絶景だねっ!
「着いたぁっ!!―――のはいいんだけど、すっかりあたりが真っ暗だよー」
現在私は港町のあるE4のひとつ手前のエリア、E3へと来ていた。このまま海岸沿いに進むとその港町に着くんだけど、今回の目的はそこじゃないんだよね。
「釣竿の用意よしっ、インベントリの空きよしっ……餌の用意もよしっ…とぉ。うん、準備万端だね!」
そう!今回の目的は釣り……というよりかは海にどんなものが存在するのかの調査しにきたのです!
掲示板によると、職業に海関係のもの(漁師・海賊etc)が追加されて、水辺のエリアではいろんなボーナスが入るみたい。ちなみに魚もモンスターの一つらしく経験値が入る。今最も効率の良い経験値稼ぎは釣りとも言われてるくらいだよ!
まぁ、そのぶん餌のレア度や釣りスキルのレベルによって食い付きや獲物のレア度が左右されるから、カラトの消費量が経験値の量に比例しているんだけども……。
「ま、今回は経験値稼ぎというよりかは魚を求めてここに来たわけだし。そこまでレベル上げは気にしなくても良いかな。餌も自分で作ったやつだし」
魚類・貝類・藻類等の海にしか存在しない素材が新しいポーション作りに使えるかもしれない!私の予想では毒系のポーション作りに生かせる素材があると思うんだよ。ほら、エイとかカサゴとかね?
このゲームでは現実の生き物を参考にしたモンスターも少なくないっぽいし、毒を持った魚とかいっぱいそうだよね。
「よし……まずは第一投をぽ~いっ!」
浮に明かりをつける技術はまだ見つかってないみたいで、夜釣りの情報は見つからなかった。釣り好きな人なら夜釣りとか既にしてそうなんだけどねー。
――――何も釣れませーん………しくしく。
あれから二時間は経ったよ?それなのに何も釣れない。餌ですらこの一投でしか消費してないし。
んー、ポイントが悪いのかな?けどなー……何となくこの場所が良いんだよね。それに動くのも面倒だし。
うーん…釣竿に反応がないけど……もう少しここで待ってみようかな。
◇◆?時間後◇◆
「――♪―――♪―――――」
う……ん…?なにか聞こえたような…?
「――♪――♪――――」
これは……歌声なのかなぁ?
あれ?そういえば私は何をしてたんだっけ?………
「そうだっ!釣りの途中じゃんっ?!」
ハッと目が覚めたように体を起こした。咄嗟に目に写ったのは台に置かれた釣竿……釣り糸が遠くの海面で太陽の光を反射して輝いている。
ん?太陽?
時刻は既に5:00。太陽が海から昇ってきていた。
「うわぁ…………綺麗…」
目の前の光景に思わず感嘆の声が漏れた。
半分も昇っていない陽の光が海を暖かく照らし出し、あんなにも蒼かった水の煌めきが今では眼が眩むほどの金の輝きで溢れていた。
おそらくゲームでしか見れない非現実的な実際の景色。
「スクショしとこっと……」
そう思いスクショした瞬間、黄金色の光を反射した一匹の魚が飛び上がった。
その魚が海に戻ってしばらく後、釣竿が大きくしなる。
「?……おぉぉっ?!」
思いの外重い掛かりに変な声が出てしまったが気にしない。そんなことよりも釣り上げることが優先だ。
何が掛かっているのかはおおよそ予想がついてるんだけども。
何とか巻き続けて、釣糸が近くに見えるようになってきた。
そして特に何かが起こることなく“それ”は釣れた。
『吸光魚(黄金色):光を吸収・反射する能力を持ち、体内に蓄えた光色・輝度によって性格や鱗の色が変化する。非常に警戒心が高い』
「おおぅ……なかなか凄いのが釣れたけど……。これを食べるのはちょっとなぁ。とりあえず保留かな」
ちゃちゃっとインベントリにしまう。あ、もちろんこいつとのスクショはとってあるぜ。
「さて、とりあえず港町に行ってログアウトするかな。久々に―――っ?…………ありゃりゃ~…」
港町の方向へと体を転換しようとしたとき、私は膝から崩れ落ちた。
周りに敵はいなかったから………そっか……。
む~、PK怖いしアイテムロストもしたくない……よし!背に腹は代えられないよねっ?! 転移石で我が店に戻りましょう!
「音声起動:転移石。目的地はマイハウス」
『認証成功しました。10秒後に自動発動されます。』
きっかり10秒後に視界がホワイトアウトし、次の瞬間には見慣れた店の光景に移った。
「よし、無事に着いたー。かえってきたぞー………うん、ログアウトしようかな」
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「ふぅ、どんなゲームでも徹夜は疲れるなぁ。拓はもう起きてるのかな?……もう5:45かぁ。」
確か拓は午後からどこかに行く予定のはずだから、午前中は寝てるだろうね。
それなら私も午前中はどっぷりと寝ますかー。
『報告:先程、脳波に一部の乱れを確認。接続エラーが発生しました。
提案:次回から強制脱退機能をonにしますか?』
「あー、別に今のままで良いからオフにしておいてー」
『了解しました』
やっぱりVRMMOっていろいろと繊細だねっ!まさか本人の体調まで把握できるとは!
「―――はぁ…………そろそろなのかなぁ?………私……」