高校生① 壊れ初め
中学時代の友達といつもより長めの春休みを過ごし、高校に入学した。1学年で600人程のマンモス校だ。高校自体は平均より少し下くらいのレベルだったので、特進クラスに入ることができた。中学のときと違って、元々友達だった人はクラスにいなかった。
ちょくちょく話はしたりするが、友達と言えるほど仲が良いクラスメイトはいなかった。そんなこんなで2週間が経った。
「別れたい。」
唐突に美春からメールが来た。驚愕だった。そんな素振り一つも見せなかったのに。落ち込んでいたが、ここで縋るのは男らしくないと思い、訳も訊かず承諾した。
「分かった。」
初めての失恋は辛かった。何がいけなかったのか、当時は分からなかった。中学で仲の良かった友達には報告した。すると数日後、伊藤からメールが来た。
「言って良いのか分からないけど、知っといた方が良いと思って。」
そこにはURLが貼られていた。ぼくはやっていなかったが、流行っていたプロフィールや日記を書くサイトだ。名前を確認すると、美春が好んで使っていたハンドルネームだった。
「……。彼氏できました。颯と別れて数日で裏切っちゃったみたいでごめんね。でもいつか戻るから。……。……。」
この文言を見た瞬間、美春との楽しい思い出が蘇った。頭が混乱した。暫く泣くことしかできなかった。ここから狂い始めた。今まで表に出てこなかったぼくの負の気質が、一気に顕在化した。愛情と嫉妬と憎悪とが吹き出した。格好をつける暇はなかった。
「最後に一度だけ会いたい。」
気付くと美春にメールを送っていた。何も知らずに終われば、もう少し容易に受け容れられたはずだ。何故共通の知り合いが多く見ているところであのようなことを書いたのか。
一緒に下校したときに、何度か寄った中学のすぐ近くの公園に呼び出した。学校で喧嘩したときに、泣いている美春を慰めていた思い出が蘇る。
「お待たせ。」
「これ、どういうこと?」
早速本題に入った。
「……ごめんね。好きな人ができた。」
そんなの聞かなくても分かる。言い寄られてた男に行くために振ったんだろう。色々言いたいことがあったが、言語化する能力もなく、混乱によってそれは更に増し、結局は何も言えず終いだった。ただ声を上げて泣くしかできなかった。
何故か美春も泣いていた。美春が泣いている理由が分からなかった。
「また会いたい。まだ好きだ。」
「良いよ。いつか戻るから。」
「いつかっていつ?」
もう尊厳なんてなかった。どう思われても良いから一緒に居る時間が欲しかった。美春は会うことを快諾した。新しい彼氏から見たらぼくなんて浮気相手にしか見られないだろうが、とうに倫理観なぞなかった。
家に帰ると飼っていた犬を抱き締めた。ぼくの涙を舐めた。
ぼくも悪かったところもあったと思うが、それにしてもこの仕打ちは許容できなかった。




