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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神舞刀鬼 桃太郎

作者: if

はじめまして、ifと申します。

人生初めての投稿です。

思いつきで書いた単話ですが、面白いと思っていただければ幸いです。

よろしくお願いします。

昔々のその昔のお話...


とある処に、子供に恵まれない爺婆が居た。

ある日、川から流れてきた桃を食べた爺婆は若返り、珠のような男の子を授かった。

桃を食べ授かった事から、生まれた子は桃太郎と名づけられ、幸せに老婆老爺に養われ、すくすくと立派な偉丈夫へと成長した。

その頃、世には悪しき鬼が蔓延り、人々は疲弊し・その心も荒んでいた。

彼は鬼を退治する為、鬼が巣くう鬼ヶ島へ出征した。

道中で犬・猿・雉を供とし、見事鬼を退治し財宝を持ち、郷里に凱旋するのだった。

めでたし、めでたし。


そう物語は締め括られ、数百年の時が流れ・・・・・・・・・・・・


********************************************************************************


令和元年O県某日某所...


ミーンミンミンミーン・・・


ミーンミンミンミーン・・・


「あぁっ、あっついな~もぅ~!」

「ゴクッゴクッゴクッ、かぁ---っ! 冷えた麦茶が、おいし~いな~~」

「はぁ~、でも暑い~~~。 ばあちゃ、クーラー点けてよ~~~~」

「わっけえ者が昼まっから、なぁ~に言ってるだ。 扇風機があるべさ?」


ぶぅ~~ん・・・


近くの電気店で買った安物の扇風機が、10畳ほどの部屋で1台首を回している。

昔ながらの古い作りの家で、当然クーラーなんかありません。

土がむき出しの庭と青々とした生垣、ちょっと視線を上げれば同じような、のどかな田園風景が部屋から見える。

縁側では婆ちゃんが母さんと、畑で取れた作物等を仕分けしている。


そう! 俺はただ今絶賛、両親の田舎へ帰省中なのだ!

超が付くほどの、ど田舎なのだぁ! だぁだぁだぁ・・・

近くにコンビには無いし、ネットもきてないし、夜は街灯も無く真っ暗だし・・・

住人も50人ぐらいで、大半が年寄りの所謂、限界集落ってやつだ。


そりゃ幼い頃は近所にも、同年代の子達が沢山いて、沢や山でと遊んだりしたけどさ。

その子達も田舎を出て町へ行き、すでにこの辺りには誰も居ない・・・・・・はぁ~~~。


「ほらほら、桃舞(とうま)。 暑い暑い言ってないで、その辺でも散歩してらっしゃい」

「へいへ~い」


俺の名は、樹神(こだま)。 樹神 桃舞 17歳。

変わった名前だって? そうなんだよな~。 なんでか俺の家って、男の名前に必ず”桃”の字が入るんだ。

親父の名前なんて、桃次郎だぜ? 死んじゃったけど、じいちゃは桃翁だし。

何でなんだろう。 あんまり気にしたこと無かったけど、ずっとご先祖様から続いてるって、何か意味があってのことなのかな? って、まあいっか!


