16. 25日前_ 賄賂には気を付けよう!
「なあ、ジョアンナ。
最近、なんだか上位貴族の皆様からの差し入れが多い気がするんだが、気のせいか?」
「間違いなく、気のせいではないですね。お茶会を発表する前と比べて約5倍に増えてます。」
「やっぱり!って事は、そろそろ、もう一度職員に釘差しとくか~。」
「そうですね。」
「何の事ですか?」
「そっか、エルマ初めてだったか。お茶会が近づくとね。色々と皆様“動き回る”のよ?」
「??」
「あ~そうっすね。前回の第四も結構“エグかった”らしいっすよ。」
「やっぱり!」
「そろそろ、賄賂の類が、ぞくぞく来るぞ!」
「えええ!」
「でも、何で今頃なんですか?もっと早くからすれば、優位になるのに。」
「そこはだな、一応、紳士協定的なものがあるからな。」
「領地が遠ければ、招待状が届くのも遅いから、心づけをするのも遅くなる...。から皆さんフェアに、一斉にスタートダッシュしましょう的!な感じかしらね。」
「一斉とはいえ、動き始めるのは、高位の家順とか、色々と細かい慣習があるっすけどね。」
「まあ、皆さんやる事はやるから、紳士協定もクソもないんだがな。」
「なるほど!でも、まあ、私みたいなペーペーには、お菓子のおすそ分け位で、あんまり関係なさそうですね!」
「「あまい!」」
「そうよ!チョコレートにキャラメルソースをかける位甘いわ!」
「ヒッ!」
「上も下も関係なく、来るのがこの時期だ!」
「そうね、例えば、お菓子の差し入れなんて、みんなやるわ。殿下にそれとなく、自分の娘を殿下に褒めてほしいとかは、序の口。酷いと、気に入らない令嬢にそっと下剤を混ぜろとか色々来るのよ。」
「それに巻き込まれて、上手く立ち回らないと、最悪失職だからな。」
「ひえ~。」
「いい!エルマ!絶対に個人で何か貰わないようにね!貰っても、必ず部長か私に報告しなさい!」
と、エルマに言いつつも、おそらくターゲットになりやすいのは、部長と現場責任者の私だ。今日も、かれこれ3件そういった類のお願いが来ている。なんとか、お断りをし、部長に報告はしているが。
これからの事を色々考えながら、廊下を歩いていると、何やら前方であたふたしているエルマがいた。よく見ると、この執務棟では見かけない、カラフルでフリフリなドレスを着たご令嬢に何やら、言い募られている。
「ですから、規則ですので、お受けできません!」
「あなたでは、埒が明かないから、上の人を呼んできなさい!」
上手く捌けないか...
「申し訳ございません。彼女がどうかしましたでしょうか?」
「誰よ、あなた!」
「失礼いたしました。私は、彼女の上席の者になりますカールストンと申します。」
「そう。殿下にお目通りを願いたいのだけど。」
「申し訳ございません。殿下は今、緊急の会議に入っておりまして。あと数時間は戻られないかと。」
「そうなの?まあ、いいわ!じゃあ、これを渡して頂戴!当家で作ったお菓子よ。」
「こちらは規則となっておりますので、お受け取りが出来ないのですが、今回“特別に”お預かりいたしますね。」
「あなた、わかってるじゃない!」
「恐れ入りますが、あなた様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ビビアーナ・マクベインよ。」
マクベイン...。
「ビビアーナ様ですね。承知いたしました。ちなみに、本日は、お兄様がこちらまで案内されたのでしょうか?」
「あら、エリオットお兄様をご存じなの?」
「ええ。」
「そうよ!エリオットお兄様が、入り口まで案内してくれたの!」
やっぱり!本当にあいつ碌な事しないな。
宰相家大丈夫か。
おかしいな、長男は優秀なんだけどな。
「それでは、こちらは、ドゥエイン殿下にという事で。」
「違うわ!オージアス殿下よ!ドゥエイン殿下じゃないわ!オージアス殿下の方がまじめだし、かっこいいじゃない!」
「そうですね。」
「それでは、あなた!頼んだわよ!」
「エルマ、ビビアーノ様を下までご案内を!」
「はは、はい!」
そして、エルマとビビアーノ嬢の姿が見えなくなるまで見送ると、声を掛ける。
「モテモテですね、殿下。」
「あまりうれしくないな...。」
と後ろの廊下の物陰からオージアス殿下が出てきた。
「空気を呼んで、そちらに留まっていただき、ありがとうございました。」
「いや、大した事ないよ。」
「良かったですね。まじめで、かっこいいらしいですよ。」
「...。」
「残念ですが、このお菓子は、こちらで一旦お預かりいたしますね。たぶん大丈夫だとは思いますが、市販品ではない場合は、特に何が含まれているか、わからないので。」
「ああ、頼む。
ところで、君からはないの?私へのお菓子。」
「私ですか?」
「ジョーのだったら、毒見もなしで食べれるでしょ?昔は、しょっちゅうくれたんだし。」
「はあ。」
「ねえ、ジョー。君は、もう僕の事、オーディーとは呼んでくれないの?」
「いえ。一文官がそのように呼ぶのは。」
「ねえ、ジョー。僕は君が」
「殿下!私今度、お見合いするんです!年齢的にも最後かな~って思ってるんで、いい人だったら、お受けしようと思ってるんです。殿下も応援してくださいね!私も今回のお茶会、殿下の為に、頑張りますので!」
と言うだけ言って、私は、また殿下から逃げ出した。
「すみません、殿下、お待たせいたしました!」
「...。」
「殿下?もしもーし、殿下―?どうしましたぁ?」
「ああ、ケネスか、何でもないよ。」