達成と契約の謎
「やーい!お前の母ちゃんでーべーそー!!」
落とし穴の前で背を向けてお尻フリフリダンスをして扇動する。
「シア君!」
"ヴィヴァーチェ"
ブフォッという気持ち悪い鳴き声と伴に穴を跳び越えてぼくに向かってきた。避ける準備ができていなかったので、いつもよりも魔力を込めて素早く回避する。
「ふぅー。危なかった。」
「そういうことはなるべくしないでほしいです。怪我するです。」
「ごめん。でも、こいつの穴の避け方が分かったよ。穴に落とすから止めはよろしく。ありったけの魔力を込めてね。」
残りの魔力で足りるかな。やってみるか。先輩居るし。
今度はセクシーポーズをして腰をフリフリ。
「そんなことしなくても向かってくるです……。」
さっきと同じように、目の前の落とし穴を跳び越えようとしてくれれば良いな。
"モレンド"
跳躍に合わせて魔粒子を当ててゆく。エルフュの加速する魔法を打ち消すように、速度の水平方向の成分を零になるように、かなりの魔力を込める。
頭がフラフラしてきた。この体には生命維持に魔力が必要なのだ。そこは切り分けてほしかった。
「落ちろ!」
エルフュが飛沫を上げて穴に落ちる。丁度頭が出るくらいの深さだ。
「やったです!」
"ノワテュコルトセレ(感電)"
「あ、やば……。あとよろしく。」
「シア君!」
"オビトゥセスノック アガレダホアル (連なる水刃) "
ノニャンの詠唱が聞こえる。これで斃せれば良いな。満腔が沈降するような感覚を得て、ぼくの意識は閉じる。
「冷たっ!はっ、ここは天国!?天使が居る!!」
見下ろすノニャンの脚にしがみつく。水を掛けられて起こされたようだ。
「元気そうで良かったです。」
「今感電させられたら死んでた。エルフュは?」
「もう慣れたです。エルフュは斃したです。」
「やったー!!」
失神している間に、ノニャンがエルフュの首に向かって連続攻撃をしたらしい。
起き上がって抱き着こうとすると、平衡を保てない体がノニャンを押し倒しそうになる。
ポックが間に入ってぼくたちを支えてくれた。
「えへへー、ごめん。」
「2人とも、良く頑張ったわね。その歳で2人でエルフュを斃せたのは誇って良いことよ。」
「先輩が居たから安心して戦えました。ありがとうございます。」
「お役に立てて何より。今日はもう帰った方が良さそうね。」
「はいです。」
「そういえばシア君は召喚魔法が使えるのね。よくあんな強そうな魔獣と契約できたわね。」
「いやー、ポックは魔獣じゃないし、召喚じゃないですよ。」
召喚魔法とは、契約した魔獣を喚び寄せる魔法だ。あまり詳しくは知らない。
「そんな訳ないじゃない。じゃあこのポックはどうやって来たって言うの?魔力も使わずに、シア君の呼んだタイミングで急に現れるなんなんてできるはずないわ。」
「確かに……。」
「わうー。」
「でもぼくは契約した覚えはないです。」
「じゃあどうして呼び出せるんだろう……。気になるわね。魔力の共有は?」
「やったことないし、やろうとしたこともないですね。ポックが魔法使ってるとこ見たことないですしおすし。お寿司食べたいです。サーモンが特に好きですね。」
「あうあうあう。」
何か言いたげなポック。
「……。図書館で調べてみたらどう?何か分かるかもしれないわ。」
あぁっ!ぼくの渾身のギャグを無視された!無視と説明はとても恥ずかしいものなのに。
「そうします。」
「ポック君ふわふわで可愛いです。」
お前も可愛いぜ。戦闘でポックに慣れたノニャンが顎の下を撫でている。
「ぐるるるる。」
「ひっ、な、なにするです!」
"ノイカジルトセレ (感電) "
「あばばばば。」
ノニャンの顎の下を撫でたら怒られた。
「急に変なことするの止めてくださいです。」
「いやー、ぼくもノニーを喜ばせてあげようと思って。それにしても詠唱までして攻撃する?」
「お仕置きです。」
お仕置き……何て甘美な響き。
「もっとしてぇ。」
誘うような顔つきでノニャンにそう言うと、手を翳して何かをしようとした。しかし止めてしまったようだ。このままだとぼくの思う壺だということに気付いたのだろう。