畦道をぶらぶらと歩きつつ、外れの神社へ向かってみる。

理由は無い。 狭い集落だから、別に行く宛も無いし、なんとなくといった感じだ。

日差しはきついが木々のざわめきと、道に落ちる木陰と吹きぬける風が心地いい。

脇の用水路を覗きこみ、涼やかな水の流れと音を聴き、流れの脇では沢蟹が顔を出していた。


幼き日に思いを馳せつつも、神社の前に着いたので石葺の階段を上り、鳥居を潜って境内に入っていく。

生い茂る木々が日差しを遮り、零れる日の光が辺りを彩る。

手前の社務所に誰も居なかったので、拝殿へと歩みを進めると・・・


「そういえば、じいちゃとよく此処で、舞の練習をしてたっけ・・・」


手前の神楽殿を見つつ思い出す。

幼い頃から父さんに舞の練習を受けてきたが、それは帰省する度じいちゃからも、この場所で幾度となく受け続けてきた。 所謂、神楽舞と言うものだ。

子供が舞の練習って言うと、嫌がるものって思うけど、俺は別に嫌じゃなかった。

何よりじいちゃの舞が、幼いながらに美しく感じ・・・・・・


********************************************************************************


『シャン、シャン、シャン・・・』


金色と朱の色彩に、鈴を結び付た衣装を纏い。

腰には弓なりの、大太刀を佩く偉丈夫がひとり。

燃ゆる篝火の、爆ぜる音が静かに鳴る。


ぱちっ・・・ぱきっ、ぱちぱち・・・・・・


舞台の中ほどまで進み出、袖を大きく振り上げ舞い上がる。

次の瞬間、太刀が抜き放たれ、篝火に妖しく刀身を光らせ、静と動の動き毎に軌跡を描き、幻想的な光景を現出させていく。


舞台を縦横に動き回る事無く、ただ、ただその場にて、静謐に太刀を振るい舞い謳う。

舞えば舞う程に、太刀が十重二十重に移ろいゆく。

そは、何かを想い。 何かを慈しみ。 何かを憂い。 何かを哀れみ。 何かを儚み。 何かを(おく)る。


あの夜とこの夜の狭間にて、焔に舞う羽虫の様に・・・・・・


気が付けば、太刀も仕舞われ、舞いも仕舞われる。

篝火が燻り、余韻に鳴る鈴の音。

夜闇と共に、静寂の帳が舞い落ちる。


********************************************************************************


ぼーっと神楽殿を眺め、舞の日の夜を思い出していると・・・


「おぉ、桃舞じゃないか。 よう来たな」

「・・・あっ、宮司様。 ご無沙汰しています」

「なんじゃ、堅苦しいな。 昔みたいに、呼んでくれや」

「えっと・・・義八(ぎはち)おじさん。 お久しぶりです」

「おお、おお、ほんに久しぶりじゃ。 こげなとこで、何を呆けとったんじゃ?」

「いや、じいちゃの舞を思い出して・・・」

「おお、桃翁のな~。 あれは、美しいものじゃったて~」


この人は、守田(ももた) 義八。

この邑魂(くにたま)神社の、宮司を代々受け継いでる家系で、俺の家とは遠い親戚筋に当たるそうだ。

父さんが言ってたけど、姓の守田も元々は桃だったそうだ。


「ほんで~、夏休みに帰って来たか」

「あぁ、ばあちゃも寂しいだろうからって、父さんたちと昨日帰ってきました」

「ほうか、ほうか、そりゃ~ええ。 孝行せにゃあな~」


おっと、話が長くなり、そう・・・・・・ん?

本殿の建物の右奥に、ひっそりと在る石の祠が目についた。

あんな祠、在ったっけ?

なんて言うか、あそこだけ真っ黒というか、回りの景色と比べて異質というか。


『ォォォオオオオオ・・・・・・・・・・・・』


「ん? どうしたぁ~? あぁ、あの祠だなや」

「義八おじさん、あの祠って・・・」

「あぁ、ありゃ、近づいちゃなんねぇぞ? 鬼に祟られっぞ?」

「えっ? 鬼って、あの鬼ですか?」

「んだ、んだ。 おりゃぁ? 桃舞は、御伽噺知らんかの?」

「御伽噺って、何の話です?」

「ほれぇ~、桃太郎だぁ~」

「えっ! あの桃太郎!? 桃から産まれて、犬・猿・雉を家来にしてって言う」

「そんだ。 ありゃ、実際にあった話だぞ。」

「あの祠はその昔ここらを、荒らした鬼を封じとるんだなや。 だで、触ったり壊したりしたら、なんねぇ~ぞ?」


何だそりゃ。

子供の頃に読んでもらった物語が、実在した事だったって言われても・・・誰も信じないでしょ。

そう思ってると、義八おじさんが・・・


「んじゃま、ちぃ~~っと話すかのぉ~」

「まっ、社務所に移動するけ。 年取ると、立ってるのも疲れるだでよ」

「ほれ、こっちゃ来い。 ほれっ、ほれっ」


後に付いて、社務所へ向かう。

中に入ると椅子を勧められ、おじさんは給湯室へ行ってしまった。

少し待つと、お茶とお菓子を持って戻ってきた。


「えっこらしょ~っと、あぁ歳は取りたくないの~」

「ほれ、茶飲め、菓子も食えって」


喉も渇いてたので、お茶を啜る。

にしても、おじさんにとっては、俺は今でも幼い頃のまんまなんだな。

何か、ほっこりするような感覚と、じいちゃが居た頃が儚げに・・・


「はぁ~、茶うまいか?」

「んじゃ、何から噺すかのぉ~」


********************************************************************************


昔々のその昔...


時の都やその周辺の地域に、まつろわぬ邪な(もの)が蔓延った。

邪な鬼は、丑と寅の間の方角(北東)である「鬼門」からやって来た。

世は災害と飢饉で人死にが続き、人々の心は苛まれ・怨嗟の渦が渦巻いていた。

その都度鬼は現れ、更に人心は疲弊していった。


鬼とは主に、人の怨嗟の『念』から生み出された負のエネルギーの集合体であった。

本来それは長い年月を経る必要があるが、稀に「場」と呼ばれる特殊な場で、短時間で『念』に転化することがあり、世に怨嗟の念が満ち満ちる事で、『念』の濃い溜り場が各地に溢れた。


