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お茶会狂想曲  作者: 鹿島きいろ
15/30

15. 殿下と私と私の事情

私の初恋の相手は、オージアス殿下だ。


小さい頃から、殿下の乳兄弟だった兄に引っ付いて、三人で良く遊んだものだ。殿下も兄も私を、可愛がってくれていたが、兄よりも丁寧に自分の事を扱ってくれる殿下に、淡い恋心を抱いていたのだと思う。


とは言え、ずいぶん子供だった為、特に何かするわけでもなく、ただ三人で一緒に遊んでいただけだった。天体観測の時に、確かに求婚されたが、あれは、カウントするべきではないだろう。



転機が訪れたのは、殿下が婚約したという話を母から聞いた時だと思う。婚約がどういう意味なのかは、解らないほど子供でもなかった私は、自分の気持ちが、きっと物語に出てくる“ソレ”なのだと自覚したのだった。そして、私では、殿下のお妃さまになれないのも、分かっている位は、成長していた。


だが、急に会うのをやめられる程、自分の心は強くなく、徐々に会う日を減らし、彼を「オーディー様」から「殿下」と変える事により、なんとか自分の気持ちに折り合いをつける事にしたのだった。


そういえば、殿下と兄が参加して、自分が参加できないお茶会が何度かあって、自分も行きたいと駄々をこねては、母を困らせたことを思いだした。きっとあれは、殿下の許嫁選定のお茶会だったのだろう。と、ふと今更ながら思い出す。そりゃあ、乳兄弟の兄は参加できても、何の関係もない私が、ましてや殿下の婚約者選び、参加できるわけがないわ。



その後、兄は、殿下をお守りするにふさわしい人物になると言って、士官学校に入った。


その頃の私は、なんとなくこのままどこかに嫁ぐのだろうなと、ぼんやり思っていたのだったが、ある日、母に文官を目指してはどうかと勧められたのだった。王妃殿下の肝いりの政策として女子教育が充実するようになり、その後の受け入れ先として文官の道が、女子にも開く事となったらしい。そして、女の子を持つ乳母だった母に、王妃殿下が声をかけたらしい。


母がその話を持ってきた頃、殆ど接点がなくなり、会う事もなかった殿下と私。会ったと言えば、(いや、あれは、お見掛けしたというべきだろう)デビュタントの晩餐会の時だった。


少し位は、話ができるかもと淡き期待を持って、参加した晩餐会だった。一人一人、挨拶をする為に、陛下の元へ訪れるのだが、そこに列席していた殿下は、婚約者の侯爵令嬢と、とても仲睦まじい様子だった。


それを見た私は、胸がとても痛かった。一体、私は彼に何を期待していたのかと、自分の気持ちに、思わず笑ってしまった。自分では、既に自分の気持ちに折り合いをつけていたつもりでいたけれど、どうもそうではなかったらしい。むしろ、幼き日よりも、拗らせていたような気がする。


この気持ちは、本当にそろそろ切り替えるべきだろうな、とわかっていても、一度会って再燃してしそうな残り火をどうしようかと持て余していた矢先の文官の話だった。そうだ、文官として、彼を支えるのはどうだろうか。彼の隣に寄り添う事は無理でも、別の方法で彼を支えられたら、それはそれで、素晴らしいのではないか。


それに、ひょっとしたら、遠くからでも、運良くお見掛けする事もあるかもと、未練たらしく下心を持って文官を目指したのだが、文官になる為の勉強が、意外と自分に合っていたらしく、縁故採用の道を探さなくとも、無事文官になる事が出来たのだった。



無事に文官になった翌年、殿下の婚約者がお亡くなりになり、周りが次の殿下の婚約者は誰になるのかと話が盛り上がっていたが、もうその頃には、良くも悪くも無邪気だった自分は、そこにはおらず、殿下に婚約者がいなくなったからといって、自分が、その座に座れると思う事はなく、ただひたすら文官として、国の為に頑張る日々だった。



そして、私は今、幼き日に母親に駄々をこねて、「参加したい!」と言っていた“殿下のお茶会”の準備をせっせと行っている。




なんとも、人生とは不思議なものだ。



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