権力に弱い父と魔法使いの強さ
お・も・て・な・し。お饗しなんて、ぼくは最悪の気分だ。予想通り受け入れるお父さんに辟易する。
「いやー、このニパール美味いなー。」
「うん、美味しいね。ままは料理上手だから。」
「王子様が獲ってきてくれたお陰だな。」
無視しよ。権力が絡んだときのお父さん嫌いかも。
「そういえばさ、狩人の中に討伐隊の人ってどれくらいいるの?」
「ここでは俺を入れて3人だな。狩人が32人だから10人に1人くらいだ。」
「思ったより少ないね。それだけでここ守れるの?」
「ここら辺は強い魔獣が来ないんだ。俺も年に1回呼び出されるかどうかだ。俺たちだけで無理そうだったらママを呼ぶ。」
「失礼ですが、お母様の階級は?」
黙ってご飯を食べていたエソペールさんがお母さんに尋ねる。
「私は第2です。」
「それはそれは、安心でございますね。」
王子も少し驚いた表情で話を聞いている。
「それってどれくらいなの?」
「上から第1~第7階級まであるわ。第2階級だと、討伐隊の人の100人に1人くらいはいるわよ。」
「ぱぱは?」
「……第5だ。3人に1人くらいだな。狩人の他の2人は第6。」
そんなに差があったのか。可哀想なこと訊いちゃったな。
ご飯を食べ終わってお父さんとお風呂に入る。質問責めの時間だ。
「狩人の人達って、魔法の威力を抑えてるの?」
「いや、別に抑えてはないと思うぞ。俺とか他の討伐隊メンバーは抑えてるけどな。」
「狩人の人達って魔法得意なんだよね?ままみたいなのはできないの?前に試験を受けに行った帰りに魔獣倒したときみたいなやつ。」
「学校で色々習うんだけどな、全部を理解してる人ってのはほんのひと握りなんだ。だから、魔法を使うにしてもイメージが曖昧で無駄に魔力が必要になる人が多い。あのときのママと同じくらいの魔力を込めても、ちょっと紙を燃やすくらいしかできない人の方が普通だ。」
攻撃魔法が得意とされる人達でさえあのレベルなのか……。確かに習ったからと言って全てを理解できるわけじゃないよな。授業で習うことと、それを理解することは別物だ。じゃあ例えば火を点けるときは、本当にただ火が燃える程度のイメージしかしてないのかな。
「お父さんは火の魔法を使うときはどんなこと考えてるの?」
「うーん、燃えるものと、エネジーゾっていう空気の中にあるものがくっつくイメージかな。」
有機物と酸素がくっつくくらいのイメージしかないのか。学校ではどれくらいまで習うんだろう。
「何で王子がやってたみたいに、魔法で動物を持ち上げたりとかしないの?そっちのが楽じゃん。」
「生まれつきの才能ってのがあってな……。魔力を直接操って物を動かしたりってのはできる人が少ないんだ。普通は直ぐに魔法に変えて攻撃したりする。魔力を直接操作するのは、ママはできるけど俺はできない。だから、王子様は魔法の才能に恵まれてるんだ。」
「ぼくもできるよ。」
お風呂のお湯を魔粒子で球状に囲って、お湯の球を3つ作った。お父さんはその様子を口を半開きにして眺めている。そしてぼくはお父さんの額に3連続でその球をぶつけた。
「シアー!」
お父さんは手で顔を拭うとぼくを抱き上げた。
「やっぱお前は天才だ!」
寝る時間になった。お父さんはお風呂での話を興奮気味にお母さんに話している。ぼくが自分の部屋に行こうとすると、当たり前のように王子もついてきた。ぼくがベッドに入ると一緒に入ってきたので背を向ける。まだ眠くないからベッドで少しグダグダしようと思ったのに。
「シア。」
「名前で呼ばないで。」
「シア。」
「もういいや。なに?」
大きな溜息をついて不快感を顕に返答した。
「君の母上すごいんだな。」
「ぼくのままは魔石を充電して小金稼いでる賤民だよ。」
「……ごめんなさい。今すぐ許してとは言わないけど、いつか信用してもらえるように頑張るから。」
「その思想が直ぐに直るとは思えないけどね。」
「シアのお陰で少しは変われたと思う。直ぐに分かってはもらえないだろうけど、ゆっくり信頼を得られるようにする。」
「ああそう。おやすみ。」
なんやこいつ。拒否しているのに何でそこまで友人関係を求めるんだ。前にも佐原ってのがいたな。でも、此奴には別に良くしてもらった記憶はないので、今すぐ仲良くするつもりはない。
「ちょっ……な、何すんの!……いひひひっ!やっ、やだ!止めて!」
何を思ったのかこのおもらしはぼくの脇を擽ってきやがった。昔からぼくは脇が弱い。こんな弱点まで引き継いでしまったのか。
「あ、いや、ごめん。そんな弱いと思わなくて。」
含み笑いをしながら声を震わせてそう言ってきた。
「なんなの!もう帰ってもらうよ。」
「ごめんごめん。俺にはいつもムスッとした顔しか見せてくれないから、笑ったところが見たくてさ。そっちのが良いよ。」
「別にお前以外には普通の顔してるもん。」
「シアの耳赤くなってる。……ひっ。」
正面を向いてまた首筋に息を吹きかけてやった。
「お前だって赤くなってるじゃんか。」
少しだけ、少しだけなら信用しても良いかな、そう思った。明かり消して寝よ。