人々は神に祈り、一心に救いを求めた。

人々の祈りを受けた神は、近くに生えた木に桃を3つ実らせた。

人々は喜びその実を取ると、鬼に向かって投げつけると、たちまちのうちに退散した。


また、神はひとりの人に桃を食べさせ、「鬼門」の鬼に対抗して、十二方位の動物(サルトリ=キジ)、イヌ)を率い、それらを封じ昇華して回って行かせた。

封じる様は、白く舞い散る雪のようとも、紫に舞い散る羽のようとも、朱き舞い散る華のようとも・・・

そうして鬼は封じ昇華され、世に平和と安寧が訪れたのだった。


********************************************************************************


「ちゅう、噺じゃなぁ~。 どぅじゃ? すごいじゃろ? この時桃を食べたのが、お前さんのご先祖様じゃ」

「またのぉ~、申・酉・戌じゃがな。 これは動物では無く、唯一鬼を昇華する剣らしいんじゃ」

「言い伝えでは・・・」



戌・真神(まかみ):狼の牙を模した双剣

雉・建比良鳥(たけひらとり):鳥の羽を模した両刃剣

猿・猿田彦(さるたひこ):鬼灯の様に朱く照り輝く七尺の太刀



「と言われておるが、現物はわしも在るかは知らん・・・」

「さあさあ年寄りの噺は、これまでにするかのぉ~」

「・・・・・・ぷっ、あははははっ。 義八おじさん? 本気で、そんな御伽噺信じてるの?」

「ぶふっ、ごめんよ。 でも、そんなの作り噺に決まってるじゃないか」

「まぁ~、そうさのぉ~。 事の真偽はわしには分からんが、この村落で生まれ育った者はみな、言い伝えを信じ血脈を守ってきた」

「じゃがぁ~、この社ももう跡を継ぐ者も居らんし、昔噺の与太噺として廃れていっても、仕方がないのかもしれんのぉ~」

「はあぁ~~、でも面白かったよ。 おじさん、ありがとな」

「なんも、なんも。 帰る前には、また顔出してくれや」

「うん。 じゃあ、帰るね」

「おぉ、きいつけてなぁ~」


そんな噺が現実に在る分けないと笑い飛ばし、義八おじさんに別れを告げて社務所を出た。


ゾクッ・・・・・・


急に寒気が走って振り向くと、奥の祠がまた少し黒くなったように見えた。

肌寒く感じたのと黒く見えたのは、日が翳ってきたからと気にも留めず、その時は家路への帰路に着くのだった。






『ォォォオオオオオ・・・・・・・・・・・・』






帰り着くと、父さんも帰ってきてた。

たまの帰郷で、近所への挨拶回りに行っていたのだ。

母さんは、夕食の準備中みたいだ。


「おお、桃舞。 お帰り。 遅かったな。 どうだ?久しぶりの田舎は」

「うん~。 まあまあかな? 何も無いけど、じいちゃとの想い出もあるし」

「そうか。 まあ、都会には無い自然を、この機会に満喫するといいさ」

「うん・・・」

「ああ、そうだ。 お母さん」

「どうした桃次郎。 なんね?」

「いや、どうも大型の台風がこっちに、向かって来てるみたいなんだよ」

「ありゃ、台風ね」

「雨や風が酷くならないうちに、家の周りの飛びそうな物と、雨戸を閉めて補強しとこうかと」

「ほんね。 ほんなら、お願いしようかねぇ~」

「じゃあ、直ぐに始めるよ。 桃舞も手伝ってくれ」

「え~、俺も」

「滅多に経験出来ない事だ。 いいから、早く行くぞ?」

「んもぉ~、分かったよ。 手伝いますよ!」


外に出て風に飛ばされそうな物は、片っ端から納屋に片付けていった。

片付けた後は、納屋の戸も横板を打ち付けて、戸が外れないように補強した。

それが終わると雨戸も閉めて、同じように補強していくと、空も大分暗くなり風も出てきた。

一通り終えたところで、早めに風呂に入ってしまおうと、父さんは裏に回って沸かすための薪を、釜にくべに行ってしまった。


その後は交代で風呂に入り、母さんの作った夕飯を食べ、する事も無いので早めに床についた。

・・・・・・寝着いてから暫らくして、雨音に目が覚めてしまった。

雨脚はどんどん強くなり、家の戸や壁を雨と風が叩く。



ビュォ------ッ


ガタンッ、ガタガタガタ・・・・・・


ヒュォォ---------ッ


カタカタカタ・・・



布団を目深に被り、嵐が過ぎ去るのをじっと待った。

そうしているうちに、また睡魔に誘われていった・・・。




ド--------ン


パキッ・・・バキバキバキッ・・・・・・


ガラガラガラガラガラ・・・・・・パラッ、パラッ・・・




雨量と風に耐え切れず裏山が崩れ去り、邑魂神社の全てをのみ破壊していった。

そう・・・あの祠と共に・・・・・・


『ォォォオオオオオ・・・・・・・・・・・・』

『数百年・・・数百年ぶりの・・・・・・』

『ォォォオオオオオ・・・グォォオオオオオ・・・・・・・・・』


祠跡から零れ出る黒いモノと、怨嗟の如き声が嵐の中木魂し、北東へ向かって飛び去っていった。

その方向は都の・・・


黒いモノが飛び去ったその横で・・・崩れ去った本殿跡から朱色の木箱が覗き、その隙間から朱の光が夜を照らし出していたのだった。


◆◇


薄暗い部屋の中、目が覚めた。

視線を彷徨わせると、雨戸の隙間から明かりが漏れている。

どうやら台風も通り過ぎ、朝を迎えたようだ。

もぞもぞと布団から起きだし、目を擦りながら居間へと向かう。


「ん、桃舞。 おはよう」

「あふぁ~~、おふぁよ~~父さん」

「ほらほら桃舞、だらしない声出してないで、早く顔を洗ってらっしゃい」

「ふぁ~~い」


居間は電気が点けられ、部屋の中を明るく照らしていた。

父さんはテレビを見ながら寛いで、母さんは朝ごはんの仕度をばあちゃとしていた。

テレビでは昨日の台風の事が報道されていて・・・


「昨日列島を襲った台風○○号ですが・・・」

「一時間の総雨量が・・・一部地域では浸水も・・・」

「この後も河川の・・・土砂崩れ等にご注意・・・」


そんな光景を頬を掻きながら眺め、目を覚ますために洗面所へと向かった。


じゃ----・・・

しゃかしゃかしゃか・・・がらがらがらがらっぺっ!

