討伐部見学②
「あ、シア君!やっぱり入ってくれたんだ。」
「みんなを幸せにする魔法使いになりたいので。幸せの第一は安全!」
「かっこいいこと言うね。あ、俺は副部長のエルジット。よろしくね。」
ごつい。強そう。パワー系。柔和な顔つきで優しそうではあるけれど。
「よろしくお願いします。」
ぼくの他にも数人の新入部員が居る。新8年生が9人、7年生が2人、6年生が1人。意外と少ないんだな。そんなもんか。
「じゃあ新入生も揃ったところで、みんなで外壁の外に行くよ。普段は数人で行くことが大きけれど、今日は新入部員の見学がメイン。絶対に単独行動はしないでね。あ、言ってなかったけれど、あたしには部員を辞めさせる権限もあるから。言うことちゃんと聞かないとダメだよ。これはみんなを守るためだから。」
嫌いだからと辞めさせることは人柄的にしなそうだが、悪い印象は持たれないようにしよう。
ぼくたちの住むクナルフ村と、エスィユ村とアンガメーラ村が纏めて外壁で囲ってある。レオール島に行くときは西の森を超えて壁の外に出た気がするけれど、今回は東から出るようだ。
学校を出て平野を通って門まで歩く。元々在籍していた部員は門番に手を翳して壁の門を通っていく。ぼくたち新入部員も同様に魔紋を読み取られ、更に必要事項を記入する。名前、住所、在籍するクラスなど。
「ご存知の通りクナルフの周りには魔獣が少ない上に、骨のあるのも殆どいない。だから腕試しに遠征したりすることも多い。それでも初めは怪我することもあるから、絶対にあたし達の傍から離れないでね。」
「「「はーい。」」」
愈。夢への第一歩なんて格好良い言葉が浮かぶ。
「防御魔法使えない人は居ないわよね?……よし。新入部員は常に防御魔法をかけといてね。じゃあ行くよ!」
フェシュさん、普段ふざけてる割に案外真面目なんだな。こういうところ限定だと思うが。
ここに来るのは初めてだ。直ぐに内側と光景が変わるわけではないが、新鮮な気分。
少し歩くと人間の頭と同じくらいの飛行物体を遠くに認めた。鳥かと思ったが、段々と近付いてくるとそれが虫だと気付いた。水色のミツバチのような見た目。サングラスを掛けているような目をしていて少し可愛い。
「エリエーバね。撃ち落とすよ。」
"ゼリネ エシェルフェ デトニオ (石鏃) "
石のように固めた土を矢にして放つ魔法。
矢は脳天を貫き、エリエーバは地面へと落ちた。
「フェシュさんは物を動かす魔法が使えるんですね。」
流石部長。ぼく以外で魔法で物を動かせるのは、母さんとレッシュ以外見たことがなかった。と、思ったが、よく考えたら前に狩人の人もこの土の魔法を使ってたな。
「いや、あたしは使えないかな。」
「でも、今土を固めて動かしましたよね?」
「そうだけど、これは石鏃の魔法の一部だから。」
どういうことだ?
「でも石鏃は動きました。」
「うーん、なんて言うのかな。魔法で物を動かせるっていうのは、好きな物を自由自在に動かせることを言うの。この魔法の場合は、土を固めて飛ばすっていうパターンが決まってる。この土の矢を自由自在には動かせないんだよね。」
逆に自由自在に動かすことができるぼくには上手く理解できない。なんだろう、魔法発動初期段階の成形と、指向性を持たせた射出は、縦に物を動かすのとは別物と考えた方が良いのか。
「それじゃあ新入部員のお点前を見せてもらおうか。魔獣の魔臓を貫いたりするのは止めてね。ここら辺のなら被害は少ないだろうけど、爆発するから。」
魔獣に限らず、人間の場合も、魔臓を破られるとそこから魔力が一度に漏れて爆発する。だから、魔獣を斃す場合はそこ以外を攻撃しなければならない。心臓に近い位置を避ければ良いのだが、分かりにくい魔物だと苦戦する。かなり緻密な繊維の膜で出来ているようでちょっとやそっとの衝撃で破れることはないが、刺突などで狙うと敗れることもある。
"エレギュアエレク (水よ凍れ) "
"ノサール (氷柱) "
「ざんねーん。」
斃し損ねた魔獣は他の部員が屠っていく。
"ノワトルプクセ (爆発)"
「お、いけたみたいね。」
何人かの新入部員が魔獣を相手に戦う。ヘビ、カエル、鳥……前の世界の動物に似た魔獣が多いな。もしかして地球と繋がりがあったりするのかな。
「じゃあ次はシア君の番だね。」
よしきた。派手な魔法ぶっ放してやるぜ。




