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お茶会狂想曲  作者: 鹿島きいろ
17/30

17. 15日前_警備内容を確認しよう!

「ジョアンナ。警備体制どんな塩梅だ?」


「はい。今日の午後に最終打ち合わせを行う予定ですので、明日には部長に、最終形態のご報告ができると思います。」


「了解。」



今回のお茶会は、第三と第四が合同になり、警備範囲が広がり、警備対象も増えた為、練り直しになった。


第三の警備隊は、まだいい。第四の警備隊と一緒に練らなければならないのが、気が重い。まあ、第四部の文官達が一緒だから、まだ大丈夫か。



「よう!どうしたそんな雨が降りそうな顔をして。」


「兄上。いえ、大したことでは。

今日の会議よろしくお願いいたします。」


「おう!まかせとけ!というか、今日は、お前が進行なんだろ?頑張れよ!」


「ありがとうございます。」



兄のアンドリューは、第三部の警備隊、つまりオージアス殿下の警備隊で副隊長をしている。通常、我が家の家格では、兄の歳で副隊長は、珍しいのだが、殿下の乳兄弟という事もあり、副隊長に抜擢されたのだった。もちろん、それ相応実力があってこそだが。


妹の私が言うのもなんだが、兄は、かなりの努力家だ。殿下の乳兄弟だからという甘えは全くなく、ちゃんと自分の実力をつけて上がってきた。性格も快活で、人当たりも良く、顔も良い為、女性には結構モテていたらしいが、三年前に結婚し、子供も生まれ、今は良きパパぶりを発揮している。



「そういや、お前、今度お見合いするんだって?」


「ええ。」


「いいのか?結婚となったら、文官辞めなきゃだろ?」


「まあ、まだ決まったわけではないし。最後のチャンスかなっと思って。」


「......お前、好いてる奴とかいないのか?」


「やだな。そんな人居たら、こんなに仕事人間になってないわよ。」


「それもそうか。無理に結婚しなくていいんだからな。家だってそんな野望を持った家じゃないし。」


「ええ。わかってるわ。ありがとう。」



「おや、カールストン兄妹じゃないですか。」


「マクレナン隊長。本日は、お忙しい中会議にご出席いただき、誠にありがとうございます。」


「いえいえ、第三部と第四部の合同お茶会ですからね。私が参加しないと、まとまるものも、まとまらないでしょう。第三部の方々には、荷が重すぎて。それにしても、もう少し早く合同にすると決められなかったんですかね。まあ、所詮女のあなたでは、無理なのですかね。」


隣にいた兄が、グッと力を入れ何かを言おうとしていたが、裾を引っ張り、私は止める。


「マクレナン隊長。私の力不足で、申し訳ございません。思いのほかオージアス殿下が人気でして。隊長のお力添えがあってこそかと思いますので、当日もどうぞよろしくお願いいたします。」


「まあ、いいでしょう。」

と上からチラと私を見ると満足したのか、去っていった。


「兄上。あれは私に売られた喧嘩なので、兄上が、あえて買わなくて良いのですよ。」


「単純なパワーの差であれば、男女差あるが、文官で男女差なんかないだろ。」


「ありがとう。でも、あれ位ならまだマシな方よ。言うだけ言ったら、さっさと退散してくれるし。彼なら、仕事に手を抜くこともないし。」


「でもよ。兄としては、妹が侮られてるのを見ると面白くない。いつまでも頼れる兄貴でありたいんだよ。」


「じゃあ、今回の警備、妹の為にも頑張ってよ。」


「了解!困ったら、なんでも言えよ!」


「ありがとう。」


本当に、あれ位だったら、本当にカワイイわ。


第三部のみんなは、男女関係なく同僚として受け入れてくれる。たぶん、部長のドレイパー氏の人柄が大いに関係しているだろう。自分の実力がなかったのは確かだが、前の部では、何か失敗する度に「これだから女は、駄目だな。」と言われたものだ。


同じ失敗やそれ以上の失敗をした男の同僚も居たが、「これだから、男は!」と言われている所を見たことがない。まあ、怒る方も男なのだから「これだから、男は!」とは言わないか。


思い出すと、性差を盾に、色々言われたし、嫌がらせもあったし、下品なことをあえて言われたり、一夜のお誘いやら、愛人のお誘いやらがあったが、あの頃は当たり前のように“しょうがない”と受け止めていた。もちろん、お誘い関連は、頑張って断っていたが。