ぱしゃっぱしゃ・・・

タオル、タオルはっ・・・ふぅ~~さっぱりした。


鏡を見ると寝癖が酷いが、まあ誰に見せるわけでもないし、水で濡らしてさっと手櫛で撫でておく。

そのまま居間に戻ると、朝食の準備が済んでいて、味噌汁のいい香りが漂う。

献立は白飯、あじの干物、味噌汁、茄子と胡瓜と人参のぬか漬け、切り干し大根の煮物に、おからの和え物と、シンプルな純和風一汁三菜だ。 良いよね? 温かいご飯って・・・

みんな席に着いていたので、急いで自分も座り食事にする。


「桃舞、遅いぞ。 さあ、みんな揃ったから、食事を頂くとしよう」

「では、いただきます」

「「「いただきます」」」


カチャッ・・・コトッ・・・

ふぅ~ふぅ~・・・ずずずぅ~~はぁ~~~


「それにしても、昨日の台風は凄かったなぁ~」

「んだなや。 雨漏りせんか気になって、よう寝れんかったて」

「ああ、お母さん。 朝食の後で、雨戸を開けてから、家の周りを見とくよ」

「そっかね。 すまんねぇ~、年寄りはなんぼし出来んで」

「ご近所さんも気になるし、ゆっくりしててください」

「ほんじゃ、お願いするさね」

「桃舞お前も、手伝ってくれるか?」

「うん? ああ、別にいいけど・・・」

「よし! じゃあ、さっさと食べて行くぞ」

「ちょっ、まだ食べ始めたばかり・・・」

「あなた、食事はゆっくり食べてくださいね?」

「おふぉ、すまんすまん。 桃舞、母さんの言う通りだぞ。 じっくり、味わって食べよう!」

「はぁ~・・・」


朝食を食べ終え、雨戸を開けに外に出る。

足元は水溜りが所々にあるけど、空はきれいに晴れ渡っていた。

台風一過で今朝は晴天なりってね。


そんな事を思いつつ、横板を外し雨戸を開け終わると、瓦が飛んでいないか屋根周りを見てから、家の周りに飛んできたものが無いか見ていく。

あれだけ酷い雨風だったけど、特に壊れたりした所も無かった。


庭に吹き飛ばされてきた枝葉が散らばっていたので、家に入って母さんに伝えると『後で掃いておく』と言われ、そのまま父さんと一緒にご近所さん回りへと向かった。


「いやぁ~、あれだけ酷い台風でみなさんに、お怪我が無くてなによりでした」

「ほんになぁ~、いつ御迎えが来てもええんだでがな。 あははははっ」

「(苦笑) では、わたしは他も見てきますので」

「んにゃ、よろしゅうたのんますぅ」


多少物が飛ばされただけで、大きな被害は無いようだったが、数件回ったところで邑魂神社の、裏山が雨で崩れたと聞いた。


義八おじさんは、別な場所に避難していて無事だったけど、神社は本殿含め土砂で埋もれて全て壊れてしまったそうで、今から男手総出で被害の確認と後片付けに向かうとのことで、父さんと共にそれに付いて行くことにした。


