18. 10日前_スキャンダルはやめよう!
「ジョアンナ。
すまんが、キャンセルが1件でた。」
「承知しました。 シェパード伯爵令嬢ですね。」
「お!わかってるじゃないか!」
「そりゃあ、そうっすよ!今一番の社交界のスキャンダルっすもんね!」
「護衛兵士と駆け落ちですもんね。」
「アーノルド、エルマ!本当の事を口にしない!」
「「はーい!」」
「表向き、病気に伏している為、ご欠席。という事ですね。」
「ああ、そういうこった。」
「承知いたしました。」
という事は、少し調整が必要かな...。あとお茶会までちょっとだし頑張らなくては。
「ねえ、ちょっと!そこのあなた!ねえってば!」
「ん?おや、これはビビアーナ様」
くそ!またエリオットの奴、妹を中に入れやがって。
部長から注意を促してもらったのに...。
「この前のお菓子どうだったか、殿下から聞いてないかしら?」
「どうでしょう?お渡しはいたしましたが、感想までは。私も、殿下の執務室付けではございませんので。」
「そうなの?」
「ええ。」
「ねえ!今日こそは、オージアス殿下にお会いできるのよね?」
「申し訳ございません。本日も終日会議が入っておりまして。」
「そうな訳ないわ!お兄様が今日は、殿下は一日執務室っておっしゃってたもの!」
チッ!アイツよけいな事を!
「ねえ、あなた!私を殿下に会わせない為に、適当な事言ってるでしょ?」
「いえ、そのようなことは。」
「いいから、会わせなさいよ!」
「申し訳ございません。今、確認を...」
「んん?あら、あなた、結構綺麗な顔してるじゃない!」
「はぁ?」
「ねえ、あなた私の所で雇ってあげるわ!どうせ、ここで下級文官しているってことは、爵位もどうせないんでしょ!」
「申し訳ございません。確かに、私には、爵位はございませんが、ここで働き続けたく...。」
「も~!!あれも駄目、これも駄目って!私を誰だと思っているのよ!」
え~!宰相の所の駄目令嬢?
「もう!いいわ!私にも考えがあるんだから!」
と言ったと思ったら突然
「きゃーーーー!誰か!誰か来て~!」
とビビアーナ嬢は叫び出し、あっと間に王宮内を警備している騎士達がこちらに向かってきた。
「どうされました、ご令嬢!」
「こ、この方が、わたくしに、ふふふ不埒な真似を!」
は?
はぁ~?
あれよあれよ言う間に、騎士だけでなく、叫び声を聞きつけた文官たちも集まり始め、大きな騒ぎとなってしまった。即座に私と彼女は、それぞれ別室へと入れられ、事情を聴かれ、数日間、処分の結果がでるまで自宅謹慎となった。
そして、数日後、部長に呼ばれ、職場である第三部に向かう。
「すまん、ジョアンナ。お前をかばいきれなかった。二週間の謹慎だ。」
「何でですか!絶対あの女の虚言だって、わかるじゃないですか!部長!」
「いいのよ。エルマ。」
「てか、ジョアンナさん。いつから百合の世界へ?」
「アーノルドは、黙ってろ!」
「俺は、お前がそんなことをするような人間ではない事は、充分わかっている!お前が女だとも申し上げたんだがな。宰相の所のご令嬢という事もあり、無罪放免にはならなかった。」
「いえ。謹んで受けいたします。免職処分にならなかっただけでも、御の字です。私の為に、ありがとうございました。」
「えっ、ちょっと待ってください!二週間の謹慎ってことは、お茶会はどうするんですか?」
「あの後、こうなる事も考えてたから、謹慎中だったけど、引き継ぎ書作っておいたわ。部長とも相談したんだけど、当日のオペレーションは、アーノルド。あなたにお願いしたいの。」
「...さすが、先輩。」
「そもそも、関係者以外立ち入り禁止のエリアに、呑気なご令嬢が入り込んでいるのが問題じゃないですか!」
「まあ、それも問題にはなったんだがな。マクベイン次男が目を離した隙に、“気づかずに”入り込んだ。という事で彼には、口頭注意が下だった。」
「口頭注意って...。」
「ていうか、あの令嬢、こんな騒動起こして、どうしたかったんでしょうね。こんな騒動起こしたら、殿下には良い印象残さないし、他のご令嬢達だって避けるし、それこそ噂になったら社交界に居られなくなるだろうに。」
「ん~そこで、箝口令の意味も含め二週間の謹慎で手を打ったんだろ。」
「いや、それ全然、箝口令の意味なさないですよ!むしろ現実味があるというか。」
「ジョアンナさん。何も悪くないのに...。すみません。あの時、私がちゃんと対処できなかったせいで。」
「エルマのせいじゃないわ。気にしないで。
まあ、しょうがない!少しのんびりしてくるわ!アーノルド、あとは頼んだわ!」
「へい。」
「部長、私は、これから二週間の謹慎に入りますので。アーノルドと共に殿下への担当者変更の挨拶をお願いできますか。」
「ああ、まかせとけ。」
◇
本当に。彼女どうしたかったんだろ。
多分、自分のわがまま通したかっただけで、後の事考えてなかったんだろうな。
噂は回るだろう。
てことは、貴族に明るいあの商家だから、私の縁談も立ち切れだな、きっと。
それよりも、上手く立ち回れなかった自分が情けないし、
せっかくお茶会の統括に抜擢してくれた部長にも申し訳ない。
とりあえず私は、トボトボと自分の官舎に戻る為、出口に向かって廊下を歩く。
「ジョー!」
「殿下。」
「ジョー。大丈夫?」
「殿下。大変申し訳ございません!せっかくの殿下のお茶会にケチがついた形になってしまいまして。最後まで、殿下のお茶会バックアップしようと思ったんですが...。このようなことになってしまい、すみません。
私の代わりはアーノルドになります。ちょっとお調子者ですが、仕事はしっかりしてますので!」
あ~駄目だ。
あ、やだ、目がかすんできた。
駄目、ここで泣いちゃ。駄目よ。駄目だったら。
涙を見られたくなくて、思わず俯いてします。
と、気がつくと殿下の胸に抱き寄せられていた。
どの位の間、彼の胸に抱き寄せられていたのだろう。
長かったような気もするし、一瞬だった気もする...。
「ジョー...ごめん。」
と言った殿下の声で、我に返る。
「で、殿下。何謝ってるんですか!殿下、駄目ですよ!ほらっ、離してください!
また別の変な噂がたっちゃうじゃないですか!」
「あ、ああ。すまない。」
「殿下。ちょっと、私、謹慎してきます。謹慎明けたら、またビシバシこき使ってくださいね!
では!」
そして、私は謹慎の為、自分の部屋のある官舎へと戻った。