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鬼ごっこ

「今日も部活?」


「今日はみんなと一緒に帰ろうかな。」


「じゃあ一緒に帰ろっか。」


今日の授業が終わった。部活は明日行けば良いや。自由参加だしね。


「ちょっと校庭で遊んでからにしない?」


ナックに声を掛ける。


「良いよ。エリーもどう?」


「私も行こうかしら。」


レッシュにも声掛けてあげた方が良いかな。……まだ良いか。ゆっくり取り持ってあげよう。


「あー、でもお母さんに遊んでくるって言ってこないと。1回帰るよ。」


「ところがどっこい。ぼくは通信魔法を覚えたのだ!」


この世界、いや、この村のことしか知らないが、学校に行くようになった子供はみんな親の魔紋が分かる魔道具を身に付けている。迷子バッチの役割だ。


「9年生くらいで習うやつよね?すごいじゃない!」


「我を(あが)(たてまつ)れ!!」


鬼ごっこしたいな。3人だと少なすぎる。やっぱりレッシュも誘おう。あとは運動が得意そうなエミナかな。トゥロフも足は速そうだし呼ぼうっと。


「ナックはトゥロフ、エリーはエミナ誘ってきて!」


「「分かった(わ)。」」


まだみんな帰ってはいないだろう。足早に廊下を駆け抜けてレッシュを探す。


「見ーつけた!」


「シアか。どうしたの?僕もう帰るとこなんだけど。」


「みんなと校庭で遊ばない?」


「遠慮しとくよ。みんな気を遣って楽しめないだろ。」


「よし、じゃあ校庭行こう。エソペールさんの魔紋教えてくれたら連絡するよ。」


「あれ、僕の言ったこと聞こえてる?」


「早く魔紋。」


「強引だなあ。」


そう言ってエソペールさんの魔紋の入ったネックレスをぼくに渡す。


「でもそういうところが好きなんでしょ。」


「まあね。」


「素直じゃん。かわいー。」


「ふん。というか、通信魔法使えるようになったんだね。」


エリー、トゥロフ、ナック、エミナはもう校庭に集まっていた。ぼくがレッシュの手を引いて連れてくると、一瞬みんなの表情が強ばったように見えた。


「あ、王子様も一緒に……?」


エリーが尋ねてくる。


「うん。こいつ()ました顔してるけど、本当は弱虫で寂しがりでみんなともっと仲良くしたいんだよ。だから連れてきた。」


レッシュは否定せずに少し俯いている。


「王子様にそんな言い方しちゃ失礼じゃない?」


ノナックが横槍を入れてくる。


「レッシュって呼んであげて。それかおもら……」


レッシュはぼくの口を手で覆い声を遮った。


「ごめんね、僕のせいで気を遣わせちゃって。そういえば今日は用事があるんだった。僕もう帰るね。みんなで楽しんで。」


"ネーヴ (風) "


「ひやぁ!」


(きびす)を返したレッシュの首筋に風を当て、怯んだところで手を引き戻す。


「白々しい嘘つくな!ほら、遊ぶよ!」


みんなの保護者に連絡して鬼ごっこを始める。


「じゃあルールを説明するね。先ずは鬼を1人決める。みんなが逃げ始めてから10数えてから鬼は動ける。鬼が誰かにタッチしたら、タッチされた人が次の鬼。またそこから10数えてから鬼は動き出せる。魔法はどうしようかな……。」


「俺だけ魔法つかえねえよ。」


そうだ。トゥロフが魔法使えないことを忘れてた。


「鬼は1人に対して1回だけ魔法使えるってのはどう?トゥロフ君?には使わないようにして。」


エミナが提案をする。


「良いねそれ。鬼に対しても1人1回使えるようにしよう。勿論(もちろん)トゥロフが鬼のときは魔法はなしね。ルール外の魔法と怪我させる魔法は禁止。」


地面に六角形を描く。化学をやっていると真ん中に丸を描いて共鳴を表現したくなる形だな。


中心から頂点に6本の線を引く。


「みんな、これの周りに並んで。」


六角形の辺に夫々並んでもらう。枝を拾ってきて中心に立てる。


「これが倒れた方向に居る人が鬼ね。倒れたら開始!」


枝から手を離すと、エミナの方向に枝が倒れた。みんなが走りだして、エミナが10を数える。


「速っ!」


エミナは足の遅いぼくに目をつけた。


"ネーヴェ ピュオック (疾風) "


「ちょ、強すぎ!」


エミナが強風に腕で顔を隠す。その(すき)にぼくは逃げた。あれ、もしかしてこの中でぼくが1番遅い?


エミナはノナックの前に土の壁を出現させて捕らえたようだ。


右往左往した後にぼくの方に向かってきた。最終的に狙われるのはぼくか。


「シアー!待てー!」


「あはははは、捕まえてごらん!」


あ、やばい。こっちから向かってしまいそう。夕陽が照らす浜辺でやりたい。


"ユア (水) "


「ごめん!後で乾かしてあげるから!」


ずぶ濡れになって(ひる)んだ隙に逃げる。濡れたノナック、えっろ。そして次はトゥロフを捕まえた。


魔法で邪魔できないぼくはトゥロフに捕まった。体力馬鹿め。よし、レッシュを捕まえてやろう。


「レッシュー!」


「うわ、こっち来ないで!」


"アダージョ(ゆるやかに)"


魔粒子を大量に押し固めてレッシュにぶち当てまくる。


「う、うわ。なにこれ。」


レッシュの動きが鈍くなった。魔粒子は直ぐに消えてしまうけれど、足止めには充分だ。


「つーかまーえた!」


日が暮れてきた。


「そろそろ帰る時間ね。」


ここでもやっぱりエリーがリーダー。


「じゃあ帰ろっか。ぼくとトゥロフは遠いから早く帰らなきゃ。」


「あ、あの……。」


「どうしたの?」


言い淀むレッシュにエミナが反応する。敬語は抜けたようだな。


「あの、みんな、今日はありがとう。楽しかった。また、来ても良いかな?」


「もちろん!」


ノナックがそう答えた。


「また遊ぼうぜ、王子様。」


トゥロフが反応する。王子様呼びは抜けないようだな。


みんなで校門に向かって歩く。


「シア、ありがとう。」


レッシュはぼくにそう耳打ちをすると、空の赤を仰いだ。


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