畦道を連れ立って歩き、石葺の階段を上がると・・・

目の前には無残にも、土砂に押しつぶされた拝殿や本殿、社務所も建物の半分近くが土砂に埋もれていた。

あの祠も・・・・・・


「こりゃ~、ひでえなぁ」

「んだでよ。 どうすっかなぁ」

「また崩れてくるといけね。 手前の社務所だけ片付けるべ」

「それ以外は県の担当が来るまで、そのままにするしかないべさ」

「んだなや」


拝殿や本殿付近はいつ崩れてくるか分からないので、県の災害担当者が来るまではそのままにして、一旦社務所の荷物だけでも引き揚げることになった。

途中各家の奥さん達が昼食におにぎりや漬物、お茶などを持ち寄ってくれて、休憩を挟みつつ夕方までにはそこそこ運び出せた。

運び出した荷物は一旦、公民館に運び込んだ。 まあ、建て直しまでは、そこで保管するしかないしね。


日が暮れ始めた中ふと本殿の方を見ると、折れた材木の隙間から朱い箱の様な物が覗いていた。


「ん? なんだ?アレ」

「ねえ、父さんアレって・・・」


父さんに声を掛けようとしたが、周りの人達と話し込んでいたので、その場を離れ足元や斜面に気をつけながら、朱い箱の様な物のところまでやって来た。


「よっ! ほっ! はっ! と、頼むから崩れないでくれよ~」


近づいて見るとそれは朱色の細長い木箱で、折れた木材と木材の間に挿し挟まるようにそこに在った。 

引き抜こうと手を伸ばし、力を込めようとしたけど、何の抵抗も無く引っ張り出せた。 お互い惹かれあうように・・・

それは俺の身長よりも長い木箱で、中身は分からないけど凄く重たいものだった。


「すっげ~、一体なんなんだろう? 御神体だったら、おじさん喜んでくれるかな?」

「よっと! 両手で抱えてなんとかかぁ~。 いつまでも居ると危ないし、父さんのところに早く戻ろっ」


両手で抱えながら持ち帰り、義八おじさんや、父さんに伝えに行く・・・


「おじさん、父さん。 本殿の瓦礫からコレが見えたから、悪いし危ないとは思ったけど、俺持ってきたんだけど・・・」

「どうした? 桃舞っ!?」


急に父さんの顔つきが変わった。 驚きと、何かに耐えるような。 そんな・・・・・・

だけど、父さんの変化も一瞬の事で、その後は何事も無かったように、回りと挨拶を交わし帰る事になった。


朱色の箱は父さんが抱え持ち、道中は会話も無いまま家に帰り着いた。

俺も悪い事をしたと思ってるから、特に話しかける事もしなかった。


帰り着くと父さんはそのまま部屋に箱を置きに行って、俺は居間で母さんやばあちゃに今日あったことを話していた。


「で、付いていったら、神社がさぁ・・・」

「ぁあっ、っ疲れたなぁ~~~。 母さん、ちょっと肩揉んでくれない?」

「はいはい、あなたももう若くないんだから、無理はなさらないでくださいね?」

「あぁ、はい。 重々、分かっておりますとも」

「ほんとかしら? ねぇ、桃舞」

「ん? ああ、そうだね。 母さん」

「あら、この子ったら、ふふふっ」


居間に顔を出した父さんはいつも通りで、帰ってくるまでの何か張り詰めたような、思い詰めたような感じは無かった。

あの事は気にし過ぎだったみたいで、あの箱もひょっとしたらご先祖様の、行方不明の家宝(?)だったりして、などと思うことにしてその後は昨日と同じように、風呂に入って夕飯食べて寝るだけとなった。

母さんが布団を敷いてくれたので、そろそろ寝ようと居間を出ようとした時・・・


「桃舞」

「ん、なに父さん?」

「ちょっと、お前に話しがある。 付いてきてくれ」


そう言うと、父さんは先立って歩いていった。

何だろうと思いつつ、その後に付いていく。

ばあちゃや父さん達、俺の寝る部屋を通り過ぎ、離れの仏間に向かっていく。

部屋の中に入って襖を閉めると、父さんがあの朱色の箱を前にして、こちらに向かって座っていた。

俺は向かい合う形で、その前に座った。


「桃舞」

「どこから話せば、どう噺せばいいか・・・」


何だ? 父さんなにか、話し辛そうにして・・・


「お前や父さん、爺さん名前に、桃の字が何故入るか。 不思議に思ったことは無いか?」

「えっ? いや・・・別に、気にしたこと無いよ。 でも、ご先祖様から、ずっと続いてるんだよね?」

「そうだ。 ただ、それには理由があっての事なんだ」

「理由? 理由ってなに・・・」

「お前がもう少し大人になってから話そうと思っていたが・・・・・・」

「我が家系は、()()役目の為存在している。 それは御伽噺に語られる・・・」

「ん? ひょっとして桃太郎? でしょ? 昨日、義八おじさんから聞いたよ、それ」

「っ! 義八か、あいつめっ! ま、まあいい。 役目までは聞いてないだろうが、噺を聞いてどう思った?」

「そんなの『作り話』って、思うに決まってるじゃん」

「そうか・・・そうだな。 だがな、作り話ではない。 紛れもない、実際にあったことだ」

「えっ! 本気(まじ)なの・・・父さん。 今が夏だからって、怪談やドッキリは求めてないよ?」

「真面目に聞けっ!」

「っぅ!・・・」


一喝された。 何も、怒んなくても・・・


「今日お前が見つけたこの箱だが・・・・・・父さんも語り継がれる事しか知らないが、かつて桃太郎と共に在ったものだ」

「? 見たことがないのに、何でそう言いきれるんだよ」

「ただ、ただな・・・見た瞬間に疑いようも無く、そうだと、そうなんだと分かったんだ」


ん~、なんか要領を得ないけど・・・


「えっと・・・じゃあ、この箱の中身って、何なの?」

「これは今から数百年の昔、夜に蔓延る鬼を退治した。 桃太郎の供が三獣、猿田彦(さるたひこ)。 その存在は伝えられていたが、誰もそれを見た事も、存在も、在り処も知らなかった物だ」

「え~~っと・・・父さん。 頭、大丈夫か?」

「このっ、親を馬鹿にするなっ! 至って、大真面目だっ!」

「・・・・・・」


げっ、コレ本気(まじ)もんだ・・・


「いいか。 御伽噺では、『犬、猿、雉がお供と』となっている。 だがな、それは事実であって事実ではない。 義八の噺にもあったと思うが、『犬、猿、雉』正しくは『戌、申、酉』、つまり北東の『鬼門』に対する『裏鬼門』の動物だ」

