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イーストエンド大爆発

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


マークは強引にメアリー嬢をダンスに引き摺り出した。


メアリーは彼の振る舞いに唖然としていたが、すぐに怒りのこもった瞳で睨み始めた。そして、彼はその瞳に引き込まれた。


やはり彼女には不可思議な魅力がある。ここまで自分というものを持っている女性にはお目にかかったことがない。


だからこそ、彼女がとんでもない相手に引っかかろうとするのを、黙って見過ごすわけにはいかないのだ。


まったく彼女はどうかしてる。マークはまたイラついた。十分な知性があるくせに、カルロマンにあっかりと騙されようとするだなんて。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


「いったい何なのですか。いまのあなたの振る舞いは、とても紳士的とはいえませんわ」


モリーは、カルロマンと踊っていたとき以上に、フロアがざわつくのを感じた。ほかの独身女性たちはさぞかしショックだろう。結婚市場人気ナンバーワンの紳士が、最も不人気なオールドミスのモントゴメリー嬢と踊っているのだから。


卿がむすっとした調子でいう。

「この場にいる紳士は、君を誘ったりしない」


いまほど、モリー自身も考えたことだったが、あらためて指摘されると腹が立つ。


「あら、さきほどはアバドーン公が踊ってくださいましたわ」

彼女は手を振り払ってダンスを終わりにしようとしたが、卿は離してくれない。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


マークは、自分の言葉を悔いた。いまの言い方では、メアリー嬢の機嫌を損ねるに決まっている。


「訂正したい。きみと踊りたがる男性がいるとしたら、まず疑問を感じるべきだ。といいたいかったんだ」


メアリー嬢が顔を顰めた。

「ええ、わたしは、おおいに疑問を感じているわ。なぜ、あなたはこうもぶしつけなのですか?」


「申し訳ない。これはぼくの性分なのです。言葉を飾らず、そのままぶつけてしまう。あなたにこんなふうに話しかければ、あなたに嫌われるということは承知しています。それでも、警告せざるを得ないのです。羊の皮を被った狼について」


「ひょっとして、アバドーン公のことですか?」


彼女は横目で、女たちに取り囲まれているカルロマンを見た。


「そうです。彼はたいへん不道徳な人物です」


「まあ、でも、わたしにはあなたの方がよほど危険ですわ。少なくともカルロマンさんは、いきなり頬を叩いてきたりはしませんもの」


「あのことは謝ります。とにかく、彼には近づかないように」


「そんなこと、あなたに指図されるいわれはありませんわ。仮に、彼がそんなに不道徳な人物だというのなら、なぜあなたがそう判断するかを説明すべきではありませんか?」


ペンドラゴン卿が顔を顰めた。

「それはいえません」


「まあ。とある人物を告発するのに、その理由は話せないだなんて。公正とはいえませんわ」


「ええ、公正ではありません。そんなことはぼくだって分かっています。しかし、これはある女性の名誉が関わっている話なのです。たしかに、ぼくの振る舞いは不公正のそしりは免れない。しかし、その汚名を着てでも、あなたに警告すべきだと考えたのです」


「まあ、ご立派。でも、そんなに心配なさる必要はありませんわ。わたしはカルロマンさんに近づこうという気はありませんから」


「まさか!」


「まさか、だなんて失礼ですわ。たしかに、わたくしは婚期を逃したオールドミスですけれど、あんなに魅力的な方には、もっとお似合いの方がいることくらい理解しています。では、これでお話は終わりですね?」


モリーは強引に手を振り解くと、早足にダンスホールを抜け出した。


ホワイトホール宮殿を出るべく玄関に向かって急いでいると、「待て!」と、ペンドラゴン卿が追いかけてきた。


彼はモリーの手をつかむと、近くの小部屋に引き摺り込んだ。


侍女たちの控えの間らしく、調度品は貴族用の部屋に比べてずいぶん劣る。ただ、小さな窓から一望できるロンドンの夜景はなかなかのものだ。トラファルガー広場のオベリスクがガス燈に照らされ、ちかちか瞬いて見えた。


「なんなのですか!?」と、モリー。


ペンドラゴン卿は彼女を強引に椅子に座らせると、自分も向かいの椅子に座った。そうして、彼女の手を握りなおす。


「君とぼくは、もっと君と話をする必要があるんだ」


モリーは思わず顔が赤くなった。


もちろん、彼はアバドーン公やバネ足の話をするのだろうけど、台詞だけ聞けば、まるで愛の告白だ。もちろん、そんなことは天地がひっくり返ってもありえないが。


「な、何を話そうというの?」


「君はぼくのことを誤解していると思うんだ」


「わたしが、誤解?」


「そうだ。君はぼくがーー」マークがさらに言葉を継ごうとしたときだった。轟音と共に、窓ガラスががたがた鳴った。


窓の外、東の空がぼんやりと紅く染まっている。


もちろん朝日ではない。炎だ。ロンドンの東、イーストエンドの方角で大爆発が起きたのだ。続け様にさらに何度か衝撃波が窓を揺らし、火球が空に登った。


「なんだ?」と、ペンドラゴン卿。


モリーは嫌な予感が止まらなかった。

イーストエンドには、グウェンドリンがいる。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


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