日下部君
日下部君は、真っ白な紙に、僕と工藤さんにわかりやすいように説明する。
「詳しく調べたんですがね。」
そう言って、紙に書きながら話す。
「一件目の被害者、春日井忍【8歳】11月11日11時に殺害。三上遥【20歳】11月11日11時に殺害。調べた所、春日井忍の幼馴染みで初恋相手。
二件目の被害者、立川幸也【9歳】12月12日12時に殺害。
丸井葉子【20歳】12月12日12時に殺害。こちらも、立川幸也の幼馴染みで初恋相手。
三件目の被害者、沢見友基【10歳】2月2日2時に殺害。日下部栞里【20歳】2月2日2時に殺害。こちらも、沢見友基の幼馴染みで初恋相手です。
四件目の被害者、鳴海隼人【11歳】3月3日3時に殺害。南沢凛子【20歳】3月3日3時殺害。こちらも、鳴海隼人の幼馴染みで初恋相手です。
五件目の被害者、相原夢子【12歳】4月4日4時に殺害。山中美代【20歳】4月4日6時に殺害。
最後の事件の被害者と、相原さんは何の接点もなく、死亡した時間も違います。」
その言葉に、工藤さんが話す。
「日下部君は、一季君を殺す予定だったって思ってるんだな?」
「はい。だから、犯人は二時間待ったのだと思っています。」
「それって…。」
「犯人は、美代さんを殺すつもりはなかった。だけど、プリンスを崇拝している犯人には、その日以外はありえなかった。そして、時間の誤差を許せる範囲も二時間しかなかったと言うことです。」
工藤さんは、その言葉に頷いていた。
「犯人が、プリンスを崇拝してるのはわかった。でも、何故、一季君を狙ったとわかるんだ?」
「それは、犯人の日記です。」
そう言うと日下部君は、紙の束を取り出した。
「これは?」
「犯人の日記の全文を見せてもらえないか頼み込みまして、マスコミ関係の人にコピーしてもらいました。」
そう言って、日下部君はそれを机の上に置いた。
「ここです。」
その指を指した部分を工藤さんが読む。
「愛するプリンスから、手紙が届いた。プリンス直々にお願いがあると言う。あの日私は、二皿の料理を口にする事が出来なかった。私のかわりに君が食べてくれないだろうか?一つの皿は、もう食べる事が出来た。恐怖に怯え、泣き叫んだ、あの顔はとても興奮した。私は、性を感じた。やはり、あの綺麗な顔が苦痛に歪むのは美しい。初めて、何も触れずに射精した。私は、あの興奮と快楽が忘れられない。もう一皿を君に託したい。何だこれ?気持ち悪いな」
工藤さんは、読み終わってそう言った。
日下部君は、僕を見つめた。
「もう、一皿が、一季さんなんですよ」
「そんなわけないだろ?」
その言葉に、日下部君は首を横にふった。
「この一皿目は、恐らく相原夢子の双子の弟の夢希さんだと俺は、思っています。そして、二皿目は一季さんです。プリンスは、どういうわけか、一季さんと夢子さんを知っていた。そして、本当は一季さんと相原姉弟を殺すつもりだった。ただ、その理由が何なのかはわかりません」
日下部君は、そう言うと珈琲を飲んだ。
「理由、わかるか?一季君」
工藤さんに言われて、僕は、首を横にふった。
「そうだよな」
工藤さんは、灰皿を取り出して煙草に火をつける。
「プリンスが、一季君を見つけていたら羨ましかったんだろうな」
ぷはーと煙をはく。
「羨ましい?」
「あぁ、あのご両親に育てられた一季君は、幸せいっぱいだ。不幸なやつってのは、幸せなやつを見つけるのが得意なんだよ。」
その言葉に、日下部君も頷いていた。