祝福の儀なのだけど
着替えを終えて、広間へと向かう。正装ということで、ごちゃごちゃと飾りのついた貴族服(命名俺)を着る。この服はあまり好きではない。動きにくい。
屋敷の全員が広間に集まっていた。口々に祝いの言葉を述べているが、不安そうにランディが見てきていたので、思わず抱きついて、大丈夫!といってしまった。坊ちゃまの服が汚れるだ!と慌てているランディだけど、ランディは汚れていないから、大丈夫。毛も整えてきてるからな!
この屋敷の使用人が着る服だと一番いい服が、執事服やメイド服なんだけど、ランディだと絶望的に似合わない。筋肉がすごいから、特注なのは間違いない。代わりに、普通に品のいいシャツを着ている。赤い布に水玉模様の蝶ネクタイもつけている。
もちろんスラ吉もきてくれている。ピンクのリボンを頭につけてきていて可愛かったので、もにょんと抱き着かせてもらった。
みんなに見送られながら、母様に抱えられて、中央階段の下にある隠し部屋…ではなく、地下にある父様が仕事をする時に使っている部屋にきた。
父様が家で仕事をする執務室とは違って、入ったことのない部屋で、いつもは鍵がかかっていて、初めて入る部屋だった。
父様と司祭様は『ライト』と呟くと、ケルンの頭ぐらいの光の球体が浮かび上がった。
薄暗い部屋の中には、魔方陣らしきものが敷かれている。ただ、それだけの土壁の部屋であった。もっと、魔法使いらしい部屋なのかと思っていたが、怪しい儀式の前みたいで、不安になってくる。
ランディの不安気な様子がこれが原因かと思う。確かに、ちょっと怖くなってきた。
「おばけやだよぉ」
…司祭様いるし、出たら退治は任せて逃げような。
「大丈夫だよ、ケルン。父様も、父様の父様も…ずっと昔からみんな、この部屋で祝福を受けてきたんだ。怖いものや、悪いことは、この部屋では絶対に起きないから、安心しなさい」
父様はそういって、母様の腕の中にいるケルンの頭を撫でた。さっきは、フォローできてなかったけど、流石父様。
父様は、司祭様と一緒に儀式の準備をしている。金色と銀色の燭台に火がつけられ、球体は消された。
「奥方殿。ケルンを円の中心に」
母様はケルンをおろして、円の外にいる父様の横に立った。
父様と司祭様は二人同時に詠唱を始めた。
「精霊よ、集え『エレメントスクエア』」
赤青黄緑の四種類の光が、円の周りを回り始めた。回転が徐々に早まっていく。四つの線が円の周りにあるように見えた頃、司祭様は、首のネックレスを掴んだ。
「偉大なるボージィンよ。あまねく精霊達よ。どうか、我が声を、我が祈りを聞きたまえ。健やかに、祝福の儀まで育った幼子、名をケルン・ディエル・フェスマルク。フェスマルク家嫡男にして、才多き子なり。願わくば、幸多き祝福を与えたまえ!」
司祭様の詠唱が終ると、四種類の光が一つになって、ケルンの頭上から落ちてきた。
目映い光が、薄暗い部屋を包み、部屋の中を
どうしようか。
光の中でしばらく、身体も頭も真っ白になった。
祝福というものは、知識の中にきちんとあった。
魔法の世界では、意外と多くあるし、神がいる世界では当たり前に行われている。
形式化された祝福ならば、おそらくどこでも似たようなことが執り行われているだろう。
ただ、こんなに光っているのは、初めてだ。
父様は、少し考えるそぶりをみせたようだが、笑っている。母様はいつも通りの微笑みを浮かべている。
司祭様は、驚きと納得の顔。
また何かやらかしたと思ったが、何事もなく、儀式は続くようだ。
「円よ結びたまえ。理よ結びたまえ。祝福はなされるなり!」
司祭様の言葉で、光は収まった。頃合いをみて、父様が『ライト』というと、今度はさっきよりも、光の強い球体が出てきた。
「さて、ケルン。『オープンカード』の魔法は使えるかな?もしくは、『オープンボード』でもいいんだけど」
