イベント[第一章]:拓と漣
日曜スペシャルということで少し長めです。
このゲームはPKを特に縛ってはいない。むしろ推奨しているとも言えるだろう。街中でもやろうと思えばできるのだから。
そして、NPKも禁止されていない。そのため、クエストのフラグになるNPCを自分がクリアしたあとに殺して、報酬を独占……なんてこともできる。まぁ、わかってて誰もそんなことはしないんだが。
そして、物の流通にも縛りはない。例え価格が超変動したり崩れたりしても、運営は特に関与しない。
何が言いたいかと言うと、運営はこの世界を放置してプレイヤーとNPCのみで成立させようとしている。だからこそ、NPCやPLがどんなことをしても見過ごされる。
……いや、どんなことでもと言うのは語弊があるな。
一つ、β版で起こった100人しか知らない事件を話そう。
β版ではまだ未完成だったのか、不具合やバグがいくつか存在した。それを発見し、報告するのがこのβ版及びテストプレイの目的であった。言い換えれば、それが運営の目的だった。
意欲を高めるためかは知らんが、バグ・不具合を見つけたものが多い上位三名に、サービス開始後なにか特別な報酬が貰える……と公式が発表した。
何故そんなことを言ったのか………考えればわかることだが、β版での自由なプレイを意識下に制限するためなんだろう。
こうすることで、β版では遊ぶことではなく、探すことに注意が向けられるからな。
だが、その制限を無視するプレイヤーが一人いた。名前は……知らない。まぁ、通称“無制限者”と呼ばれてたみたいだが。
さて…そいつが何をしたかと言うと、このゲームを楽しんでいた。いたって普通のことだ。この時点ではなんの問題もない。
じゃあ、何が事件なのか?……そいつはこの世界におけるUBMを十何体か倒した。―――不具合を用いて。
報告することなく、不具合を自身の力として用いて倒していたのだ。もともと、このβ版はバックアップのとった世界のため、なにをやらかしても影響はなかったはずらしい。一番最初に公式がそう言っていたから、間違いはないだろう。
だが、無制限者の不具合はデータを通じてバックアップごとUBMを消滅させたらしい。分かりやすく言うならば、無制限者に倒されたUBMはバックアップから復元できない……と言うことだ。
そう、完全に運営にとっての予想外の出来事だ。そして、このままではこの世界をゲームとして成り立たすことが難しくなる。
そこで、はじめて運営がこの世界に関わった。そのプレイヤーを倒す(報告する)ことを目的にすり替えることで。といっても、直接的に、そのプレイヤーを殺して報告しろ!といったわけではない。報酬をつけて、それとなくそのプレイヤーを報告してほしいなと匂わせただけだ。
結論を言えば、そのPLはすぐにPKされ報告された。それ以降、そのPLはログインしてきていない。
おそらく、報告され、その内容が正しかったから、対応しただけのことなのだろう。
運営は確かに関与した。が、その関与は決して運営が手を下したわけではない。俺達PLの手で解決させたのだ。この事件を。
「……くそっ!……」
「?……なにか言った?」
「いーや、なんでもねぇ(笑)」
おそらく、ルフスも運営にとって都合の悪いこと……イベントボスを潰した。たぶん、それで不具合かなんかの、直接このゲームに影響のある事件を引き起こしたのだろう。
ここで、ルフスが勇者軍にいけば問題はなかったんだろう。このイベントに参加せず、ログアウトしていれば良かったのだろう。
だが、ルフスはそんなことはしない。むしろゲーマーとしてそんな状況を楽しむんじゃないだろうか?
(まぁ……残念ながら、天然バカのこいつは自分が何をしでかしたのか気がついちゃいねぇんだろうなぁ……はぁ。)
まぁ、いっか。久しぶりにこいつとゲームを楽しめているんだ。ゲームは息抜き。こいつが嫌と言うまで付き合ってやるさ。
……それが幼馴染みである俺に交わされた約束でもあるしな。
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「急にホワイトアウトしたと思えば……どこだここ?」
「おっ!拓じゃん、おっはー」
急に見知らぬ女性がリアルの名前を持ち出して話しかけてきた………不審者だ。
「ひっどいなー。不審者じゃないよ?!」
「ならその証拠を出せ。」
“後、俺のリアルの名前を出すな”といいかけたが、今それをいってしまえば認めたも同然。たまたま当たっただけかもしれない。ってか、たまにルフスが口にしているのを聞いた可能性もある。……おのれ、ルフスめ…いつか天誅を下してやらねば。
「証拠か~……えっと!じゃあ、今日の午後ずっと配信してて、ルフと一緒にやってて、その後に拓とLVOについて電話した!……私のリアルネームは雨無 漣だよっ」
もしかしたらまわりに誰かいるかもしれねえのにリアルネームをいうか?普通。
いや、まわりに誰もいないことがわかってるからこそ言ったのか。
こいつ…漣は養殖だ。天然に見せかけているのは相手の油断を誘ったりするためでもある。すべて計算され、起こるべくして起こっていると言ってもいいだろう。
まぁ、天然な喋り方が癖になってしまったようだが。
「はいはい、わかったよ。どうせPNもレンだろ」
「おっ!よくわかったね!?……じゃあ、そっちはアンドレア?」
「そうだ。とりあえず、しばらくはよろしくな。………どうやらここではフレンドもパーティーも意味なしのようだが」
「ん、よろしくー!でさ、気づいてると思うけどさ……この黒い霧、毒だよね?」
「そうだな……何とかしないといけないが………とりあえずこの霧を抜けるか?」
「あっ……でもさ、秒間80ずつHPが減るんだよね?」
「だな…(アイテムも当然使用不可…か)…じゃあ、この霧をどけるか。」
「よしっ!私のjobは≪精霊弓術士≫だぜっ!風魔法はお得意だっ!」
「なるほど。じゃあ、俺はシンプルにこの魔力を霧散させるかな」
この黒い霧は見たことがある。確か、魔力をそのまま物質化したものだったはず。なら、魔力を霧散させればいい。唯一剣士が魔術師に勝てる方法だ。
「≪精霊魔法:シルフ≫四大元素を司りし内の風の精霊よ!今ここにその力を持ってして顕然せよ!“旋風”」
「あっ?………精霊魔法ってそんな小っ恥ずかしいセリフが必要なのか?」
「いや、別に?何となくカッコいいからいってるだけだよっ!動画映えもするしねっ?」
はぁ……なんだ、ただの厨二か…。たぶん、セリフはあれ(かっこついてる部分)だけでいいんだろうなぁ。
「でもさ、このセリフつけた方が威力が上昇してる気がするんだよね。……ってか、周りの魔力を使うようにしたのになかなか晴れないんですけどー!」
「だいたい1/100ってところか。まぁ、後は作業ゲーだな。これを百連発するくらいの時間なら耐えれるし。」
「いやいやっ?!アンドレアも手伝おうぜっ!」
「えー、面倒。」
「あのさ?忘れてると思うけどこれでも私は年上だよっ?!」
「そうかー……あと十年もしたら……」
「うるさいうるさーい!私はぴっちぴちの永遠の19歳なんですぅー!」
「はいはいそうですか。まっ、準備に時間がかかってただけなんですけどねっ!≪断界≫≪スキル付与≫魔断剣!」
「って、アンドレアも言うんかいっ!?」
「ふんっ!…………そっちの方が格好いいだろ?」
どちらも何かを拗らせてしまった人であった。
バグと言わずに不具合と書いたのは仕様です。後、漣は養殖8割、天然2割です。桐紅のせいです。