「・・・・・・」

「そしてそれが、ただの動物で無い事も分かるな? 『戌、申、酉』は神寄り授かり、邪な(もの)を封じ昇華する神器」

「・・・・・・」


父さんが朱色の細長い木箱を開けると、中には箱と同じ朱色の鞘に収まる太刀が一振り。

鞘の柄元近くは朱地に金で申が描かれ、鞘の中程から先端までは赤い獣の毛で覆われている。

太刀自体からは、赤く照り輝く光が零れる。


「我が先祖は、それらで舞いて鬼を封じた。 爺さんが舞い、お前に教えてきた舞いだ」

「えっ、あの舞って・・・」

「そう、在りし昔の、鬼封じの舞いだ。 そして、今の時代にコレが現れたと言うことは、夜に『念』が満ち溢れ鬼が現れ始めたという事だ」

「鬼って・・・・・・」


そんな()()が、本当に存在するのかよ・・・


「本来はわたしが役目を担うべきが、50を迎える今では歳を取り過ぎた・・・」

「桃舞よ。 お前が、お前がこの一振りを手に、鬼を、鬼を退治せねばならん。 それが、桃太郎の血脈を受け継ぐ、我らが一族の運命(さだめ)なのだ」

「っ! ちょっ、勝手に決めるなよ! なんだよそれ、昔の事なんて・・・俺には関係無いじゃないか! そんな大昔の事・・・そもそも鬼なんて、いる訳ないじゃないか!」


昔の事で・・・

そう、昔の事で勝手に決められて、それに俺は叫んでしまって・・・

ただ、父さんは苦しそうな、悲しそうな顔で・・・


「・・・そうだ。 関係無いし、鬼もいないかもしれない。 わたしも人の親だ・・・大事な子にどんな危険があるか、それすらも分からない。 そんな事に、向かわせたくなど無い」

「だったら・・・」

「だがっ! ()()が夜に現れたと言う事は、紛れも無く鬼が現れたという事の証拠だ」

「ひとりでは行かせん。 わたしも共に行く」

「父さん・・・」

「いいな? 成さねば・・・ならんのだ」


そう言うと、箱に入ったままの太刀を俺へと押し・・・・・・

目の前にある箱へ、いや太刀へ視線を落とす。 自分の背丈よりも、まだ長いその御姿・・・

手を伸ばし掴む()()は、荒々しく温かく赤く照り輝く。

柄を持ち僅かに抜くは、現る鬼灯の如き朱色の刀神。

身を包む()()()()()・・・・・・・・・


数百年の時を経て現れし、そは導き帰す申歸(しんき)なり。

朱き猿舞(えんぶ)にて、舞に舞夜を舞い散らす。 朱き花弁は、誰ぞ送らん。


◆◇


『太郎、太郎よ。 共に供たる。 えに深し友よ。 久しきかな。 ()()()・・・』


視線の先に赤猿が慈しむように、懐かしむように、朱色の光に包まれ意識を失っ・・・・・・


「桃舞よ・・・」


********************************************************************************


その時、邑魂神社の祠跡からは、小さな黒き塊りが寄集り、そして離れ何かを姿成し(かたちづくり)・・・・・・


『グググググッ・・・』

『キキャッ・・・ゲゲゲゲゲッ・・・』

『グギャァ・・・ギャギャッ・・・』


********************************************************************************


そこは夜を闇が覆い隠し、雲間から覗く月明かりも儚く。

私怨、死怨、燃え盛るるは紅蓮の炎。 赤に紅に、青に滄に、白に代に、玄に黯に、移ろい喰らい尽す。

朱金の衣を舞い散らせ、まつろわぬ(もの)と、舞に舞夜り・・・


なんだ? 何の光景だ? 体が揺さぶられている。

うう~ん。 まだ、朝には早いだろ? もう少し寝かせ・・・っ!!


「はっ! お、俺はっ」


意識が戻ると同時にその場で跳ね起き、視線を彷徨わせると脇にはあの太刀があった。

傍では父さんが、心配そうにこちらを見ていて・・・


「桃舞。 気がついたか。 大丈夫か?」

「あ、ああ、父さん。 父さん! 俺は一体・・・」

「ん、ああ・・・まあ落ち着けと言ってもあれだが、お前は猿田彦(さるたひこ)に引き込まれたんだ」


猿田彦(さるたひこ)、この赤い太刀が?


「さっきも噺だが、この太刀は『申』だ。 それ自体が意思を持ち、持ち主と一体と成ることで、(もの)を封じ昇華させる」

「何かお前に、語り掛けなかったか?」

「えっと・・・」


何かを見ていた気はするんだけど、全てがおぼろげで・・・・・・


「ああ、無理に思い出さなくていい。 今日は、もう休みなさい」

「うん、そうするよ。 お休み、父さ・・・」


ドガァァアアアアンッ!!


