イベント[第一章]:次の機会へ
幽鬼狼に戻ってきてもらって話を聞くことには、どうやら幽鬼狼はもともと実体が存在していたらしい。
ただ、(時間的に)アップデートしている間に体を失ったそうだ。理由としては、その子を助けるためらしいけど………なんでそのときだけ助けようとしたんだろう?
「あれっ?助けた……って、その子死んでるよね?」
「身体はな……あのUBMは特性上魂ごと喰らうようになってしまったからな。この少年の魂だけでも救えただけよかったよ……」
「カカカッ!……さて、そろそろ討伐隊が動く頃じゃないかの?」
現在の時刻は8時25分……そろそろ村でスタンバイしといた方がいいかな。
「!……ルフス、戦う場所はあの山の削れた部分だそうじゃ!」
「えっ?……そこはたしか、」
―――社があった場所……
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戦闘が始まる前の会話と誘導していく間のUBMの攻撃から、ある程度のUBMの特徴がわかった。
うぅ……討伐隊のみなさんには本当に申し訳ないよ…。黙ってやられてく姿を見るのは本当に心に来るよね……しかも、それをわかってて踏み台にするんだから罪悪感が~……あぅ…ごめんなさい…。
さらに、見知った顔の人しかいないから余計に……あぁ、大豆の力のリーダーさんに大剣を返してあげなきゃ…。
「ふむ、そんなに辛気くさい顔をするな。あやつらはいくらでも生き返ることができるのだろう?それに加えてわたしの命は一つ………いや、既に死んでおるな!……ハッハッハ」
励ますためなのかよくわかんないけど、幽鬼狼が馴れない嘘をついた。お世辞にも…面白いと言えるものじゃないけど………少し心がほっこりする雰囲気になった。あくまでも“私は”だけど。
ウルガさんなんてビックリして固まってるしね(笑)
………時々このゲームをしてて思うんだよ……ここのAIは人よりも人らしい…って。
「よしっ!私たちの任務は幽鬼狼の護衛!……頑張るぞっ!」
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1時間近くもたったの三パーティーで対応できていたけど、ついに限界が来た……というよりは、UBMが変化してきてるのかな?
次々と殺られていく………助けにいきたいけど…さすがにそれは違うよね。
あっというまに残り2人になり、そこへUBMが近づいていく…そして目の前まで来たところで………UBMは残った二人に見向きもせずに通りすぎた。
……あれ?倒さないの?確かに武器はもうボロボロで耐久値が0だろうから………攻撃手段は持ってないし、ダメージを与えられることはないだろうけど…
「まさか…な。……あのUBMは身体ごと魂を食らうことで、封印している……自身のからだのなかにな。だから、即座に喰らったやつらをアンデットとして活用できる…体内にストックした分ならどれだけでもだ。が、ゾンビにしろレイスにしろ、最重要な部分はやっぱり魂になる。もし、PLを倒しても身体も手に入らず、戦力が減るだけだと理解したのならば……」
「カカカ、なるほどのぉ……そりゃあ戦わないことを選ぶわな」
やっぱり、戦ってくなかで最適化されていってるんだ……主に知能が……
「このままじゃあ逃げられちゃう!早く行こう!」
「まて!目的を忘れるなっ!情報させ収集できれ――」
えっ?目的……そうだった!今回はあくまでも情報収集で万全な状態で望むための布石。だから、ここで飛び出しちゃ不味いんだ!
うわっ!あのUBM…いつもの隠密の組合わせを使っているのにこっちを向いた…ってことは、私の存在に気がついているってことだよね…。
……自分でしたことぐらい自分で何とかしないと……よし、このまま飛び出して戦闘にならないためには!
