イベント[第一章]:穢れ堕ちし生命の循環者②
≪ウルガさん!想定よりちょっと強いかも……けど、しばらくは作戦通り行くよっ!≫
パーティー内の音声通話設定をオンにして話しかける。たしかこれも今回のアップデートで追加された要素だったかな?チャットのみだと臨時パーティーの際、後衛職との連携をとるときにいちいち大声を出すことに気を使う必要があるみたいで……そこを改善してほしいっていう声が大きかったみたい。
ただ、クラン単位まで音声通話を可能にしてしまうといろいろ問題があるみたいで……。ちなみにパーティーメンバーを六人として2.2.2の計3回を同時に連絡するというのは出来ない。ん~…なんていうか、強制参加のグループ通話みたいな感じかな?
≪わかったぞい!やっこさんにもそう伝えておくぞ、カカカッ!≫
よし!これで私がどれだけ持つか…だね。あ、そうだ。パーティー名を表示させとかないとウルガさんの目印が無いや。
[魔王直属護衛部隊-5-]
これが私たちの現パーティー名で、意外にもこれを考えたのは幽鬼狼だったりする………もしかして見た目相応な歳だったり?
まぁ、そんなことは………後で聞くとして!実はパーティー登録なるものがあって、パーティーメンバーが全員同意しパーティー名を創作すれば登録できる。
…………私達はできないんだけどね?……各街に一つあるギルドで登録作業を行うし……そういえば私ってまだギルドで登録して無いんだよね…。
もしかしてこのまま一生登録不可能なのかなぁ……う、うぅ…
≪八つ当たりだけどいいよね……しかたないよねー≫
作戦その一、あのとき使った技の、スキル【魔力操作】[絶気・融闇]の範囲指定、【無属魔法】――魔術[反転]をもう一度発動させ、ウルガさんHPを削ってもらう。
まず、ダメージを与えるにはどうしてもウルガさんの魔法に頼るしかなくなるんだよね…私だと火力もレベルも装備も足りてないからなぁ。
≪カカカ、発動を確認したぞ!まずは炎系からじゃな≫
ただ、ウルガさんを火力とするに当たって一番のネックが私達に盾役がいないことなのだ。そのため、どうしてもウルガさんにターゲットを向けさせてはいけない。
だから私が回避盾になったんだけど……挑発系のスキルなんて持ってないからすぐにターゲットが変わってしまう。
それを回避するためにこの前のやつをドーム型の範囲で自分事覆った。もちろん[反転]して。
これをすると、私と循環者は一切外の気配を感じることも認識することも出来ない。外から見ている人も同様で見えないんだけど、どうやらネームや職業・マーカーなどは設定から変更できるからか認識されるものとは別のものと判定されるみたいで、見ることができる。
そこでだ!私が公開しても問題ない臨時パーティー名を表示し、循環者の周りを回るようにして動くことで、大まかな循環者の場所をウルガさんに知らせられる。
つまり、私自身が目印になるってことだね。この間は攻撃を全て回避しないといけないけど……あいにく循環者はAGIが一番低くて私と同じ……か少し早いくらいだからなんとかなる…はず!
ちなみに、こんななかでも循環者からの攻撃は始まっているのだ。……もちろん全部何とかしているよ?今のところ無傷だしね!
≪準備ができたぞ!≫
≪あっ、じゃあ一発目をお願いします!!≫
そう頼んだあと、数秒して赤黒い炎の大きな球体が飛んできた。……あれ?これもしかして巻き添えを食らう?
≪ちょ、ちょっと!さ、さすがにこれは範囲がでかいって?!≫
≪カカカッ!すまぬの!!……ただのぉ、炎系でも効かぬのなら同じ属性をぶつけてみてはどうだ?という話になっての?幽鬼狼がわしの炎魔法に変わった属性の魔法を混ぜたんじゃよ。そしたら最初の状態よりも大きくなってしまってな………すまなかったの≫
ま、まぁ、そこまでして謝られたらなにも言えないんだけど……って何とかして防がないといけないじゃん!!
えーと?焦るな……落ち着け……あの魔法が着弾するまであと7秒くらいでしょ…んで、距離が離れてるから威力も減衰して…たぶん、幽鬼狼曰く循環者と同じ属性を入れたなら………いろんな属性があったけどおそらく[冥属性]か[闇属性]……カテゴリー的には無と冥と深淵がいっしょくたにされてたよね?
もしかしたらこれで行けるかも?
話は少し遡って、まだ循環者が変化する前になる。
必死に食らいついていた三パーティーは循環者と戦っていたとき、循環者のアンデットのストックが尽きた。
そこで循環者は何をしたかと言えば、倒され残骸となり光の塵となって消えようとしたアンデット系のMOBを補食したのだ。
正確には、それらのアンデット系がいた部分の空間ごと呑み込んだ。その際、近くにいたPLも一緒に呑み込まれたのだが、盾職だったおかげかHPを大きく減らすだけで戻ってこれたのである。
その盾職PLの防具や武器はボロボロになっておらず、再び戦闘に参加した。
今、外で排除されたアンデットを取りこむためか、私のいる場所とは全然違う方向を呑み込もうとしている。
(うぇ……気持ち的には行きたくないけど…ffで死ぬのはもっと嫌だし……よし!女 桐紅っ!覚悟を決めるのだ!)
念のため、循環者のなかには怨念がおんねん…………………アンデット系によって残された状態異常[呪い]が存在しているはずだから、冥属魔法で発動した[冥府の暗外套]を体に纏う。
たしか、称号を手に入れたときに貰えた魔法で、称号のカテゴリーに含まれている属性からの耐性を40%程度上昇させるとかなんとか……
よーし、さあ循環者よ私を食べるがいい!
そうして、私は自ら呑まれに行った。私のからだが全て体内に入った瞬間―――ドゴオォォン!!―――という、大きな爆発音と炎が燃え盛っている独特の音が聴こえた。