ぱらぱらぱら・・・・・・


なっ、何だ?! 急に戸や襖が吹き飛ばされ、俺は父さんと共に部屋の奥へと飛ばされた。

夜なこともあり、部屋の明かり以外ない。 何が起こったのか、まったく分からない。


ドタドタドタッ・・・


「あなたっ! 桃舞っ! 凄い音がしたけど何が・・・」


激しい音を聞いて、母さんが駆け込んできた。


「来るなっ! 今すぐお母さんを連れて、義八のところへ逃げるんだっ!」

「あなた、何を言って・・・血が出てるじゃないの!! 早く治療を・・・」

「いいから早くっ! ここは・・危険だっ! わたしと桃舞は大丈夫だから」


母さんは逡巡していたが、父さんの只ならぬ様子に、踵を返し走り戻っていった。

此方はこちらで、部屋の明かりを受けて舞う埃の向こう。 夜の闇へ視線を転じると、其処にはその闇より更に仄暗い、小さな黒い塊りが蠢いていた。


「桃舞・・・怪我は負ってないか?」

「あぁ、父さん程じゃない。 多少、打撲があるくらいだよ」

「そうか・・・だが、早速とはな」


飛んできた瓦礫で切ったのか父さんの額からは、血が滲み頬を伝い服を朱に染めている。


「父さん、アレは?」

「・・・桃舞、逃げるぞ。 付いて来い!」


そう言うと父さんは、襖を蹴破って隣の部屋へ。 太刀を抱えつつ、俺もそれを追って・・・

母さんやばあちゃはちゃんと逃げたようで、父さんと俺は縁側から庭先へと飛び出した。

空は雲が無く、月明かりが煌々と辺りを照らしていた。

さっきの黒い塊りは壊れた家屋前で、未だもぞもぞと蠢いていたが、此方が外に出たことが分かり、鈍重な動きでこちらへ向き直った。


「っ! 父さん、アレって・・・」

「あぁ、あれが鬼だ。 我が家に伝わる絵巻物に描かれし、死者の魂が鬼と化した『霊鬼』だ」

「奴の魂はあの世へ行く事なく、復讐することのみに執着し、鬼となり現世に留まっている。 望むのはただひとつ、人の死のみだ」

「ヤバイじゃんか。 はやくっ、早く逃げないと!」

「無駄だ。 さっきも言っただろう。 奴が望むのは、人の死だ。 恐らく祠に残った『念』が寄り集まり、己を封じし、猿田彦(さるたひこ)に引かれたのだろう」


黒い塊りは更に集まり、表面がうねうねと蠢き、徐々に姿成し(かたちづくり)た。

青白い肌に目は赤く、頭部に角が生えている。 周りには妖光が湧き、体は幽霊のように半分透けている。


『グギャァ・・・ガァァアアアアッギャギャッ・・・・・・』


鬼の咆哮が、夜を振るわせる。


「桃舞! 猿田彦(さるたひこ)と供に、幼き頃より学びし舞を舞うのだ!」

「えっ! 父さん、無理だって! 俺には・・・」

「やるんだ! 桃太郎が子孫たる我が一族。 事ありし日の為、連綿と受け継ぎし舞い! さあ!」


ごくっ・・・


やる、しか、ないのか・・・・・・恐怖に震える手、頬を汗が伝い、抱え持つ猿田彦(さるたひこ)が、赤く朱く照り輝く。


()()()()()・・・・・・・・・』


左手に鞘を持ち、舞の動作に移る。

目の前にはおぞましい鬼が控える中・・・


『シャン、シャン、シャン・・・』


何処からともなく、鈴の音が鳴り響く。

柄に手を当て、刀身を僅かに覗かせる。


鬼灯の様な赤い光が漏れ、朱金地の衣がこの身を包む。

赤き朱き光は更に強くなり、大きく、大きく膨らむと、其処に現るは赤き朱き大猿が一匹。

腰には七尺(2m12cm)の大太刀を佩き、身に纏うは朱金の陽炎のもゆる鎧甲冑の武者姿。


腰を落とし右手を柄に添え、大きく振り抜き舞い上がる。

抜き放たれた太刀は身を朱く輝かせ、青白い月明かりの中ただ、ただその場にて静謐に振るい舞い謳う。


『グルゥゥァアアアアア・・・・・・ガアッ!』


鬼が咆哮を上げ、こちらに迫り来る。

俺はただ静かにそれを見やり、縦横に動き回る事無く、ただ、ただその場にて太刀を振るい舞う。

舞えば舞う程に、朱き太刀が軌跡を描き、十重二十重に移ろいゆく。



「はぁぁぁっ!」


ガキッ! ガギャッ・・・キンッ!



鬼の振り下ろした腕や爪は、この身に当たる事も無くただ、太刀の動きに阻まれるのみ。


『グゥギャァァアアアアアッ!』


鬼はそれには構わず何度も何度も、この身を砕くべくその両腕を振り下ろす。

その都度起こる火花はまるで、朱き舞い散る華のように、儚げに産まれては消え、産まれては消え・・・・・・

そこはまるで神楽殿のように、時には静、時には動、無数の軌跡を描く。


「ふんっ! はっ! ぁぁぁぁぁっ!」


『ギュゥアッ・・・グッ、ガァッ・・・・・・」


一瞬とも、永遠とも感じる時を過ごし、鬼は徐々にその身に傷を負う。 その勢いも時が経つにつれ、衰え静まっていく。


「ふぅ------っ・・・・・・」


『まつろわぬ邪な(もの)よ。 哀れなるその魂を、解き放ちて(おく)り帰さん! |申歸猿舞(しんき えんぶ)っ!!』


鬼の姿勢が前かがみに下がった瞬間、振り上げた大太刀が上段より下ろされ、その身を左右に真っ二つに別ち切る。


ドォォォォン・・・・・・・・・


崩れ落ちたその身から、黒い霞が立ち上り寄集ろうとする。

それは猿田彦(さるたひこ)の朱き光に照らされる傍から、篝火の蛍火(けいか)の如く燃えては儚く消えていった。 緑色の燐光は、送り火のように、蛍が舞うかのように・・・・・・

