彼女の夢
<基本形>
「あなたと海が見たいの」
<ささやかな夢>
「あなたの海が見たいの」
<少し遠い夢>
「彼方の海が見たいの」
<壮大な夢>
「七つの海が見たいの」
<もはや夢というより野望>
「七つの海を股に掛けたいの」
<世界政府樹立>
「七つの海を私のものにしたいの」
そう言って彼女は手を差し出した。
「まずは世界の海上交通網を抑え、エネルギーサプライチェーンに影響力を持つ。次は陸運、鉄道よ。世界の物流を牛耳れば、どれほど偉そうな顔をしている独裁者も、私の言うことを無視できなくなる」
彼女の瞳には、自らの未来を疑わぬ強い光がある。その強い、強すぎる光は、見る者を魅了してやまない。しかし光が強いほど浮かび上がる影も濃い、とは使い古されたフレーズだった。おそらく彼女は失敗するだろう。自らの光であぶりだされた、世界の濃く深い闇に飲まれて。
「私に力を貸しなさい。下らぬ理不尽、無意味な不条理、私がすべて踏み砕いてみせる」
しかし、と青年は思った。濃く深い闇を知る者がいれば、闇を制御するものがそばに居れば、彼女の野望は果たされるかもしれない。闇を引き受け、闇に染まり、光を守る者がそばに居れば、彼女の輝きはやがて世界を遍く照らす希望となるかもしれない。そしておそらくは、それができるのは自分しかいないだろう。闇に染まり、闇に沈みきった自分しか。
「お前がお前自身の言葉を裏切ったら、俺に後ろから刺されることになるぞ」
彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「それは、承諾と受け取って構わないわね?」
ふんっと鼻を鳴らし、青年はやや乱暴に彼女の手を取った。
何者だよ青年。




