8. 65日前_内装を決めよう!
「ジョアンナ。
例の殿下のお茶会。内装は決まったか?」
「はい。本日、装飾課よりデザイン画が上がってきましたので、これから王妃殿下に、お持ちする予定です。」
「今回は、オージアス殿下じゃないんすか?」
「ええ。今、殿下は外遊に出られているから、王妃殿下に確認するようにと、お達しがあったのよ。」
「へえ。」
「それでは、部長。ちょっと行ってきます。」
「おう!気を付けてな。」
そうして、私は、20分程度王宮内を歩き
王妃殿下の執務室の警備兵に取次を頼む。
「第三王子部ジョアンナ・カールストンです。王妃殿下にお取次ぎをお願いします。」
「確認してまいります。少々お待ちを。」
「どうぞ、お入りください。」
見ると、豪奢なドレスを着たご婦人が王妃殿下の向かえに座られていた。
「ジョアンナ、ごきげんよう。」
「ご機嫌麗しく、王妃殿下。
申し訳ございません。ご来客中とは、存じませんで。出直してまります。」
「ふふ。気にしないで。ワーグマン夫人とは、初めてかしら。
ワーグマン夫人。こちらは、オージアスの所の文官のジョアンナ。とても優秀なのよ。」
「妃殿下、お褒めいただきありがとうございます。
ワーグマン夫人。お初にお目にかかります。ジョアンナ・カールストンと申します。」
「まあ、綺麗なお顔の文官さんね。
それにしても、お名前が女の子みたいね。お母様は、女の子をご所望だったのかしら?」
と口元を扇で隠しながら、クスッと笑う。
「あら、ワーグマン夫人。ジョアンナは、女性ですよ。」
「え?あら、そうなの?ごめんなさいね。わたくし、文官だときいて、男性だとばっかり。それにドレスもお召しになっていないから。気を悪くされたら、ごめんなさいね。」
「いえ。文官も武官同様、男女関係なくトラウザーズの制服で統一されておりますので。それに、スカートの裾を気にせずできるので、仕事がしやすいのですよ。」
「そうなの。ふふ。男装の麗人ですわね。」
と上から下までじっくり隅々まで見られたような気がした。
「はあ。」
「ジョアンナ。今日は、私に用事があったのでしょう?何かしら。」
「あ、はい。お茶会の内装デザインが出来上がりましたので、ご確認をお願いしたく。
こちらになります。」
「まあ、素敵ね。」
「そうですわね。」
「それでは、こちらで話を進めさせていただき...。」
「王妃様。オージアス殿下の紋って、何でございましょう?」
ん?
「オージアス?あの子は、カルーナよ。」
「花言葉は、“誠実”でしたかしら?素敵な花ですわよね。」
話が見えない...。
「王妃様、水仙だけでなく、カルーナも混ぜてはいかがでしょう?
妃殿下とオージアス殿下、二人の紋をあしらった花があると、とても素敵ではありませんか!せっかくのオージアス殿下のお茶会ですもの。より一層華やかで素敵なお茶会が演出できると思いますわ!」
は?
今からカルーナを用意するの?
この後、部に戻る途中で、装飾課に寄って、内装デザインの修正依頼を出して...って事は、カトラリーやナプキン等の配色も多少変更の必要が出てくるな、お召し物も、変更が必要か...部分的な変更で大丈夫だろうか。
あ~招待状、あと最終チェックがすんだら送るだけなのに!これも変更必要かも。最悪、予算は別の所から予算を引っ張ってくるとして...(多分、怒られるけど)
そもそも、今から間に合うか?
と高速で、頭の中で算段していると、二人のご婦人は、どんどん話が盛り上がっていき、気がつけば、なんだかとても豪華なお茶会に変貌していっていた。
「ワーグマン夫人。ただ、申し訳ないのだけれど、カルーナの花は、そんなにないのよ。多少は王宮の温室にあるのですが、夫人がご提案していただいたような案だと、この季節では、とても賄えないわ。」
ナイス!王妃殿下!!
「ご安心ください!王妃殿下!
わたくしの知り合いの農場で手に入りますわ!」
!!!
目的は、それか!
