泣きっ面に蜂?いや針!
「いいぃぃぃ、やぁぁぁっ!!?
こ、こにゃ…こ・な・い・で・よおぉぉぉ!!」
ど、どうしよう?! う、後ろから頭程の大きさのハチが追ってきてる~!
わ、私なにかしたっけ?蜂の巣をつつくようなことをしたっけ?ううん、ぜっっっったいにしてないっ!!
どっちかって言うとあのダーツ鳥(仮)が原因だよぉ……。
アジリティと器用さに二振りしているお陰からか、ハチにはまだ追いつかれてないけど……ここどこー?!
さっきまでいた場所ですら初めて来た場所なのに、もはや帰り道すらわかんなくなっちゃったよー!
まぁ、転移すればいいだけなんだけどね……
「そうだっ!!転移すればいいんだ!」
さっと転移石を取り出して、使用する。
『敵認定MOBからターゲットされているため、現在転移石は使用できません。』
「えっ………ってそりゃそうだねっ!!」
そんなことができればどんなに強いBMでもヒット・アンド・アウェイで倒せるもんね。
ブブブブブブッ!
あれ?音が近くなってるような気が………
「ブブブッ!!」
「わあぁぁっ?!」
咄嗟に頭を右へずらす。【直感】がそう囁いたのだ!
って、うわっ?でっかい針が真横を通ったよ?!しかも針の先から黄色い液体が垂れてるし!お花の蜜かな?ハチだしね!
うん、嘗めたら痺れる味なんだろうなぁ。
ってそんなこと言っとる場合かぁ!
転移石のせいでハチとの距離はだいぶ縮まっている。それこそ攻撃が届くくらいには。どんどん森も深くなってきてるし……ここは刀じゃ不利だ!ということで走りながら納刀し、代わりに短剣を鞘から抜き出す。もちろんヘファイトスさんにつくって貰った深血牙の短剣だ。
うん、DEXもとい器用さは納刀、抜刀とか剣を抜く動作にも補正が掛かるんだね。てっきり刀や弓系統の攻撃力を増加させるだけかと思ってたぜ。
ん?でも器用さってなにも手先だけに限ったことじゃないよね?ならもしかすると他の体にもDEXの恩恵ってあるのかな?後で検証してみるかな。
はい。こんな色々と考えてますけど絶賛ピンチです!なぜか?
ここら辺の土が泥になってます!足がとられて転びそうになるのです!まぁ、転んではないんだけどね。
一応ハチより私の方がAGIは高いみたいで差が開きつつあるんだけど、ここで一気にスピードダウンするとたぶんすぐに追い付かれるんだよね。
でもなんで急に地面がぬかるみ始めたんだろう?雨でも降ったのかな?それにしては周辺の草木は沈んでないし……雨が降ったならその重さで潰れるんだけど。それがないってことは地面がぬかるむほどの豪雨は無いってことなんだろう。
そういえばこのゲームにおいて天気の概念ってあるのかな?夜、朝――とかはあるみたいだけど、季節はどうなんだろうね~?
―――ブブブブッ
やばい!やっぱりスピードダウンしてる!……このままじゃ近いうちに死に戻りすることになるよぉぉっ
そんなのはやだっ!ってかあの力尽きる瞬間の力の抜けかたもなんか不安になる感じがして嫌なんだよぉぉっ!あんな体験は人生において一回で十分だって言うのにねっ!
さて、少し落ち着くんだ私。そうだおちつけ~、もちつくんだー私よ。
まず、状況はこんな感じ
・ハチに追い付かれそう
・地面がぬかるんでいる
・大きくて多い
この三点が主な状況だね。
「ブブブブブッ!!」
「うわっ!もう来たっ」
刺し出してきた針を体勢を崩さずに躱し、短剣で切りつける。
「思ったより切れないかぁ。針に少し傷をつけた程度って……この針は金属かなにかでできてるのかっ?」
次々とハチが襲いかかってくる。一匹一匹が大きいお陰か、はたまた森が深いお陰か、あれだけ大勢いたはずなのに襲いかかってくる数は少ない。
そのため不利に陥ることなく対処できることが幸いだ。
けれども、日が落ちたかと錯覚するほどに辺りは暗くなり、地面はよりひどくぬかるみ、視野が自然と狭まれる。所々には大木が倒れていることもあった。
そんなことを気にすることなく、走り、ハチたちを撃退していると、いきなり森が開けた場所に出た。
「ここは………」
森が開けたというよりは、そこだけ森がない。森ではない大きな沼が広がっていた。
大きさで言うと東京ドーム5個分くらい?……もっとあるかも。
そんな大きな沼の中央には小さな島(飽くまでも沼と比べて)があり、倒れて沼にめり込んだ大木を足場にすればたどり着けそうだ。
「あれ?そういえば………ハチたちが襲ってこなくなった?」
いつからだろう?傷つけたとはいえほとんど倒せていないから、いつまでも追ってきていると思ってたんだけど……。
そんなことよりも襲ってこないということは逃げ切ったということだよね?ね?
「いぃよっっっしゃあぁぁ!!……はぁ~死ぬかと思ったよ。ほんとにもー」
疲れたぁ~………今、足元をみればなんと! 膝下辺りまで沼に埋もれてました。
よくこんなじょうたいではしれたなぁ……重点的にAGIとDEXをあげたお陰だね!
こうして無事に逃げ切れたのはLUKが関係するのだろうか?いやしないだろうね~。自分の努力の結果と思おう!
なんだかんだ言って2時間近くハチとチェイスしてたんだよね……よし、少し休憩しよう!………でもテントをたてる場所がないんだよなー。ここ沼だし。
唯一の陸地といったら真ん中の小さな島なんだろうけど……ま、木にハンモック吊るした方が早いし、そうしよっかな。
んじゃ、一端ログアウト―――
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「あぁ~、虫の再現度高すぎだよほんとに……なんであんな大きさでてっかてかなんだよぉ。別にミツバチを大きくしたのでもいいじゃんか……スズメバチのでっかい番は怖くて恐いよ……。
―――あーキモチワルカッタ…もうハチは一生みたくないよぉ~」




