イベント[第一章]:勇者リオの行動①
「しっかし、何であのじいさんは魔王側に行ったかなぁ!……おかげで魔法系の火力が不足しちゃってるんだけど?!」
「…クルルは……回復魔法だからな」
「ばったり会ったりしたら、お互いやりにくいだろうなぁ」
「あのじいさんのことだし『前々からやりたいと思っておったわ!』とかいって、平気で襲ってきそうだけどね……で、リオ?」
うーん…まずは肝心の大狼を見つけない限り始まらないんだけど、今回のアップデートで前のMAPの4倍以上広くなったって聞くし……あっちから行動を起こさない限り、自分達にできることはないかな?
………よくいう、人海戦術ってやつを使わないと始まらないかぁ。
「ってことで人海戦術しかないね。んで、発見次第レイドを組んで討伐……って流れかな。多分だけど、魔王軍側のPLって死亡回数制限があるから積極的には表に出てこないと思うんだよね。それに、魔王軍側だった人がだいぶこっちに流れてきてるんだよね?」
「…試練を受けられるのは一度きりのようだからな」
「ってことは、その試練に合格しなきゃ魔王軍として認められないの?…死んでここにリスポン………そりゃあ勇者軍に流れるしかなくなるわねー。」
少々不公平のように見えるけど……たぶん、それほどまでに強い力を持っているんだろうなぁ。てか、イベントやる前にイベントボスを潰すって非道いよね、ゲームで言う不正行為じゃん。
「何で運営は直接そのPLを処罰しないんだろう?」
「さすがにゲームの評判とか、世間の目っていうものがあるからねぇ…それか、単に証拠が不十分とかじゃないの?状況証拠しかないとかさ」
なるほど。……みんなのためにこんなに大きなイベントを用意してくれたのに、それを潰そうとするなんて……運営さんには同情するよ。
それにjobが勇者だからか、なんと!勇者軍の代表者に選ばれた。だから、みんなのかわりに、そのPLを討ってあげないとね!
「…近場の大狼は既にやられてる。探すなら、新しいところか?」
「そうなるわね。でも、魔法火力がいないから探索が大変…」
「うーん。パーティーメンバーを一人募集する?」
「それならいっそのこと6人のフルメンバーにしたいよね」
「…行動してから考えるぞ……メンバー募集からだ」
「じゃあ、ギルドに行こっか。自分ならギルドにいる人たちからなにか大狼にまつわる情報をゲットできるかもしれないしさ」
「あ、そっか。このサーバーはイベント専用なんだから、当然NPCが何かの情報をもっているはずじゃない!……あまりにゲームっぽくないからRPGの定番を失念しちゃってたよ」
「そうか!ってことは、このイベントができたと同じ……つまり、新しい街にいる人たちならなにか知ってるかもしれないね!……なら新しいMAPを探索して、街を見つけることに専念しよう!」
「…口よりも行動だっ…まずはギルドだ」
「でもさ、あと一時間後に代表者の挨拶があったよね?」
あっ………忘れてた。
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「ああ~!……緊張するよ~…」
「一万人以上だっけ?」
「うっ………余計に緊張度をあげるのはやめてくれよ姉ちゃん……」
「(おっ、だいぶテンパってるねぇ)そうね……勉強はしてるの?……そろそろ―――」
「ぐっ…………リアルの方でいじるのもやめてくれ……」
とりあえず、ギルドにパーティーメンバー募集の紙は出した。これが終わった後に向かう場所も既に決めてある。大まかな方向だけしかきめてないけど……
うん、演説の内容を考える時間がない…………いや、あるにはあったんだけど……忘れてた自分が悪いなぁ。これは。
しかも、ここがどこか知ってる!?王城だよ!
『我ら人類の希望の星よ。どうかこの窮地を救ってはくれないだろうか?……最早頼ることのできるのは勇者であるお主しかおらんのだ。民を守るのは王の務めであるが、我ではこうして頭を下げることしかできん。だから…お主が満足するまで、我はどれだけでもこの頭を下げつつけようぞ!』
王様にここまで言われてさ、代表者になることを断れると思う!?しかも、王様の周りでは家族?が泣いてるんだよ?……少なくとも自分は断ることができなかったね………しかも、『わかりました』って言ったときの王様達の顔といったら……………やっぱり誰かの力になれるって素晴らしいことだよね!
んで、現在私が演説するであろう場所(王城の二回にあるそこそこ広いベランダ的なところ)からはフリームの初期スポーン地点……つまり、一万人以上が普通に入れる大きな広場が一望できる…………はぁ。
あ、そろそろ時間だ。………うぅ、行きたくないよぉ。何で勇者なんかになってしまったんだよ!……。
「…行ってこい」
「……はい……」
自分がそのベランダに出た瞬間、割れんばかりの拍手の嵐が起こった。
確かに勇者っぽい豪華でありつつ強い鎧を纏っているとはいえ、そこまですごそうに見えるか?中身はただの高3だぞ?
うわっ、後方からすごい期待の視線を感じる。
と、とりあえず、な…何か言わないと!…………え~っと…うーん…ああ、どうしよう!なにも出てこないよ!!…ええいくそっ!こうなったらやけだ!
「我が名はリオ!…女神に選ばれし勇者、リオである!!」
―――シィィィン―――
………っ!…顔がものすごく熱い。もしかしてアバターの顔も赤くなっているのだろうか?ってそんなこと考えている場合じゃなくて!!……うぅ、なんか雰囲気が重くなってきちゃってるよ。
………うぅ…
「…何て言っても、自分は只の一プレイヤーにしかすぎないし、このユニークjobだって殆ど運のおかげでてに入れられたようなものです………
<中略>
……きっと…こんな重荷、自分一人じゃあとても背負いきれません。もし、皆さんがよろしければこんな自分でも支えようと思ってくれますか?」
うっ、また沈黙か……自分にはなんのカリスマもなければ演説のうまさもない…たぶん、自分は代表者をやらない方がいいよね。………
ため息をつこうとしたちょうどそのとき、辺り一面に先程も響いた拍手の嵐が巻き起こる。
「えっ?……えっ!?……どう言うこと?」
風に乗って集まってくれて人の声がたまに聞こえる。『俺は一生お前について行くぜ!』『できることならなんでもいってください!勇者様!!』『なかなかにいいやつじゃないか!』
等々、その殆どすべてが勇者の演説を肯定する歓声であった。
「勇者様だってさ!………なかなか私の弟も大きくなったね…」
「…ギルドに戻るぞ。こっそりとだ」
「………………」
あまりの嬉しさと喜びで、言葉が出てこない……でも、感謝はしないと。
「これを聞いてくれている皆!本当にありがとう!!」
この言葉で演説を終了した。長いようにように感じた述べ5分の短い演説だった。




