GIFTを授かるのは恥ずかしい。
「こほん……」
女性の咳払いに2人は我に返った。
仕切り直しと言わんばかりに、女性は登場シーンよりも派手に後光を背負っていた。
「私は女神アプロディアス、召喚されし者達、この世界へよくぞまいられた」
アプロディアスは右手を空にかざし、月明かりに照らされた輝く光の玉を伊万里の方へ向けた。
「伊万里、穢れのないあなたが授かるに相応しいGIFT……」
光の玉は伊万里の身体の中へ吸い込まれるように消える。
『……あ、ありがとうございます?』
「ステータスを確認するがいい」
画面を開くと、GIFTの項目に聖女と付け加えられていた。
『課長!私、聖女になりました!』
「おぉ……チート感がやばいな……。俺には何かないのか?」
「あなたはこの世界へ訪れたときに授けられています」
『なぜ、私はこのタイミングなのでしょうか?』
最初から美澄と同じように授けられていれば、GIFTがないことに落胆せずに済んだものを、と。
「伊万里はこの瞬間に30を迎えた」
『そう言えば、今日は誕生日でした』
日付変更したことで、伊万里は30歳をむかえた。
「そうなのか、おめでとう笹代さん」
『ありがとうございます』
「そして、穢れのない清い魂のものにGIFTは与えられる……」
「清い魂……とは……?」
「処女のことを言う」
『ッギャァァァアアアア!!!』
伊万里は羞恥心といたたまれなさに耐えきれず発狂した。
『ど……、どうしてそんなデリケートなことをバラすんですかぁぁ!女神様ひどいぃぃ!!』
うずくまり泣きじゃくる伊万里の横で、1人かたまる美澄がいる。
「伊万里、気にするでないぞ。美澄も」
「女神よ、待て!!待ってくれ!!!」
美澄の制止を気にかけることもなくアプロディアスは続けた。
「美澄のGIFTである賢者は、齢40を迎えている清い魂に授けられるものだ」
「ア"ァ"ァァァ……」
美澄は崩れ落ちた。
『課長……、まさか……』
あの、女性社員の憧れを一身に集めつつも鼻にかけることなく、穏やかで素敵かつ仕事もできる第一営業部課長、美澄総一朗が!
まさかの!
『課長!!童貞だったんですか!!!』
「ァ"ァ"ァ……」
美澄は灰となりサラサラと風にのった。
灰になった美澄を伊万里は必死にかき集めた。
『かちょおおお!!私を1人にしないでくださぃぃぃ!』
伊万里の手には淡い光がまとい、美澄の姿を復元させた。
「ほう……自らに呪いをかけ砂になり、聖女の奇跡で呪いを解くとは……」
女神は「こほん」と咳払いをする。
「詳しい手引きはめんどくさ…必要なさそうと見受けられる、伊万里の言う通り、元の世界へ戻りたければ魔王討伐を成し遂げるのだ……」
「いや、まだ聞きたいことが!」
女神アプロディアスの姿は徐々に薄れてゆく。
「俺はなぜこんな姿に!!」
「せいぜい私を楽しませろ……」
『……え』
「おい……、楽しませろって言わなかったか……?」
『めんどくさいも言っていました……』
最後に不穏な言葉を残し、女神は姿を消した。