イベント[第一章:光と導きの祝福]開始!
私と拓のいる場所に一つの画面が投影された。後ろの背景が透けてないことに少々驚きだ。
画面には運営の人と思われる、あからさまに科学者だろっ!ていうような格好をした人が映っている。
『あー、あー……音声の調整中だ。………よし。さて、今ここにログインしている諸君!私の声が聞こえてるかな?』
「……重松か…………」
「?…もしかして知りあい?」
「いや。って、ほんとに公式のホームページ見ねぇんだな?」
「まぁ、最近はね。新しい素材とかMOBについての情報があれば見るんだけどねー」
『なんと今ここにログインしている人数は2/3以上もいる!……こんなにも楽しみにしていてくれて私達はうれしい限りだよ……しかし、少し今回のイベントにあたって予想外のことが起きてしまった…。』
手振身振りで感情をとてもうまく伝えている。…人の心をつかむのがうまいのだろうか?
もしかして、心理学とか学んでいたのかなぁ?
『とりあえず、予想外の原因とみられる動画がある。……これだ』
「あれってたしか……掲示板の…」
「……その手で来るか…」
以前見たことがある、2体の大狼が向かい合っている動画だ。
『おそらくこの動画を知っている者はいるのではないだろうか?……さて、なぜこれが予想外の原因なのか…だが。そうだな、一言でいってしまえばこの大狼がイベントの討伐対象なのだ。』
えっ!そうだったの!………もしかして、私ってとんでもないことをやらかしちゃった?
「桐紅……お前は魔王軍だろ?俺たちにとっては護衛対象だ。乗せられるな」
「えっ?あ、あーね。そうだったそうだった…」
『この紅黒き大狼は第一の街フリーム周辺のフィールドにいる予定だったイベントボスだ。そして、もう一匹が第三の街の周辺のフィールドにいたイベントボスだ。……難易度としてはこれまでのレイドボスの3倍くらいだ』
えっ?!………そんなに強かったかな?
『予定では、この二匹が最初に倒される予定だったのだが……本来はこの大狼を倒せば“証”というものが手にはいる。これはイベント期間中に発動されるもので、証を持つ人は全ステータス20%upし、その人が含まれるレイドにはいくつかのバフがかかるようになっていた。が、それができなくなってしまったのだ。少なくとも、残りのイベントレイドボスはこれらの10倍は強い。証があることを仮定して造られたからな。』
「…………っ!……」
「?……なにか言った?」
「いーや、なんでもねぇ(笑)」
そう……ならいいんだけど……なんか、拓が怒っているような気がしたんだよね。
『しかも、あろうことかこの大狼をイベント期間外に倒したことでその証をほぼ永続的に使えるようになっている………それが勇者軍にいれば良かったのだが………なんと!魔王軍に参加してしまったのである!』
証の永続的使用?…少なくとも全ステータス20%も上がってないけど……。
『今回のイベントのシナリオとしては、魔王に仕えし者が放った12の災害から街を護る!というものなのだ。そう、この大狼より強い魔王に仕えし者がおり、その上に魔王が存在する。到底証がないと勝てないのだ。……そんな強大な力を手にし、一人優越感に浸っているプレイヤーを!その力をこの世界に住まうNPCを護らずにいることを!お前たち勇者軍のプレイヤーはどう思うっ!』
わぁ……ほんとに演説がすごい…人の感情や心理を全て把握して話してる。
「……魔王軍の選択肢を消しに来たか………運営としてそんなことをしてもいいのかよ」
『というわけで、今回のイベントに急遽ある要素を追加したっ!魔王軍に参加したプレイヤーを勇者軍が倒せば、同じく証を付与することにする!それに、もしこの予想外の元凶のプレイヤーを勇者軍の誰かが倒すことができれば、このイベントが終わり次第、“光と導きの女神”の祝福を与えよう!…』
「光と導きの女神……新しく導入された女神ってやつかな?」
『祝福と聞いてもあまりわからないかもしれない。そのため、少し説明をしよう。まず、二つ名持ちのプレイヤーがいると思う。これは、二つ名に見合った力持っていると女神が認めた場合に限り、二つ名と同意義の能力を永続付与する現象だ。この現象を“祝福”という。つまりだ!そのプレイヤーを倒すだけで二つ名持ちになれるということだ!』
「へ~……そう言えば、拓は二つ名ほしくないの?」
「ん?なんだいきなり」
「いやー、もしここで変更可能だとしたら拓は勇者軍にいくのかなぁ…って」
『次にイベント期間中の事を話そうと思う。まず、こことは別のサーバーを使う。イベント専用サーバーということだ。そのサーバーでは時間を現実の何十倍かにしてある。公式HPに書いた通り19時~23時の四時間で、だいたい一週間分くらいにはな。』
ええぇぇぇっ!!そんなことできるの?!………常に3、4倍してくれればもっと長く遊べるのに……。
「常に5倍とかにしてたら、その分プレイヤーも5倍の早さでやめてくだろうな。」
「あー、そっか………って、私の心を覗いてるの?!」
「顔に出やすいからなお前は。」
ぐぬぬ……
『おっと!常に倍速にすればいいじゃないかって?…さすがにそれはできないな。……そうそう、別サーバーと言ってもそこで起きた地形変化やNPCの生死は元のサーバーに反映される。つまり、街が壊されてももとに戻らないということだ。逆を言えば、魔王軍はそれを狙ってもいい。』
『さて、こんな長い話をゴタゴタと聞きたくはないだろう?今回のアップデートの詳細は公式HPとオプションの“ルール”というところで確認できる。さぁ!これが最後の決断だ!!もう一度、勇者軍か魔王軍かのアンケートをとる!魔王になってこの世界を壊すのも、勇者になってこの世界を護るのも、全ては君達の選択だ!この物語を紡ぐうえで誰もが主人公なのである!』
「拓はどうする?」
「ん?俺は魔王軍一択だな。ルフスはどうしたい?」
「……もちろん!魔王軍しか目に入ってないよ?」
私は悪役プレイが好きだからね…………悪役……悪魔…ロールプレイ……うっ、頭が…。
『ふむ、全てのプレイヤーがアンケートを終えたようだ。それでは、今を持って!公式大型イベント[第一章:光と導きの祝福]を開始するっ!!』
うわっ!また視界がホワイトアウトして…
・
・
・
・
・
・
ん?なにも起こらない?………そろそろ目を開けてもいいよね?
「えっ、ここどこ?」
辺り一面真っ黒な濃霧に覆われていて、なにも見えない。伸ばした手の先すら見えるか怪しい程だ。
「アンドレアー?いる~?」
……一切返事がこない。どうやら、パーティーも解除されたみたいで、フレンド連絡もなぜかできない。
「うーん、周りに生物反応無し……かぁ。」
いつものスキルの組合せ(洞観・直感・千里眼)を使って気づいたのだけど、MPが減らない。というよりは、使ってもすぐに回復している。
「もしかして、この霧?」
試しに息を止めて使ってみる。……おっ!MPが回復しない!
んー、とりあえず、空のポーション瓶にでもこの霧入れとくか。魔力回復剤にはなるでしょ!
「MPが減らないなら絶気と融闇を使っておくかぁ……辺り一面黒なんだし、そうそう私に気づくものはいないでしょう!」
おおっ!全く減らない。………第三者から見たら今の私ってどう写るんだろうね?
(とりあえず辺りに何かいないか警戒しつつ、直感の赴くままに進んでみるか!)




