2人で門の外へ③
【注意】主人公が下ネタを言います。
「これで頸動脈を切るです。僕たちの筋力じゃ難しいけど、シア君が魔法でナイフを動かせばできるです。」
言われた通りぼくはナイフを魔力で動かし、思い切りエルフュの首を切り付けると断末魔を上げた。負圧にして出血を加速させる。多分もう斃せただろう。
「……ごめんね。」
こんなはずじゃなかった。
「大丈夫です。今日はもう帰るです。」
「痛い?今治すから。」
浅慮だった。
「今はシア君の魔法が頼りです。帰ってからでも治せるです。」
「でも痛いでしょ?」
「今は僕の言う通りにするです。シア君の魔法は凄いです。強いです。魔法に関する知識は周りよりかなり高いと思うです。それでも僕たちには殺し合いの経験が足りないです。」
言外の意味を汲み取る。幾ら知識があると雖も、有効打を直ぐに出せないのだ。相手を殺すのに何が最適か見極めるのに時間がかかるのだ。
これまでは一対一で、時間に余裕がある、力比べのようなことしかしてこなかった。相手が襲いかかってくる可能性はなく、有効打を考える猶予があったのだ。
「ごめん……なさい。」
ぼくは驕りで友達を脅かしたのだ。情けない。悔しい。涙が湧いてくる。
「大丈夫です。いつものシア君に戻ってください。」
動かない右腕はそのまま、左腕でぼくを包んでくれる。
「ぐへ、ぐへへへ、良い匂いがするんだなぁ。」
「……やっぱり戻らなくて良いです。」
そう言って励ますようにぼくに笑いかける。ぼくも泣きながら笑顔を返す。
「ポックに乗って。」
ぼくとノニャンはポックに乗って門の内側へ戻った。
「痛いの我慢させちゃってごめんね。今治すから。」
「シア君は治癒魔法が使えるです?」
「初めてだけど頑張ってみるよ。傷に近いところの魔力を離してくれる?」
医学や生物学に精通していないぼくにとって、原理を考えるだけでは他人の治癒は難しそうだ。
[ジャイラーぜでDNAを解いて複製フォークを作る。プライマーをDNAポリメラーゼの両端にくっつける。アデニンとチミン、グアニンとシトシンのワトソンクリック型の塩基対になるように複製する。ラギング鎖での岡崎フラグメントをリガーゼでくっつける。校正のために、おかしいところでシクロブタン環を作って塩基間距離を小さくなるようにする。癌細胞なんて出来たら大変だ。]
というイメージを頭の中でする。何のイメージかって?ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)。そう、あのPCRだ。
[核膜、核小体が消えて染色体が赤道面に並んで紡錘糸がくっつく。染色体が別れて両端に移動し、核膜と核小体が出来る。最後に細胞質が分裂する。]
イメージはこれくらいで良いかな。きっとないよりはマシだ。
『シア君は逃げるです。』
ノニャンは身を挺してぼくを逃そうとした。いつか恩を返せるようにしよう。友情に心を熱くして魔法に変える。少し照れ臭い。
"ぼくの魔力よ、身を挺して守れる友に報いよ"
ノニャンがいなかったら死んでいたかもしれない。
"エノイジラウグ エドナルグ (大治癒)"
「ノニー、ありがとう。」
ノニャンの傷が塞がっていく。
「わわわ!凄いです!治ったです!」
傷を負っていた右腕をブンブンと振り回して治ったことを見せてくれる。魔力の欠乏に眩暈を覚えた。
「良かった。」
「ありがとうです!」
「いや、ぼくのせいで……」
「そんなことないです。こういうことがあるのを承知で外に出たです。シア君が居なかったら1人じゃ何もできなかったです。」
前の人たちよりも、ここの人たちは精神の成長が確実に速い。それに伴う思考力の成長も速い。この大人びた慰めがぼくの稚拙さを浮き彫りにして惨めになる。ぼくが入らなければ、この依代の精神もきちんと成長していたのだろうか。
「この恩は返すから。」
「まだ言うですか!どうしてもと言うなら、これからも一緒に組んでくださいです。」
そんなこと言われたら〇〇〇が疼く。
「ぼくからお願いしたいくらいだよ。よろしくね。」
もっと強くならなきゃ。魔法も戦闘も精神も。捲土重来だ。