◇◇◇
「という事で、明後日もう一度、王妃殿下とワーグマン夫人にデザイン画を見せる事となりました。既に、装飾課には連絡済みです。」
「なんで、そんなことになったんだ?」
「そう言われましても。」
「あ、部長!ジョアンナさん!
第四が、なんであんな壮大なお茶会になったか、仕入れてきましたよ!最初は、そこまでじゃなかったらしいんですが、どっかの夫人が介入したせいで、あんなことになったらしいっす。」
「どっかの夫人?」
「そうっす!ワー何とか夫人?とかなんとか。」
「ひょっとしてそれ、ワーグマン夫人じゃないでしょうね?」
「おお!それです、それです!」
「アーノルド!一歩遅い!!」
「はぁ~。」
「へ?まさか。」
「今、そのワーグマン夫人により、我が第三部は、大幅変更の危機に陥っている!」
「ええぇぇぇ!いつのまに!」
「でも、不思議ね。王妃殿下、その事ご存じないようでしたよ。
しかも、第四のお茶会、褒めてませんでしたし。」
「あっちは、直接、ドゥエイン殿下が窓口だったらしいっす。なんでも、年始めの晩餐会に夫人と意気投合しちゃったらしくて、誰も止められずに、最終的にすごいことに。」
「オージアス殿下では、そうはいかないから、王妃殿下の方に行ったって感じか。」
「そう考えられますね。」
「アーノルド。悪いんだけど、これから大至急で、カルーナの花の市場価格調査をお願い。もし、可能だったら夫人の知り合いという農園のカルーナの売値も調べられると助かるわ。ついでに、合わせて水仙もお願い。なんか、カルーナだけじゃ終わりそうにない気がする...。私は、これから、その他の変更案と試算表作成するわ。」
「了解です。
え、でもこれこのまま進めちゃうんですか?
オージアス殿下に、反対されそうっすけど。」
「ああ、反対するだろうな。」
「ええ、間違いなく反対しますね。」
「反対するのに、調べるっすか?」
「反対させる為に、調べるのよ!」
「へ?」
ワーグマン夫人。
内務大臣の正妻。大きな商会の出だというけれど。
なかなか、剛腕な夫人のようだ。
しかも、日程的に、まだ何とか間に合いそうな頃合い、そして、オージアス殿下が外遊中を見計らって、提案してくるところが、あざとい。
そう思いながら、私は、この週も誰もいない部内で、資料作成に勤しむ。
あ~今日も、月がとっても綺麗だ...。(棒読み)
◇◇◇
そして、
外遊から帰ってきたオージアス殿下に、私は呼び出された。
「やあ、ジョアンナ。忙しい所、呼び出して悪いね。」
「いえ。」
「私が外遊中に提出してくれた資料について、ちょっと聞いておきたくてね。
これって、何で、こんなに予算が膨らんでしまったんだろう。説明してもらえるかな。」
「はい。王妃殿下のご希望を加味しますと、このようなことに。」
「でも、それを調整するのが、君の仕事だよね。」
「ごもっともです。」
「...と言えれば楽なんだけど、まあ、ワーグマン夫人と母のタッグじゃ、君では止められないよね。この件、私から、母上に断っておくから。」
「承知いたしました。」
「ここは、私の腕の見せ所かな。君たちは当初の予定通りに動いて。ところで、この資料作るの大変だっただろう。とても、わかりやすいから、助かるよ。」
「ありがとうございます。」
良かった。殿下に、通じた。
「ところで、殿下。先日は、お忙しい中、お菓子をお送りいただきまして、誠にありがとうございました!」
「気に入ってもらえたかな?」
「はい!どれも素敵なお菓子で!あんなに沢山サンプル品があるので、悩んでしまいました。」
「ん?」
「それでは、私はこれで、失礼いたします。」
「...サンプル品。」
と言いながら、肩を揺らしているケネスさんに、私は不思議に思いながらも殿下の執務室を辞した。
◇◇◇
「ところで、アーノルド」
「はい、何でしょう?」
「第四には、“借り”を作りたくないって、言ってたけど、良くあの情報取ってこれたわね。」
「あーあれっすか?ちょっと“貸し”が出来たんで。」
とアーノルドは悪い顔をする。
「?」
「聞きます?」
「いや、いいわ。何か聞かない方が良い気がしてきた。」
「えー、聞いてくださいよー!」
「いや、いいって!」