王子と対峙(たいじ)
「着いたよ。」
村の外れの方に連れて来られた。何この襤褸屋敷。廃屋?ここで何か悪事を働こうとしてるんだな。本当に稚拙な発想。
「ここに泊まってるの?」
「あ、いや……、あの、泊まってるところに行く前に、見せたいものがあって。村を良くするために必要なものなんだ。」
「なんでここにあるの?何があるの?クナルフに来たばっかりだよね?なんでこんなところ知ってるの?」
「とりあえず見れば分かるよ。さあ、入って入って。」
逆恨みされているのは確かだ。何か危害を加える気なのだろう。でもぼくは魔法を使えるし、こんな小童ならやり込められることもなさそうだな。何より此奴を屈服させたい気持ちが危機感に勝ってしまった。
「何があるのかな?」
中に入ると王子も入ってきた。
「これだよ。」
縄?
"エトニャールトノック (束縛)"
基本的には被虐性愛を持っているのでショタに緊縛されるのは好きだけれど、此奴にはされたくない。
「王子様魔法使えるんだね!これで何するのー?」
「この村を良くするにはお前のような者は邪魔だ。大人しくなるように躾けてやる。」
煌びやかな装飾の魔杖をぼくの額に突き付けてそう言い放った。この歳で魔法使えるのか。そこそこ優秀なんだな。ぼくほどじゃないと思うけれど。
魔力を縄に染み込ませて操ったのかな。ぼくに触れた部分の魔力は霧散するけれど、縄の端には魔力で力を加えられる。
「助けを呼んでもここなら誰も来られないぞ。」
別に助け呼んでないんだけれどな。その科白言ってみたかったの?分かる分かる。ぼくもそういうときあるよ。
「もう魔法使えるんだ!凄いね!」
これは相手を煽るときに昔から使っている方法。しょうもない能力を衒う相手を褒め讃えて、後にぼくが凌駕してあげる。
「そうだ。俺は王族だからまともな教育を受けてるんだ。お前らと違ってな。」
「やっぱり王族の人って凄いんだね。倫理観は欠落してるみたいだけど、魔法使用免許の試験には受かったの?」
締め上げる縄に込める力を強くする。そろそろ痛いよ。
「お前如き愚民は俺の言うことを聞かなきゃいけないんだ!」
うるせえな。何に酔ってんだこいつは。
"吾が魔力よ。吾を縛めるものの共有電子対にエネルギーを与え、結合を切り離せ。"
「お、おい!何言ってんだお前!」
"エピュオク (切断) "
「ぼくも魔法使えるんだー。あ、ごめんね。びっくりさせちゃった?」
驚愕に尻餅を搗いた王子に手を貸してあげるが、王子は自力で起き上がった。
「免許は持ってるのか!?持ってないんだとしたら違法だぞ!」
「持ってるよ。後でぼくのお家に来てくれたら見せてあげる。」
「お前何歳だ。」
「この前5歳になったところだよ。」
「もしかしてノシアールか?」
「え?なんで知ってるの?怖い。もしかして、ぼくが可愛いから連れ去ろうと思って調べたの?キャータスケテ!!ヘンタイ!!」
「違う!お父様から聞いたんだ。レオールの歴代最年少に並んで試験に受かった奴が居るって。留学先にここが選ばれたのも、それが1つの理由だ。」
「じゃあぼくと仲良くしなきゃいけないんじゃない?」
「お前のような頭の悪いチビの愚民と誰が仲良くなんてするものか!」
どうやって懲らしめてやろうかな。とりあえず動きを封じてあげよう。
「ねえねえ、これ知ってる?」
ポケットから取り出した魔石を見せる。
「魔石だろ。賤民が小金を稼ぐために使ってるやつだ。」
お母さんの内職を馬鹿にされたので容赦はしないことにする。
「ぼくさ、練習して2つくらいまで充電できるようになったんだ!力比べしようよ。王子様はこれに魔力溜められる?」
このくらいの子どもにはこのくらいの陳腐な煽りが効く。
「早く魔法が使えるようになったって言ったって5歳だろ。お前如きができるものが、俺にできないわけないだろ。」
「じゃあやってみて。電気を流す感じでやればできると思うよ。一気にやるのがコツだよ。」
電気を流せたとしても、具体的なイメージはぼくにかなり劣っているだろう。魔力の変換効率はかなり悪いはずだ。仮にぼくの魔力量を上回っていたとしても、1つも充電できないはずだ。
「貸せ。俺の力を見せてやる。」
勢い良く魔力を込めた王子は途端にフラフラし始めた。
「大丈夫?無理しなくても良いんだよ。生まれつきの才能っていうのもあるしさ。」
「お、おれが……できないわけ……ないだろ!」
さらに魔力を込めたところでぼくは魔力を使って魔石を奪う。気絶されたら困るので。
「やっぱり無理みたいだね。王族って言ってもその程度か。」
「だ、黙れ……許さないぞ!」
魔力で王子に触れられたということは……。
"ピン留め"