司祭様は、ケルンにそう聞く。『オープンカード』は、自分のステータスを数値化して、見せれる魔法で、『オープンボード』は、『オープンカード』より、簡略化された情報を出す。比較的簡単で、修練すれば、かなり詳しくどちらの魔法も情報公開ができる。
スキルの多い者でさえ、使えるという無属性の初歩魔法の一つだ。
ケルンぐらいの歳でも、使えるのが当たり前ともいえる。
だがしかし。
「できません!」
いい声で返事をしたが、そうなのだ。何故か、魔法が一つも発動しないのだ。
簡単であるはずの無属性も発動しない。
魔法使いは、相手の魔力の強さを感じれるそうで、父様から、魔力が強いといわれて、頑張ってみようと、魔法の勉強をこっそりやってみたのが、無理だった。俺が持つ知識に魔法という存在はあっても、使い方がまったくわからないので、一からやるしかない。
いくら頑張っても、初歩魔法の『ライト』も属性魔法でも、初歩で子どもでも使えるという『ウォーター』も出ない。
落ちこぼれとして、噂になるわけだ。
「では、代わりに私がやってもいいかな?」
「はい!」
司祭様に返事をすると、司祭様はケルンの頭に手を置いて目をつぶった。
「精霊よ、教えておくれ『オープンサーチボード』」
司祭様がたずねたのは、魔法の効果を受けるかどうかの選択だ。『オープンサーチボード』は、対象者の許可がないと使用できない。できても、文字化けというか、模様が浮かび上がるだけらしい。
アクリル板みたいな、不透明な板が浮かび上がり、文字がずらずらと書かれる。
年齢は五歳。スキルは身体強化と造物。体力は平均よりも多い十二。魔力は、五千とでていて、司祭様は驚いているが、父様をちらりとみて、遺伝か…と呟く。その他にも両親や出身など出てくる。
何か、恥ずかしいな。自分の全てを見られているって感じだ。
だけど、祝福のところが、おかしいような気がする。
何だよ、ボージィンの同好者って。
同好会みたいだな…って、ケモナーってことか!やめて!両親には、バラさないで!まだ、ケモナーにケルンは染まってないから!前兆はあるけど!
俺が萌えてるのか、ケルンが萌えてるか正直わかんないときはあるけど、まだ五歳だから、修正は…そういや魂は変わらないっていわれたし、なにより、棒神様に認められていたから…すまない、父様、母様。貴方たちの息子は神が認めたケモナーでした。
俺がハラハラしていても、淡々と儀式は続くようで、確認の作業が終わるまで、今後の計画を練っていた。ケモナーとバレても、どのレベルまてもなら、引かれないか…いや、まずは、どのレベルならこの世界にいるんだ!ケモ度によっては全力でもふりたくなるんだけど!全ケモみたことないよ!棒神様!今のままもいいけど、足りないよ!
なんて、混乱もしている。
司祭様は『オープンサーチボード』を解除すると、父様と母様を無言で見つめた。
「ティス、大丈夫。私が家と話をつけるから」
あれ?変だな?
「母様?父様?どうしたの?」
いつもとなんか違うな。
母様は、父様の背中を撫でている。父様の顔は、薄暗い為に、よく見えない。
司祭様は、父様にむけて、少し大きめな声で、語りかけた。
「珍しいが、いないわけではない。守秘義務があるからいえないが…ケルンだけではない。今年の祝福を受けた者たちの何人かがボージィン様の加護や祝福を受けている。それに、ボージィン様に愛される者を置き去りにして、話はできまい」
そういって、ケルンを見つめる。
ケルンが不安でまた泣きそうになってくるのを、俺はさっきの挽回でまともな提案をすることにした。
さっきの父様や母様たちの言葉を忘れたのか?心配すんなって。
「うん…」
結果が出るまで、泣かない。ケルンはそれを受け入れたようだ。
ただ、心細いことに変わりはなかった。
「僕…悪いことしてるの?」
ケルンの呟きに父様はすぐに、円の中に入ってケルンを抱きしめて、何度も同じことをいう。
「誰にも渡さない!誰にも…渡さない!絶対だ!誰にも渡さない、誰にも、誰にも!…必ず守る!」
父様は、何故か泣きそうになっているような気がする。
こんな父様は初めてだ。




