運が良いのか、悪いのか…
右斜め上、地面からおよそ50°から振り落とされる長く黒い鋭爪。すでに見たパターンの攻撃で……的確に刀でいなしていく。いなすといっても、Lv差が大きく違うためステ値の差で押されていくが。
「……くっ!……っ?!」
刀身の半ば辺りまでその爪が滑っていく。そこで手首をすぐさま返し、柄頭でその脚を弾いた。体制が崩れたところに切っ先を向けるが、相手は既に距離をおいていた。
「これじゃあLv上げができないんだけど……。しかも、まだ1/5程度しか削れてないし。」
・
・
・
・
・
・
意気揚々と狩場に向かいデッドウルフと言う敵MOBを倒していた…………三十分ほどだけど。
というのも、敵MOB総合計50体討伐の報告が流れたと同時にこいつが現れたせいなんだよね。……桐紅は激怒した(笑)
[黒狼妃:ノヴィシムルプス Lv60]
最初は「Lv差が50?!ヤバイっ!逃げないとっ」って思ってたんだけど……
『この戦いを終了しますか?終了する場合、一般のデスペナルティに加え、今装備している物のいくつかが強制的に破壊されます。30%の確率で持っているスキルのうち、一つのみ消える可能性もあります。 yes/no 』
ここの運営は鬼畜な人しかいないんだなぁ……。
初期装備がいくら耐久∞とはいえ、“強制的”なら壊れるかもだし、スキルが消されるなんてもっての他だし………。
「それに回復系のアイテムも購入してないから、下手にダメージを受けられない…。」
・
・
・
・
・
ということで、一時間近く防戦を強いられている。けど、ステータスに大きな差があるから、その場から動くことは出来なくて、常に小さな動きで攻撃を押さえることに専念するしかない。まぁ、ジリ貧なのには変わりないけど……。
「何かいい手はないかな~?……何て言っても、この武器が初期装備じゃなかったら、すぐに破損してたんだろうなぁ~……。」
そうなのだ。もしこの武器が初期装備じゃなかったら、攻撃をいなすこともろくにできなかったと思う。壊れないからね。
三回攻撃しては離れ、また攻撃しては離れる。なかなかに賢いモンスターで、攻撃できる隙が、その攻撃の合間にしかない。そんな僅かな攻撃を当てるために、紙一重で避けるのは精神的に……ちょっと…ね?
「ほんとに……なにかいい方法はないのかなぁ?」
まだLv9なんじゃこちとらぁっ!運営は何してるんだよぉ……あ、これも含めて自由なのか……え?自由ってなんだっけ?(ゲシュタルト崩壊+キャラ崩壊)
そんな自問自答? している中でも、攻撃の手は緩めてくれない。右足を大きく振り上げ叩こうというのはブラフ。本命は、右前脚に注意が向けられたことで死角になった位置から襲いかかる、左前脚による切り裂き…
「えっ!まさかそれもブラフなの?!」
死角に注意を向け左前脚を弾こうと体制を変えた瞬間、【視力上昇】のスキルによって少しだけ広がった視界に、口を開いて今にも噛み千切らんとする黒狼妃が写る。
……まずった!
――――サシュッ………。
「ん?……死んで――ないのか?」
ふと、黒狼妃を見上げた。
―――私の手は、肩の付近まで黒狼妃の口でおおわれていた。噛まれることなく。
私の手は伸ばしても肩口まで60cmあるかないか…程度だけど、その手の先には刀身65cmの武器があったはず。しかし、黒狼妃の全長は目測3mと以外と小さい。
私が、なかなかダメージを与えられなかったのはステータスの差がありすぎたからだろうと予測。
え?何を結局言いたいのかって?それは
「すごく早い勢いで、黒狼妃の体力が目減りしている……。」
具体的に言うと、毎秒で体力ゲージが全体の1/100減るといった……。
「確かこの世界の設定って、どのモンスターも体内の酸性が強いから武器とかを埋め込んだりするとあっという間に壊れるんだよね?」
そう、あっという間に壊れるはずなのに………うん?あっという間?ってことは耐久値が大きく目減りしているってこと?あ、耐久値が徐々に減るということかな?…………まぁ、あれだよ。あの~、初期武器こそが最強とかっていう…ね?
何てことを考えているうちに、黒狼妃の体力が1/4を切った。
「赤い……オーラ?ってことは何かの強化魔法?スキル?」
・・・もしかして、この敵MOBって何かのボスで、体力の何割か切ったらパワーアップする的な感じ……?
嫌な予感がし、一気に後ろに飛ぶ。
――ズドンッ!!
さっきまで自分のいた場所には、小さなクレーターができていた。
明らかに動きが速い。攻撃力も増してる。
「すぅ――――フッ………ふぅ―――すぅ……」
少し独特な呼吸法、調息を行う。
黒狼妃が倒れるまで後80秒程度。その間は逃げに徹することにした。
・
・
・
全身を使った体当たり…の中に仕込まれた左後ろ脚でのカス当たり狙いの攻撃を相手の脚の下に潜り込み、カス当たりにあえて当たりに行く。結果両方ともバランスを崩し互いに退く。残り63秒。
予備動作無しに口から風魔法の何かを放つ。それを空気の歪みを見て躱し、迫ってきた黒狼妃の目に向けて指を向ける。黒狼妃はギリギリで自分の体を止め、近接戦に持ち込んだ。
ブラフ、ブラフ、本命、ブラフ、ブラフに見せかけた本命、本命、本命&ブラフ、魔法、ブラフ、魔法。
一つ一つを、攻撃してくる角度、目線、筋肉の動きから、どこを狙ったものかを判断し、一番軽い被害ですむように避ける。
残り28秒。
赤いオーラの上に黒いオーラを纏い始める。その代わりか、体力の減りが倍になった。
おそらくこの一撃にかけるつもりだと思う。
「………。」
全神経、スキル、今までのこいつの戦いの情報。使えるものをすべて総動員して、構える。
―――消えた。
が、強い意思を左後ろから感じ……っ!!
後ろ廻し蹴りを入れる。
―――ドンッ―――
決していい手応えではなかった。だからか、その蹴りをものともせずに黒狼妃は立っている。が、すぐに、ポリゴン片へと変わっていった。
「――――…………勝てた……。」
―――ドサッ―――
<称号>[黒狼妃の単独覇者]を入手。
[格上への挑戦者] を入手。
<スキル>【直感Lv1】【集中Lv1】【受け流しLv1】を新しく入手しました。
『極度の精神的疲労を感知。強制脱退を施行します。お疲れ様でした。』
ここで忘れてはいけないことは、彼女のジョブは≪商人≫と言うことです!
次は現実のほうの話になるかな?