐ来るだろ?魔法以外何があるんだ。」


俺としたことが……。記憶のあるときからずっと一緒に居たから気付かなかった。いや、何故(なぜ)呼んで()ぐに来るのかは疑問に思っていたが、まさか魔獣だったとは。


「でも他に魔法使ってるとこ見たことない。」


「ほら、人間にだって個体差は大きいだろ。魔法自体の得意不得意もあるし、使う魔法の種類だって人によって違う。使えるけど使ってないだけかもしれないし。」


「確かに。ぼくが呼んで来てくれるってことは召喚獣なの?ポックと契約した覚えないんだけど。」


「それは……ノア、よろしく。」


「ポックから自分と同じような魔力感じたことある?」


「ない。」


「じゃあ召喚魔法じゃないわね。ポックが何らかの方法でシアの呼ぶ声を感じ取って、自分で移動してるってことになるわ。」


疑問が疑問を呼ぶ。


「何でポックはここに来たの?ぼくが産まれたときにはいたの?何で魔獣なのに攻撃してこないの?」


ぼくがポックを動物だと思っていたのはこれが原因だ。魔獣にあるはずの攻撃性がない。


「シアが母さんのお腹の中に居るときにエルトルグナからレオールに越してきたのは知ってるだろ?こっちに向かうときに、エニシュ辺りだったかな、そこら辺を歩いてるときにまだ子供だったポックが着いてきたんだ。」


「それで?」


「エルトルグナでは見ない魔獣だったけど、そこら辺で何回かネーシュの群れと戦った。だから初めはポックのことも警戒してたんだよな。」


「でもね、もしかしたら親と(はぐ)れたのかなって思って。そしたらお腹の中のシアと重なって。シアが小さいまま一人ぼっちになっちゃったんだって思ったら何だか可哀想で、連れてくことにしたの。攻撃してこないみたいだったから。一応警戒はしつつだったけどね。」


ほえー、そんなこともあるのか。


「それからずっと一緒?」


「そうね。シアが産まれてからはずっとシアのことを気にしてるわ。きっとお兄ちゃんになったつもりなのね。」


「これってよくあることじゃないよね?」


「直接見たことはないけど、同じような話は聞いたことはあるわ。」


そういうものなのか。


「ぼくポックと契約する。」


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