上司はショタ化しました。
よくよく見れば、美澄の着ていたものと似ているサイズの合っていないだぼだぼのスーツ、首からかけられた美澄の社員証。
それにポコンッと良い音をさせた丸められた紙を戻してみれば、不備のあったあの書類たった。
『えぇぇぇ……、まさかそんな……』
「信じてくれたか?」
『で、でも美澄課長は、物腰が柔らかくて穏やかで……』
ツッコミもしなければ、格好も良く、色気もある大人の男でこんな子供であるはずがない。
天使のような少年は額に手を当てると、小さく息を吐いた。
「それは会社での私だろう……、プライベートは枯れたおっさんでしかないぞ」
『いやそんな……キラッキラ背負いながら言われましても……』
まさに天使と呼べるべく、それはそれはキラキラとしている。
美澄は伊万里の両肩に手を置いた。
碧く澄んだ瞳は伊万里をしっかりと見つめている。
「とにかく、私が美澄総一朗だ」
『わわ、わかりましたっ!』
伊万里は半信半疑にうなづいた。
「まずは現状の把握が先だ。俺達はオフィスにいたな?」
『はい』
「妙な光を背負ったな?」
『はい』
「気づいたら俺はこんな姿で、2人で森の中というわけだ」
『んー、はい』
「それと……、これだ」
美澄は何もない空間に手をかざすと、見慣れた画面を表示させた。
『これは、まるでゲームのステータス画面のようですね?』
「察しがいいな」
何もない空間に浮かび上がったそれを、ゲームのようなと表現をする伊万里に、美澄は少し驚いていた。
そこにはHP/MPやSTR.DEX.INTなど表記がされている。
『課長……STR1ですね。貧弱です』
「レベル1なんだ、仕方ないだろう!笹代さんも出せ」
見様見真似で手をかざすと画面は表示された。
『おお……課長!でました!』
「STRは……、な、なんだと……、6だと!?」
『課長よりも力持ちですね』
ふんすっと鼻を鳴らす伊万里は、美澄のステータスに気になる項目を見つけた。
『この賢者ってなんです?』
「それも含めて、話がある」
改まる美澄の様子に、伊万里はその場に正座をした。
聞く体勢はバッチリだ。
「どうやら俺達は、異世界へ召喚されたようだ……」
『なるほど!!』
伊万里はここへきて物分かりの良さを発揮した。
何故なら彼女は、とんだゲームバカであり、マンガやラノベも大好物だったからだ。
『それが賢者とどんな関わりが?』
「ここを見ろ、GIFTと書いてあるだろ?」
『はい、ありますね』
「きっと異世界チート的なものだと……」
それならば自分にもあるはずだと、伊万里はステータス画面を確認した、が。
『か……課長……、私にはGIFTがありません……』
あまりの悲しさと大きな落胆に片膝をついたところで、伊万里に再び後光が差していた。
「おま……また光ってるぞ……」
『え……』
伊万里が振り返ると、背後には光を浴びる麗しい女性の姿が浮かび上がった。
「この世界へようこそ、召喚されし者達」
「よっし!!!異世界召喚キタコレ!!!」
瞳を輝かせてガッツポーズをとる美澄に……
『元の世界に戻るには、やはり魔王討伐ですか!?』
どこかヤル気を見せる伊万里と……、2人の様子に女神は完全に出鼻を挫かれていた。