全てが消え去った後、朱き太刀を鞘へと納める。


「・・・・・・」


その場に立ち尽くし、呆然と鬼の居た場所を見る。

現れた鬼のこと、自分の身に起こったこと・・・全てが夢幻のようで、御伽噺のようで、現実味に乏しかった。


「桃舞」

「・・・とう、さん」

「よく、よくやった。 怪我は、負っていないな?」

「あ、あぁ、大丈夫だよ」

「そうか・・・」


父さんの大きな手に抱きしめられ、その温もりを感じこの夜の事で、はじめて実感を得た気がした。

その後、義八おじさんの所に行き、母さん達と再び会うことが出来た。

母さんは父さんの顔を見るなり、その場で泣き崩れてしまって、落ち着くのを待ってから経緯と、今後の事について話した。

母さんは顔を真っ青にしながら、俺が鬼退治することに反対していたが、ただ母さんも嫁いだ時に噺を聞いていれ、最後の方には納得していた。 ばあちゃも、知ってたんだ・・・

気付くと夜は明け、日の光が降り注いでいた。


「さあさあ! 何をするにしても、まずは食事をしなくちゃね」

「お母さん、疲れてるでしょうけど、一緒にお願いします」

「なんね。 さあ、力のつく物作って、みんなで食べようかねぇ~」


義八おじさんの所の台所を借りて、母さん達は朝食の準備に行ってしまった。

残った俺と、父さん、義八おじさんは、テレビ画面に流れる他愛無い日常を眺めながら、今後の事についてそれぞれに思いを馳せるのだった。


********************************************************************************


あの夜の一件後は邑魂神社跡の祠に赴き、残留してる『念』を猿田彦(さるたひこ)で昇華した。

ばあちゃの家に戻ると、俺達が居ない間に近所の人達とで、瓦礫の片づけは済んでいた。

それからは桃太郎の家系に関する話や、鬼が描かれた絵巻物、残り三獣『真神(まかみ)建比良鳥(たけひらとり)』について聞いた。


<家系図>

桃太郎-桃塢(とうう)-桃源(とうげん)-・・・桃翁(とうおう)-桃次郎(とうじろう)-桃舞(とうま)

      桃郭(とうかく)-桃朗(とうろう)-桃央里(とうり)・・・分家へ

      桃楼(とうる)-桃甫(とうほ)・・・類縁無し


父さんの代で、23代目らしい・・・


<三獣>

戌・真神(まかみ):狼の牙を模した双剣

 白狼 善人を守護し、悪人を罰する 戌獻(じゅつ けん)

雉・建比良鳥(たけひらとり):鳥の羽を模した両刃剣

 聖獣 紫鴉 猛き、世の端・隣とを飛び、御魂を送る 酉鶤(ゆう こん)

猿・猿田彦(さるたひこ):鬼灯の様に赤く照り輝く七尺の太刀

 聖獣 赤猿 八衢(やちまた)に立ち、迷い人を先導し導く 申歸(しんき)


申以外、所在不明・・・


<鬼>

酒呑童子(しゅてんどうじ)

 最狂の鬼・身の丈は6m、角は5本あり目が15ある。 酒を好み、人を喰らう。 復活間近・・・

熊童子(くまどうじ)

 青鬼

虎熊童子(とらくまどうじ)

 白鬼

星熊童子(ほしくまどうじ)

 肌色の鬼

金熊童子(かねくまどうじ)

 赤鬼

牛鬼(ぎゅうき)

 頭が牛で首から下は、蜘蛛の様な鬼の胴体を持つ。 毒を吐き、人を食い殺すことを好む。

霊鬼(れいき)

 死者の霊や霊魂が、恨みをもち、形を変えた鬼。

邪鬼(じゃき)悪鬼(あっき)

 人に対して悪をばらまく鬼。


他にも多数の鬼が、その所業と共に描かれていた。


<<後日譚>>

熊、虎熊、星熊、金熊の各童子は酒呑復活の為、人に化けて夜に溶け込んでいた。

熊童子は青いスーツで身を固め、暗めのブルーグレーアッシュな髪で、一見するとビジネスマン風の容貌だった。 クールを気取っていて、毎回毎回苦戦させられたよ。

虎熊童子は白装束に身を包み、白髪で前髪が目元を隠し、常にブツブツと独り言をいっていた。 いちいち陰湿で、ねちっこかったな・・・。

星熊童子は俺と同い年ぐらいの学生に成りすまし、とある学園に潜んで人を巻き込んで、学園生達を操って襲ってきたから、ある意味一番戦いにくい相手だった。 勝手にライバルとか言ってきたし・・・。

金熊童子は赤銅色の肌と、燃えるような赤髪が特徴的で、その剛力に任せた直線的な攻撃で、毎回辺りがめちゃくちゃに破壊されて、その度にヒヤヒヤさせられたよ。


********************************************************************************


父さんと共に旅を続け、あれから数ヶ月が過ぎた。

えっ、学校? それは、その・・・ちゃんと休学届け出したよ!


その間も数多の鬼との舞いを繰り広げ、残る二獣とも猿田彦(さるたひこ)の導きで、数百年ぶりに巡り会うことができた。 いや、本気(まじ)で情報も無に、よく見つけられたよホント。

その辺の噺は、また何処かで・・・


俺は彼らと共に『念』の集まる場所を巡り、鬼が巣くう場所へと辿り着き遂に『酒呑童子』と対峙した。

あまりにも『念』が集まりすぎ、三獣それぞれでは歯が立たなかったけど、そんな中で人と獣が一つとなり、『大神実(おおかむづみ)』となりて、そして・・・・・・・・・


fin...

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