新しい魔法の考案
篠突く黒雨。測定誤差が大きくなるので魔法の解析はまた晴れた日にしよう。
魔法解説書には色々な魔法の例が載っているけれど、子供向けだしつやつや感興を覚えない。
いつもは庭にいるポックも今日は家の中だ。抱き着いてゴロゴロ転がりながら考える。
魔力には波動の性質もあるが物質としての性質もあるのに質量を感じない。魔力とは盍ぞや。如何で解き明かさむ。エネルギーの一種であることは確かなのだけれど、何回考えても分からない。互換性はあるんだけどな。エネルギーなのに人に帰属しているのも謎だ。自然にある魔力や他人の魔力は操作できない。
というか勝手に互換性って考えてたけれど、他のエネルギーを自分魔力に変えることはできるのだろうか。もし、他人が使った魔法によるエネルギーをぼくの魔力として使えるなら、かなり有利になるな。そうしたらそれはまるで将棋だな。
「シア、邪魔よ。あっちでやって。」
家の中を掃除しているお母さんに文句を言われた。もうちょっと優しく言ってくれても良くない?
「ねえ、他のエネルギーを自分の魔力にできないの?」
お父さんの方に移動して訊いてみた。これくらい天気が悪いとお父さんはお休みだ。
「できないぞ。」
まるで将棋じゃないな。そろそろこのネタを当て擦るのは止めよう。
「できるわよ。」
少し離れたお母さんが反応する。
「そ、そうだ。できるぞ。」
どっちなんだい!
「どっち?」
「ママに聞いてごらん。」
逃げたな。
「まま、できるの?」
「できるわよ。でも、自分の魔力にするのに使う魔力の方が大きいわ。やらない方がマシね。」
「でも、それが使えれば攻撃されたときに魔法消せるんじゃない?」
「防御の魔法使った方がマシよ。」
「そうなんだ。」
ここでまた出てくるエントロピー。魔力を他のエネルギーに変換する過程は、エントロピーの大きくなる過程なのか。[他のエネルギーを自分の魔力にするのは、炭素を燃やして出てきた二酸化炭素を、もう一度酸素と炭素に分けるようなものだ。]鯨の構文みたいになっちゃった。
[ΔG‡はどれくらい?]
周りのエネルギーを自分の魔力にするのは使い所がなさそうなので、いったん保留にしておく。有意義な使い道が見つかったときにまた考えよう。
今は新しい魔法を考えよう。面白そうな魔法ないかな。
倦んでいると、近くの木に落雷した。ポックが吃驚して部屋の端へ駆ける。
これだーー!
魔法で雷を再現してみよう。電流を流す方法は他にもありそうだが、とりあえずは雷をなるべくそのまま模倣することにした。
外に出て軒下でやろう。
「こんなに雨だ降ってるのに出かけるの?」
「ううん、ちょっと濡れないところで魔法の練習するだけだよ。」
「風も強いのに。」
「大丈夫だってー。」
お母さんの反対を押し切って外に出る。
初めに、空中に浮くくらいの小さな氷の粒を作る。
魔粒子で球を作り、上部を開けて雨水を入れる。上部を閉じて外から雨水を加熱する。沸騰しても加熱を続け、湿度が100%になると、気化した水が液体に戻る。つまりは湯気だ。空中に液体の水が浮いたエーロゾルを冷やすために、球を覆う球を二重になるように作る。外側の球を一気に膨らませる。
"断熱膨張"
暫くすると内側の膜の湯気が凍って氷晶ができる。
"ダイヤモンドダスト"
あー、カッコイイ!因みにこれは厳密にはダイヤモンドダストではないけれど、格好良いのでなんでも良い。
外側の球の下部を凹ませて内側の球に繋げる。つまり下部だけは魔粒子の膜は1枚だ。そこから更に加熱を続け、内側の膜の中では対流が起こる。内側の膜の上部を凹ませ、内部で擾乱が起こり易くする。
膜の間の温度が上がってしまわないように、もう一度外側の膜を膨らませる。この膜は物質は通さないが熱は通す。イメージとしてはガラスなのかな。
魔粒子の膜の中をぐるぐると回る氷晶は、次第に大きくなって霰程度のものも出来てくる。何度もぶつかり合って、電子が大きい粒の方に移動する。つまり、静電気が発生するのだ。
二重の膜をどちらも細長い円柱状にする。端っこを固定して、そこを中心にゆっくりと回していく。速度を上げていくと、氷同士がぶつかりながら、大きい粒が中心から離れて行く。氷を動かした力は、ぼくから見ると向心力の反作用、氷から見ると遠心力。
これで正負の電荷を分けられた。円柱を分断して球を2つ作る。そして段々とこの2つを近づけて行く。
"エルデュオフ(稲妻)"
いや、しょっぼ!予想通りだよ。予想通り。分かっていたけれど悲しい。途端に素っ気なくなった恋人とダラダラ付き合ったに振られるのと同じ。
ぼくが行った一連の操作は、地球での雷の1000億分の1程度の規模。指先から発生する静電気の方が大きいんじゃないかってレベル。
放電するまでは格好良かったんだけどな。
まあ良いや。自然現象を再現する練習をしたと思えば良い。勉強になった。大きな放電は他の方法でやろう。
「ほら、やっぱりびしょ濡れじゃない。すぐ着替えて温まりなさい。」
夢中になっていたぼくはびしょ濡れになって、家に入るなりお母さんに心配された。あと少しで真冬を迎える時期に何やってんだろ。




