10. 55日前_手土産を決めよう!
「ジョアンナ。
例の殿下のお茶会。手土産は、確定か?」
「先日ご報告した通り、水仙の花をあしらった陶器の器に、お菓子を入れる予定です。なお、お茶菓子に関しては、先日、殿下から頂いたお菓子の中から、本日、王妃殿下とローラ王女の侍女からアンケートを採って、決める予定です。」
「お前、また食べずに終わるんじゃないか?殿下から賜った菓子...。」
「少しは食べましたよ。この前のお茶菓子選ぶのに、必要だったので。それに、せっかく殿下から頂いたサンプル品として頂いたものですし、有効活用すべきかと。」
「そ、そうか。まあ、お前も、少しは食べないと、人任せになってしまうだろ。」
「それも、そうですね。侍女達に出す前に、私も一種類ずつ、もう一度食べますかね。」
「おう!そうしとけ!是非とも、そうしてくれ!」
「? あ、それと部長。」
「ん、なんだ?来週のお休み、もう一日お休み追加でいただきたいのですが。」
「ああ、構わんよ。お茶会まで、まだ日数あるし。
なんだ、お前、領地にでも帰って、お見合いか?」
「まあ、そんな所ですかね。」
「は、マジか!」
「まあ、今回は詳細を聞きに実家に戻るだけなので、実際の顔合わせは、もう少し先かと。」
「そ、そうか。」
「どう考えても行き遅れている自分に、今更縁談。とも思い、何かの手違いの可能性もありますので、実家に行って、確認してまいります。ですので、この件はご内密に。」
「おう。」
◇
さてと、準備しますか。
「アーノルド、エルマ。準備手伝って!」
「「はい!」」
「まずは、この5種類のお菓子を、二つに分けて、計10皿にしてちょうだい。それと、一から五の番号札をそれぞれに立ててね。」
「はい!ところで、ジョアンナさん。何で、5種類なんですか?殿下が贈ってくださったお菓子って、もっと種類ありましたよね?」
「そうね。沢山あっても、人ってね、迷ってしまって選びきれないのよね。しかも、何十人からも聞くわけじゃないから、意見がばらけてしまったら収集がつかなくなってしまうし。それで、予め選びやすいように、ある程度絞ってあるのよ。」
「へ~。」
「ちなみに、なんで王妃殿下とローラ殿下の両方の侍女なんですか?」
「確かに、どっちかで良い気がする。」
「対象のご令息やご令嬢がローラ殿下とその侍女達と同じ年ごろだから、彼女達に選んでもらったのであれば間違いはないだろうけど、それと同時にお土産でしょう?」
「そうですね。」
「彼らが屋敷に戻ったら、必ず彼らの母たちが確認するわ。その時に変な物と言われないように王妃殿下と同じ年ごろの侍女たちに確認が必要なのよ。彼女達が気に入れば、絶対に社交界で色々と良い評判を広めてくれるわ。」
「確かに彼女達の口コミは、何といっても絶大ですからね。」
「特に今回は、名だたる高位貴族方々だしね。」
「はぁ~色々考えているんすね。」
「そりゃあね。あなた達も、頑張って策を巡らせなさい。」
「「はーい!!」」
「で、ジョアンナは、どのお菓子が好きなの?」
「私ですか?私は、そうですね...最初に殿下から頂いたお菓子なんですが、このパステルカラーの砂糖でコーティングされた...」
「!!」
「「殿下‼」」
「ああ、気にしないで。今日選ぶって聞いて、ちょっとみんなをねぎらいに。」
「あ、ありがとうございます。」
ちょっと、殿下、距離近くありませんか?
気がつくと殿下は、私のすぐ左後ろに立っていた。
「で、ジョアンナは、これがお気に入りなの?」
み、耳元で話しかけるの、ヤメテほしいんですけど!
