14. 30日前_夜は早めに帰ろう!
「ジョアンナ。ちょっと良いか?」
「はい、何でしょうか。部長。」
「例の殿下のお茶会の準備は、どんな感じだ?」
「はい。会場に関しては、一緒にキャンセルが出ていた水仙の間の隣の会場を使用して、2会場にします。当初予定していた着席形式を取りやめ、立食形式に変更し、自由に行き来できる事を想定しております。隣の会場を、念の為、押さえておいて正解でした!
カトラリー等は、在庫がございましたので、問題ございません。
装飾品等に関しては、当初予定していたアイテムでは足りなかったのですが、水仙関連の装飾は他にもございましたので、装飾部が綺麗にデザインしていただけました。こちらが、その装飾デザインです。」
「うん。なかなか上品なデザインで良いんじゃないか。
そもそも、良くこの話に第四が乗ってきたな。」
「あ~、前回のせいっすね。前回の10分の1費用に抑えろって言われてて、頭抱えてた所に、うちからの提案が来たんで、渡りに船だったらしいっす。ドゥエイン殿下も反省しているらしく、そのままオージアス殿下に追随するらしいので、説得する手間が省けるとかで。しかも、大枠は、出来上がってるから、彼らも楽もできるって、むしろ感謝されました!」
「なるほど。」
「それにしても、本当に良かったっすね~水仙にしておいて。」
「本当だな。シーズンと王妃殿下の水仙をぶつけて正解だったな。流用できるアイテムが沢山あるから、困ることはない!」
「参加者に関しては、男女合わせて70名に。ちなみに、男子20名、女子50名になります。」
「うわ~。圧倒的に令嬢率、高!」
「それは、そうだろう。表向きは、王妃殿下の気軽なお茶会だが、本当は、お妃候補選びの為のお茶会なんだ。」
「前回の第四のお茶会とメンバーがあまり被っていなかったらしく、新たにお声がけしようと思っていたキーパーソンもそもそも含まれていたそうで、第四からの要請で増えた人数も許容の範囲でしたので、すんなり選定出来ました。
招待状に関しても、次の“良き日”に発送可能ですが、お茶会当日まで日が差し迫っているので、別途各家に、予め打診を昨日行っております。また、既に招待状を送っている家にも、ドゥエイン王子が加わった旨を記した招待状を改めて送る予定です。」
「まあ、向こうが無理やり押し込んできたんだ。多少招待状が遅れても文句は言わないだろう。よし、これを文章に纏めたら、陛下達に報告するぞ。」
「了解いたしました。」
◇◇◇
「はぁ~。とりあえず。今日は、ここまでにするか~。」
気がつけば、部の人間は既にみんな帰っており、またしても私一人になっていた。
「結構、いい時間だわ...。明日もあるし、今日はこれで帰るか。」
私の家は、王宮内にある武官と一緒の合同官舎だ。
男性は、どちらも人数が多いので、文官、武官それぞれ官舎が分かれているのだが、女性はどちらも少ないので、合同である。
ずっと頭使ってて、頭だけさえちゃって寝られそうにないわね...頭切り替える為にも、今日は、少し王宮を散歩しながら帰るかな。星も綺麗だしね...。
コツ コツ コツ コツ
コツ コツ コツ コツ
え?誰か付いてきてる?
コツコツコツコツ
コツコツコツコツ
しかも、近づいてきてる?
なんで私、散歩って言わず、さっさと帰らなかったんだ!
コツコツコツコツ
ひ~!!
「ジョアンナ?」
「へ?」
「あ、やっぱり、ジョアンナだ!」
「殿下?」
「こんな遅くまで仕事?」
「はい。お茶会の資料を作っていたら、こんな時間になってしまって。」
「明日、再度、父上の前で発表だっけ?」
「はい。」
「いつもこんなに帰り遅いの?無理してるんじゃない?」
「...いえ、そんな事は。
殿下こそ、どうしたんですか?侍従もつけずに。」
「うん、最近運動不足でね。さんぽ。安心して。護衛は、離れた所でついてきてるから。」
「そうですか。」
「官舎に帰るんでしょ?途中まで送っていくよ。」
「いえ、恐れ多いので、遠慮しておきます。
それに、こんな夜更けに女性と歩いて、噂になったら、殿下にご迷惑かかりますし。」
「私は、それでもかまわないよ。」
「え?」
「いや、君は今ドレスも着ていないし、髪もひとまとめにしている。明かりがあるとはいえ、暗いからね。たぶん、普通に文官と歩いてると思われるだけだよ。」
「まあ、文官には、違いありませんけど...。」
「ねえ、ジョー。」
「はい。何でしょう、殿下。」
「...。
昔、アンドリューと三人で、天体観測したの、覚えてる?」
「また、ずいぶん昔の話を。
ええ、もちろん。天体観測と言いつつ、帰りは、完全に肝試しでしたけど。
しかも、兄上ったら、一番図体が大きかったのに、草むらから音がしたと思ったら、ビックリして、私たち置いてどっかに行ってしまって!。」
「そうそう、あの時のアンドリューの逃げ足は速かった!しかも、その草むらから出てきたの猫だったんだよな。」
「ふふ。そうでしたね。」
「ねえ、ジョー。あの時、約束した事、覚えてる?」
「...。え と。
あの頃、なんだか沢山いろいろ約束してましたからね~。なんだったかしら?」
「ねえ、ジョー。」
「あ、もうすぐ官舎に着きますね!それでは、私はここで失礼いたします。殿下、夜遅くにありがとうございました!それでは、明日!」
「あ...。」
はぁーーー、あの殿下。何言いだそうとしているのよ...
後一か月したら、お茶会だって言うのに。
しかも、私担当者じゃない!
しかも、しかもだ、統括という名の現場責任者!
ひょっとしたら、違う事を言うつもりだったのかもしれない。
でも、そうじゃなかったとしたら?
聞いてしまったら、終わりだ。
うん、かなり怪しかったが、話の切り上げ方は、あれで良かった。そう思おう。
~~~~~~
「ねえ、ジョー。」
「なあに、オーディー様?」
「お、大人になったらさ」
「はい。」
「ぼくのお妃さまになってよ。」
「もちろん、よろこんで!」