今となっては、ちゃんと“おかしい”と思えるのは、やはり部長のおかげだろう。とはいえ、今日のように、他の部とも仕事をすると、やはり否応なく出てくる。まあ、あの頃の経験があるから、こうやってちゃんと対処出来ているとも言えるのだが。





そして今、私は、

同じ女性からも、性別を武器にえぐられている。


「やはり、女性の幸せは、結婚ですわよね。」


「そうですとも!ですからね。いつまでも、文官の真似事をしているこの子が心配で。私も、可愛い姪っ子には、幸せを掴んでほしいと思いまして、この場を設けさせていただきましたのよ!やはり、女に生まれてきたからには、旦那様と子供に囲まれた生活を送るという幸せが、必要でしょう?」


「まあ、ファーナム夫人たら、なんと姪っ子思いなのでしょう!」


「ほほほほほ。」


いや、真似事ではなく、“ちゃんと”文官なのだが...。


確かに、お見合い結婚一択しかなかった時代を生きた彼女達には、そう見えるのかもしれない。私の年代でも、その下の年代でもそう思っている女性は多い。私も、その考え方を否定しない。ただ、他の生き方があっても良いんじゃないだろうか。


「うちの子もね、良い歳をして、フラフラしていて、まだ身を固めていないものですからね。しっかりとした女性に任せた方が良いと思いまして。」


と息子の話に移った所で、私の注意は、今回のもう一人の主役である男性に向かう。


母親と叔母の話をにこにこしながら、聞いている。

先ほどから母親しかしゃべっていないが、雰囲気から察するに、穏やかな人なのかもしれない。普段、良くも悪くも癖のある同僚に囲まれているせいか、新鮮だ。


上級貴族であれば、小さな頃から許嫁がいたり、政略結婚を前提にしたお見合いが、主流だが、うちのような下級の貴族であれば、嫡男でもない限り、政略結婚は古い慣習となってきている。それこそ、平民と恋愛結婚をするのも、だいぶ一般的になってはきている。お見合いも、前時代のように、強制力はあまりなく、もう少し本人たちに自由度がある。


今回のお見合い相手は、まあまあ大きな商家の次男だった。今は、家業を手伝っているらしい。確かに、見る限り、とても紳士的で、洗練されている雰囲気がある。どこぞの宰相の次男のように、下品な笑みを浮かべることもなければ、どこぞの後輩のように、語尾に“っす”と付けることもない。


次に、知りえる中で一番上等な男と比べそうになり、慌てて止めた。それは、あまりにも両者に失礼だ。そもそも、他の男性と比べる事自体、失礼ではないか。と考えていると



「それでは、後は若いお二人で!」としばしのフリータイムが設けられた。



「コナー様は、実家のご商売を継いだとお伺いしました。」


「そうですね、昔からある商会なんですけどね、父親の代でだいぶ、商売が広がりましたので、私はその、ほんのお手伝いですよ。」


「まあ、そんな事はないでしょう!叔母が申しておりましてよ。とても優秀な方ですと。」


「ありがとうございます。」


同僚達が聞いたら噴出されそうな、普段自分が使わない言葉遣いに、自分も違和感を感じえないが、これは、何とも良い滑りだしなのでは!


「ジョアンナさんは、王宮にお勤めだと。」


「はい。最初は、財務部に配属になりました。」


「そうですか!立派なお仕事だ!女性が文官になるには、さぞや大変だったのでしょうね。」


「いえ、そんなことは...。」


「まだまだ男性が多い職場だと聞いております。今も色々とご苦労が絶えないのではないでしょうか?」


「ええ。でも、遣り甲斐もありますし、働いていれば、色々ございますでしょう?」


そう言うとしばらくは、お互いの仕事での失敗談などで盛り上がった。


「もし、ご縁があって、あなたと結婚できたのならば...私は、あなたに、そんな苦労をしてほしくない。こんなに可憐なあなたには、苦労することなく、家に居て、私の為だけに、微笑んでいただきたいのです。」


と、うっとりとした顔で言われてた所で、叔母たちが戻ってきて、その日は解散となった。

後日、先方からは、話を進めたいと返事が来て、叔母は喜んでいたが、私は、素直に喜べなかった。


彼は、彼が仕事に外に出ている間、私には家に居て、彼の為だけに、微笑んでほしいと言っていた。


つまりは、今の仕事を辞めるのが、前提の話だ。

まあ、嫁に行くのだ。当然だろう。

私は、どうしたいのだろう。


叔母の言う“女の幸せ”を逃す程、文官の仕事を続けたいのだろうか。




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