「そ、そうですね。」
「そう。」
「殿下、そろそろお時間が。」
「了解。それでは、みんな頑張ってね。」
「「「はい!!」」」
「はぁ~。ビックリした。」
「私、着任のご挨拶以来ですよ!」
「前々から気になってたんすけど、殿下とジョアンナさんって結構、気安いっ仲っすよね。この前も一緒に招待状探してくれましたし。」
「何それ!私、聞いてない!」
「...。」
「直接、殿下に報告行くようになると、直接お声がけいただけるようになるんすかね?」
はぁ~。
「兄がね、殿下の乳兄弟なのよ。それでじゃない?小さな頃に会ってるし。」
「へ?初耳ですよ!」
「あら、言ってなかったかしら?まあ、大っぴらに言う事じゃないし。そもそも、乳兄弟って言っても、乳兄弟は兄だし、王妃殿下もそんなに乳母丸投げじゃなかったら。私は、おまけのおまけって所かしらね。」
「いや~それでも、今までそんな素振り、ジョアンナさんなかったんで、全然わかんなかったっす!がっつり他の王族と対応変わらなかったし。」
「そりゃあ、仕事だもの。公私混同はしないわよ。
ハイッ!この話はこれでお仕舞!仕事!仕事!
そろそろ、集まってくるわよ!」
丁度良いタイミングで、扉のノックが聞こえた。
「どうぞ!お入り下さい!」
「お久しぶりです!お姉さまぁ!」
と可愛らしい少女が、私に抱き着かんばかりに、勢いよく寄ってくる。
「この前会ったばかりじゃないですか。ジュディさん。今日は、忙しい所ありがとうございます。」
「お姉さま。是非、ジュディとおっしゃって!“ジュディさん”なんてそんな他人行儀な。
それに、忙しいだなんて、そのような事、お気になさらないで。わたくしとお姉さまの仲じゃありませんの。」
「ははは。」
「今日は、お姉さまの為に、皆様を連れてきましたの。」
「本当にありがとうございます。それでは、ジュディ。この5種類のお菓子を一つずつ食べて、一番のお気に入りを、この紙に書いて、出入り口の箱に入れてもらえますでしょうか。」
「ええ!もちろんですわ!
さあ、皆さん!お聞きになったでしょう!」
「何アレ?」と呟く、壁近くに立っていたエルマ。
「さ、さあ...」と答えるその隣にいるアーノルド。
うん、わかる。わかるよ~。
私も最初そうだったからね~。
ジュディは、この国の第二王女ローラ様の侍女の一人。王女の侍女なので、なかなか身分が高い。通常であれば、私のような文官で、下級貴族とこんなに気安い仲にはならない。だが、以前、彼女がある貴族の令息に、宮中の廊下で絡まれている時に、ちょっと助けたら、以来、彼女にこのように懐かれてしまった。
そして、その後、令息がこちらにちょっかいを出してくるようになり、その都度対処するのが面倒になったのだが...
彼女は、最初、私の事を男だと思ったらしいが、女と気がついてからは、なぜか「お姉さま」と呼ぶようになってしまった。文末にハートマークが見え隠れするような気がするが、たぶん、気のせいだ。後から聞いた話だと、隣国の革命時を舞台に描いた小説の中に、男装した女将軍が活躍する物があったらしく、その人物を私に重ねているらしい。
私、腕っぷしはからっきしですけどね...。
◇◇◇
「それでは、集計結果をお伝えしまーす。」
「はいはい。」
「ローラ王女殿下の侍女達の一番人気は、2番のチョコレートクッキー
王妃殿下の侍女達の一番人気は、5番の紅茶のフィナンシェです。」
ちなみに、二番人気も被ってません!」
「...。」
「どうします?」
「こりゃあ、嫁姑で揉めるのも無理ないわな...。」と言った部長のコメントがなんだか、実感めいていたのは、気のせいだろうか。
すみません。
今週末も諸事情によりお休みいたします。
次回の投稿は週明け月曜を予定してます。