表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春巡る  作者: 伽倶夜咲良
2/5

2. 蒲田八幡神社

 蒲田八幡神社は京急の高架線路のガード沿いに南に進んで5分もかからない場所にある。

 最初の大きめの交差点を右に曲がるとすぐ先に大きな鳥居が見えてくる。

 見えてくるんだけど……鳥居のすぐ横のところが工事現場のような白い鉄の防護壁に覆われていた。

 もしかして工事中?お参りできない?御朱印拝受できないの?


 想像もしていなかった事態にドキドキしながら、恐る恐る鳥居の中を覗いてみる。

 奥の方にお賽銭箱らしいものが見える。

 お参りをしている風な人も見える。

 とりあえず中に入ってみよう。

 鳥居前で一礼をして、鳥居から奥に続く石畳を進んで行く。右手に立つ防護壁の威圧感が半端ない。奥に見えていたのはやっぱりお賽銭箱だった。実際の拝殿は覆われていてそちらには入っていけないが、仮設置(かりせっち)のように置かれた賽銭箱の前でお参りはできるようになっていた。


 『御朱印受付』と書かれた立て看板もある。

 御朱印拝受できるという安心感にほっとして、まずは、神様にお参りすることにした。

 お参りを済ませ、案内板が指すとおり左り手を向くと授与所が見える。

 授与所の窓に近づいて中を少し覗き込むようにして見ているとすぐに巫女装束を着た若い女の子が中から窓を開けてくれた。


 可愛らしい顔つきの女の子だ。私よりも若い。十八ぐらいだろうか?いや、もしかして高校生の助勤(じょきん)(バイト)さんかな?白衣(しらぎぬ)緋袴(ひばかま)にきっちりと身を包んだその姿はまぶしく見えた。その表情は軽く微笑んで口角がきゅっと上がっている。


「御朱印ですか?」

「はい」

 そう応えながらも巫女様の顔から目が離せない。


 ――うぅ、あたしってやっぱりオヤジっぽいのかなぁ。彼氏見つけて結婚なんて当分無理そう。夕べの母の言葉を思い出して、「ママ、ごめんなさい」なんて思いがふと浮かんでしまった。でもでも、可愛い女の子を愛でて幸せな気分になるのは、男も女も関係ないよね!世界共通、人類皆共通の感覚だよね!きっと!……たぶん……


「御朱印は兼務社のものも書きますか?」


 そんなバカな思いに耽っていると可愛い巫女様がまた声をかけてくれた。


「兼務社さんの御朱印もこちらでいただいた方がいいんでしょうか?」

「はい。ここでしか書いておりませんので」

「そうなんですね。それでは全ての御朱印をお願いします」

 そう返事しながら御朱印帳をバッグから取り出しページを開いて手渡した。

「順番はどうしますか?」

「え?順番ってあるんですか?」

「ご自身が廻った順番で書いてください。と仰られる方もいらっしゃいますので」


 ――わぁ、そんなことまで気を遣ってくれるんだ。なんて優しいんだろう。その気遣いと、丁寧にゆっくりと話すその口調に心がほっこりとする。


「あ、なるほど。順番にはこだわらないので標準的なものがあればそれでお願いします」

「はい、わかりました。手書きで書いておりますので三・四十分お待たせしてしまいますがよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

「それでは、ここにお名前を書いてください」


差し出された受付用紙に名前を書いて手渡すと、軽く微笑むように会釈して静かに窓を閉めて巫女様は部屋の中に下がっていった。


 授与所から数歩下がって、邪魔にならなさそうなところで待つことにした。

 そうして待っている間にも何名もの人が訪れて参拝してゆく。

 御朱印をお願いしている人。すでに受付済みで御朱印帳を受け取りに来た人。参拝だけして帰っていく人。お父さんと小さな女の子の二人連れ。授与所の窓口に並べられたかわいいお守りを女の子が手に取って何か話している。ご高齢の男性と女性の二人連れが鳥居の方からゆっくりとした足取りで歩いてくる。永年連れ添ったご夫婦だろうか?年の離れた女性の二人連れも御朱印をお願いしたりしている。親娘だろうか?こうして待っているだけの僅かな時間の間にも多くの人が参拝にみえている。


 今はそのほとんどが工事中で狭くなっている境内だけど、本来はたくさんの人達に親しまれた立派な神社なんだということがよくわかる。

 工事が終わった頃にもう一度来たい。そんなことを考えているうちに時間が経ったのだろう。授与所の窓が開いて私の名前を呼んでくれている。


 授与所の窓口まで行くと、先ほど手渡した御朱印帳を一頁々々丁寧に捲りながら今書かれたばかりの御朱印を見せて確認をさせてくれた。墨や印が他の頁に写らないように頁ごとに紙が挟んである。

 手書きならではのこういう気配りは本当に嬉しい。

 書き置きの御朱印とは違った趣を感じる。人の心遣いが加味されているからだろうか。


 初穂料をお支払いして御朱印帳を受け取りお礼を言って授与所を後にした。


 ここからが私の恒例行事、拝殿をバックに頂いたばかりの御朱印を広げて自撮りで写真を撮るのだ。

 他の参拝の人たちの邪魔にならないように気を付けながら『蒲田八幡神社』の御朱印が書かれた頁を広げて(金色で押された鳳凰だろうか?印が美しい)、少し高めに掲げるような形でスマホのシャッターを押した。撮れた写真を確認して……うん、満足です!


 さあ、次の神社へと、元来た鳥居の方に足を進めたが、入ってくる時には気がつかなかったお稲荷様の境内社が右手の奥にあった。


 お稲荷様の像の足下に白黒ブチの猫が一匹、隠れるようにこっそりと顔だけ出してこちらを覗いている。

 目の周りと耳の部分が黒くてちょっとパンダを連想させる模様がかわいい。

 しゃがみこんで、おいでおいでのポーズをしてみたが猫ちゃんは警戒しているようでこちらをじっと見ているだけでピクリとも動く様子はない。ここの神社で飼ってる猫かな?首輪とかは付いていないけど、それとも野良ちゃんかな?

 少しの間そうして猫ちゃんとお見合いをしていたが諦めて立ち上がった。


 帰り際に鳥居横に掲示されていた工事案内の看板を読んでみた。『蒲田八幡神社復興六十周年 御社殿改修事業』とある。平成三十年八月竣工予定とも書いてある。


 ――今年の八月、絶対、また来よう!


 鳥居前で一礼して蒲田八幡神社を後にした。次は『北野神社』だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