スキル【魔力操作】[絶気・融闇]の範囲指定、【無属魔法】――魔術[反転]
UBMの周りに気配を断絶する[絶気]が覆われ、その上から視覚を防ぐために[融闇]を使う。どちらも効果を内側に反転させて。
その間にすぐにみんなのもとへと戻る。
「これであいつは私に気がつかないはず!」
「この阿呆が!もう少し慎重に行動しろっ!……まぁ、無事に事なきを得たのだ。とりあえず、帰るぞ」
「カカカッ、そこの二人から見れば急にUBMが黒い靄を覆い始めたように見えたじゃろうな!……まるで急にパワーアップしたと認識されたりするやもしれぬのぉ?」
「うぅ……ごめんなさい…ま、まぁ、誰にも存在がばれなかったから…だいじょうぶだよね?そ、それに……私の[融闇・絶気]がそこまで通用しないこともわかったよ…。」
「そうか………では、作戦通りやつを倒すのは次の機会だな」
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大豆はこのUBMにやられかけたとき、ふと…なにか変な感覚を抱いた。
……なんだ?…なにかがいつもと違う…。
走馬灯のようにこのUBMを倒すまでの行動が記憶に甦る。仲間の発言、3つのパーティーとの会合……そして、ここまでの誘導。
そうか、引っ掛かってるのは誘導してきたことに対してなのか…。だけど、何に?……なにかを見逃してるはずなんだ…。
今まで戦ってきたUBMらは全て街や村などの外にいた。だから、誘導する必要は今日までなかった。今回が初めての体験なのだ。
そんなUBMらは場所によって生息するMOBのタイプが違う。
ボスだけの対策をしていればそういった環境に足元を掬われ、環境ばかりに力が向きすぎると肝心のボスの対策がとれなくなる。
この二つをいい案配で組み合わすことのできる者がゲームにおけるトッププレイヤーだと思っている。
ボスが使役するMOBが出てくる場合もあるが、それでも周りのフィールドのMOBが消えるわけではない。UBMと戦っているときに、フィールドボスとかち合うことはざらにあるのだ。
これがボスばかりに集中してはいけない“環境”のひとつだな。
他にも、ボスだけに集中し……て…は…。
そうかっ!……俺たちはボス以外のMOBをアンデット系のやつだと考えていたが……あれはUBMが体内に溜め込んだやつを使ってるだけだから……ここの環境ではない。
ってことは……そうだ…ここに来るまでの誘導中にMOBが一匹たりともいなかった……たしか、あの村の入り口近くまで敵対MOBはいたはずだから、これは不自然なことだ。
だとすると、この場所の環境に棲むMOBはどこにいった?
そのとき、大豆はあるものを見た。キラリと月明かりに反射して一瞬見えた短剣の刃を。UBMの後ろにいたため、気づいたのは奇跡で偶然ではあったが、1つの推測に確信を得る。
たまに、レイドボスと戦い終わり、疲弊したところを狙うPKがいる。PLがアイテムを落とす確率は5%だが、レイドボスとなると参加人数そのものが多くなるため、落とす確率の分母も大きくなる。現に俺はその5%に当たったしな……つい先日に。
他にも、ただ単に喜びの雰囲気をぶち壊したいものや、レイドボスが倒れる前に参加してきて、漁夫の利をする者もいる……が、今回は何となく前者だと思った。
いろんな状態以上にかかっている俺は直に死ぬだろう。実際に、毒ダメージで完全特化のリーダーが今、死んだ。
運が良かったのか、まだ誰もアイテムを落としてはいない。
さて…おそらく次の機会でもこのPKの奴等は来るだろうな……お互いに決着はまた次回ってことか。ふぅ…何も落とさないことを祈って……女神じゃなくて魔王に祈ってみるか?
そんなどうでもいいことを考えているうちに、ついに力尽きた。
―――ここに集った者達は、次の機会に全てを託し、今この場では素直な撤退を選択した。
………まだ、幽鬼狼の存在は知られていない。
あ、ルフスは短剣を鞘から出していないので、大豆が見た短剣は別物の短剣です。




