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公爵様のサイコキネシス

ペンドラゴン卿の体を覆うモヤの光度が増し、明確な形を成した。卿の身体が地面からわずかに浮き上がる。


エネルギー体の鎧とでもいうべきものが、ペンドラゴン卿の身体を隙間なく包み込んだ。エネルギー体の身長は二メートル半ほど、対峙するバネ足にひけをとらない。


これが噂の〝蒼い男〟? モリーは思った。たしかに、光体の色は青白い。


〝蒼い男〟は、中身である卿の動きに連動しし、古代ローマの拳闘士のように両拳を構えた。


「来い」と、卿。


すると、バネ足が背負っていた樽のようなものから大量の湯気が吹き出し、周囲の視界が一挙に悪くなった。


モリーは科学アカデミーで聞いた〝加速〟の恩寵の話を思い出した。その少年はサラブレッド並みの速さで駆けることができるが、走り終わった後は溶けた鉄のように身体が熱くなるという。バネ足も、怪力の代償に熱を発しているのだろうか。


次いで、バネ足が地面を蹴った。巨体はふわりと浮き上がり、集合住宅の屋根に飛び乗った。屋根材が砕け、細かな破片がモリーと卿に降り注ぐ。


バネ足が屋根を踏みしだく音が遠ざかっていく。


「やつめ、真正面からでは勝ち目がないと判断したか」

卿の身体を覆っていた〝蒼い男〟が消え、わずかに宙に浮いていた体が地面に降り立つ。


モリーは彼に、にじり寄った。

「いったいどういうことですの? なぜ、あなたがここに!?」


彼女の強い口調に、卿が鼻じらむ。

「まずは命を救われたことを感謝したらどうかな? それと、淑女たるもの、いかなる時も嗜みを忘れるべきではない」


彼は、不自然にモリーの顔を凝視していた。


彼女は、ハッとした。


動きやすいよう、スカートを捲り上げていたせいで、脚が太腿まで丸出しだ。恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら、あわててスカートを下ろす。


卿が目線を下げ、彼女の大柄な身体を無遠慮に眺めた。

「怪我はないようだね」


「ええ、幸運でしたわ」


「幸運? まだそんなことを。ただの幸運で〝バネ足ジャック〟の襲撃を無傷で乗り切ったと? 誤魔化すのはそのへんにしたまえ。ぼくは君が常人ではありえない勘の良さでかわすのを見たんだ。君は間違いなく恩寵を持っている。そして、この世で隠さねばならない恩寵は〝予知〟だけだ」


「あら、わたくしが本当に予知の恩寵を持っているなら、そもそも、こうやって悪漢に襲われることを見越して、その日の外出は控えるのではありませんこと?」


「そうとも限らない。予知にもさまざまな種類がある。法則性なく無指定の未来を読み取る予知もあれば、数秒先しか読み取れない予知もある。それに、ほかの予知能力者の干渉があれば、予知した未来も変更されうる。だから、君が襲われたことは、君が予知能力者であることを否定するものではない。それどころか、襲われたからこそ、君の恩寵が予知だと断言できる」


モリーは両腕を組んだ。

「あの怪物が、わたし個人を狙ってきたとでもいうのですか?」


卿が重々しく頷く。

「その通りだ。まだ世間には公表していないが、奴は無差別殺人犯などではない。奴は、予知の恩寵を持つ者を狙っているんだ。これまでに殺害されたのは、天気予報学者、占い師、名づけ師、トレジャーハンター、株の仲買人など、みな隠してはいたが未来を見通していた人間ばかりだ」


「なぜ公表しないのです?」


「予知の恩寵持ちはただでさえ迫害されやすい。新聞沙汰になれば、一部の過激な保守主義者がバネ足の行動を模倣しかねない。ともかく、やつに襲われたということは、すなわち、君が予知を持つことの証にほかならない。たまたま、ぼくが君を尾行していなければ、間違いなく殺されていたろう」


モリーは顔をこわばらせた。

「わたしを尾行? 〝王の狩人〟の筆頭騎士が直々に? しかも、その前には早朝から我が家に押しかけているのですよ? わたしがあのバネ足に目を付けられたのは、ある意味、あなたのせいではありませんか?」


「む。たしかに、君の護衛は部下に任せるべきだったかもしれないがーー」

卿はしばし思案した後、大きく頷いた。

「いや! 奴が君を狙ったことと、ぼくが警護についていたことに、どれほどの相関があるかはわからない。そして、ここにいたのが、ぼくでなければ君は命を落としていたろう。それとも、〝予知〟で切り抜けられたとでも?」


「ですから、わたくしには予知の恩寵などないと何度もお伝えしているではありませんか」


「この期に及んでまだそんなことを」


卿の背中から青い手が伸び出し、モリー目掛けて襲いかかった。



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