異世界転移は唐突に。
閲覧ありがとうございます。
お頭脳がちょっとお馬鹿さんなので、読みにくかったりするかもしれません。
それでも少しでも楽しんでいただければ、コレ幸いです。
いつもと変わらない日常の中でも、密かな癒しはある。
「お疲れ様です。よろしくお願いします。美澄」と、名前に劣らず美しく丁寧な文字で書かれた、付箋付きの不備のない書類。
それを提出した、第一営業部の美澄課長をひっそりと遠くから眺めることが、笹代伊万里の癒しだ。
物腰は柔らかく、人当たりも良くて仕事もできる。
そして何より……素敵に年を重ねたからこそ醸し出されるであろう色気と、整った顔の作りに、しゃきっと延びた背筋……と、あげはじめるとキリのない賛辞を払拭するように、集中力を書類に戻した。
(あれ……?)
いつもなら不備のない書類のはずが、なければならない押印の欄は空欄になっていた。
(珍しいなぁ……)
時計を見ると、あと15分で業務は終わる。
今から押印をもらいに行けば、処理はギリギリ間に合う時間だった。
伊万里は書類を片手に第一営業部へ向かった。
業務時間内の第一営業部内は営業職なだけあり静まり返り、1番奥のデスクには美澄が腰を掛けている。
『お疲れ様です、美澄課長』
「お疲れ様です、笹代さん」
今この時に向けられる穏やかな微笑みは、自分への最高のご褒美だと伊万里は心の中で両手を合わせた。
しかし浸っている時間はない。
さっそく本題を切り出した。
『美澄課長、こちらの書類に不備がございまして』
美澄のデスクに書類を置き、不備を指した。
「あぁ……申し訳ない。うっかりしていたようだね」
『いえ、今から戻れば処理も間に合いますので大丈夫です』
「わざわざありがとう」
押印をする美澄を眺めていると、丁寧な所作からか後光が差すような錯覚に陥った。
(美しさに脳内エフェクトが……)
徐々に光が増してゆくエフェクトに、伊万里は目を閉じて鼻梁をキュッと指でつまんだ。
目を開けてみても、エフェクトは光を増すばかりだ。
『課長……光ってますよ……』
美澄も鼻梁をつまんでいた。
「笹代さんも……光っているようだが……」
エフェクトはお互いに浮き上がっているようだ。
『え……、何でしょうか、これは……』
「ははは、疲れでもでたかな」
現実逃避をするように美澄はどこか遠くを見つめていた。
『課長!!現実逃避している場合では-
ありません-と続けた声は、自身の耳にも届かなかった。
いっそう眩く2人を包み込んだ。
「笹代さん……、笹代さん!起きてください!」
なんだかとても美しく可愛らしい声が、伊万里を揺り起こしている。
『……んぅ』
「笹代さん!」
そう、肩をつかみ遠慮なくガクガクと。
『……ん…、んぁ……、まっ……』
伊万里は勢い良く上体を起こした。
『痛っっ!なに!?』
「起きましたか……」
『あれ……』
目の前には自分を揺り起こしたであろう、天使のようなそれはめたくそ可愛らしい少年がいる。
そして辺りを見渡せば、目に映るのは身に覚えのない森のような場所。
『ここここ、ここここっこ、ここどこっ』
「笹代さん、落ち着いて……」
記憶が正しければ、書類の不備があり美澄に押印をもらっているところに、妙な光が現れ……
『そうだ……、か……課長!美澄課長!!』
「はい」
天使のような少年が返事をしている。
『……美澄課長を……知っているの?』
「私だ……笹代さん」
どこからどう見ても天使のような少年だ。
『いやいや……いやいやいやいや……』
しかし、良く見てみると美澄と同じ金髪碧眼に白い肌と、面影がないとも言えなくはない。
……となると。
『ま……、まさか……君は』
「わかってくれましたか」
『みみ、み、美澄課長のかくし子!?』
「違うわ!!!」
天使のような少年は、何かを丸めた紙でポコンッと伊万里の頭を叩いた。
『え』
「私が美澄総一朗だ」
『うぇぇぇぇぇ……!?』
伊万里の声は辺り一面に響き渡った。