錬金術師の交渉
日曜日ってことで少し長めです
「ん、おはよー」
「ああ、おはよう。飯はテーブルの上に出してあるから好きなときに食えばいい」
「サンキュー…」
「じゃあな、帰りはいつも通りの時間だ」
「はーい……いってらー」
だめだ………寝すぎたら寝過ぎたで眠い。もっかい寝てこよっかな?……せめてご飯食べてからにしよっか……あっ、歯磨いてこなきゃ…。
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あー、眼が覚めた!やっぱし洗顔ってすごいね。一発で眠気が飛んでいったもん。
「よし、ごはんごはん♪」
いやぁ、拓には感謝しかないね!短い時間で私の朝食と自分の弁当を作り、学校に行く準備をして……おおっ、洗濯物も干してある!夜は夜で晩飯を作り、掃除をして……………あれ?私ってヒモオンナ?……
「しかも、まだごはん温かいし……」
出る前に一度暖め直しておいてくれたな?……さすが拓だ。
「んー、せめて掃除と洗濯物の回収はできるかな?……まぁ、さっき干していったばかりだし、回収するのは18時くらいでいいか」
さて、朝御飯を食べたらすぐにダイブじゃーい!…………拓っていつ勉強してるんだろ?……いつかこの恩を返さないとね。
「ん!……卵焼きの味がいつもと違う…」
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「ログインしたはいいものの、何をしようか?」
はい!まず、しておきたいことをまとめていきましょーか!
ひと~つ!<装備を整えること>
今改めて思ったんだけど、未だに防具が初期装備なんだよね。てか、もはやこれただの服だし。……でも耐久∞なんだよなぁ。
ふた~つ!<内装を整えること>
いうて、家具とかおいたりするだけなんだけどね?構想はもうできてるし。あ、一階は店にするつもりだよ?
みっ~つ!<レイラさんに会うこと>
昨日呼ばれてたんだよね。ちゃんと今から行きますっていうメールを送ったから大丈夫なはず。
そう!レイラさんに送ったメールの通り………今から第一の街に行きます。
理由としては、家具を買うため、防具を買うため、レイラさんに会うためだ。
この世界は某RPGのような後半の街ほどいいものが売っている…なんてことはないので、第一の街で事足りる。もちろんいいものほどお金はかかるよ?
ちなみに現在持っているお金は、土地を買わなかったため残った45600カラトがデスペナで1/3減額になった分の30400カラトである。
さぁ、さっそく第一の街に行こう!……ポチッとな。
視界がホワイトアウトし、五感が消える………いまいちこの感覚には慣れないなぁ。死んでリスポーンする感覚と同じはずなんだけど……。
「うっわー……平日のはずなのに大分いるなぁ」
東京都のハチ公前程ではないけど、市の祭の道かと思うくらいには人がいる。
「これ、通りづらくね?」
レイラさんの店がリスポーン位置から近くて助かった~。もし、離れてたら……この人だかりをかき分けて進むことに………ほんとに感謝感激あめあられだよ。
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「レイラさーん!来ましたよー!」
「いらっしゃい、ルフスさん」
「えーっと、呼び出した用件を訪ねても?」
「ええ。前に作ってくださった状態異常のポーションが未だに作れなくて、どこが悪いかを見てもらいたかったので呼んだのです」
状態異常のポーション……私が作り出してしまった物だ。
ことの発端は、回復の力をマイナスまで下げたらどうなるかと言う実験から始まった。回復ポーションにはその効果をプラスする素材と、マイナスにする素材がある。マイナスになる素材も、組み合わせ方によってはプラスの効果にもなるので一概にダメな素材とは言えないんだけど……。
んで、回復ポーションにとりあえずてきとーにマイナス素材を投入していった結果、
<回復ポーション>
効果:体力回復 -1%
と言うものができた。
試しに体力を減らしてから飲んでみると、最大体力の1%分減った。
回復じゃなくて損傷だよ!これは!と思ったけど、まぁ……実験は成功したわけだ。
次に、このポーションをいかに少ない材料で作れるか試したところ、ベースを微少の回復効果のポーションにして毒性の素材を入れることでできた。
この毒性の素材に他のものを使うことで【麻痺】だったり【睡眠】の効果にすることができる。
これらの作り方とともに、実物を十数個ほどレイラさんに渡したんだけど……
「作成できなかった?」
「ええ。いろんな方法を試してみたのですが……何故か出来ないのです」
そう言って、レイラさんは机に回復効果0%のポーションをずらっと並べた。
「これは………成れの果て?」
「成れの果て…というよりも、中身のない回復ポーションですかね」
レイラさん曰く、状態異常のポーションが作れないので、まず、マイナス効果の回復ポーションを作ることにしたらしい。しかし、いくつ作っても0%のものしかできないようで…。
「んー……もしかしてスキルとか関係あるのかなぁ?」
「スキルですか?………!」
「?……何か思い当たることがあったんですか?」
「もしかして……【料理】のスキルのせいかもしれませんね」
「【料理】?調理のスキルの上位互換ですよね?」
「おそらくその考え方が違うのです。料理というスキルは調理のスキルを進化させたわけではありませんからね」
「んー?なら言葉の意味がそれぞれ違うってこと?」
「たぶんそうだと思います。料理は…簡単に言えば調理して出来た物を指します。それにたいして調理は、出来上がる前の過程を意味しますから………それならば、ルフスさんの作るポーションが全てランク9どまりであることに繋がりますしね」
「なるほど……料理は出来上がったもの…つまり完成品に補正がかかる。でも、状態異常ポーションの元は回復アイテムのカテゴリーに含まれるから未完成品。料理スキルの補正が掛からないから、回復効果を持たない……ってわけですか」
レイラさんの場合、いくら状態異常ポーションを作ってもマイナス効果にならないのは【料理】のスキルによって、プレイヤーに害の及ばない製品へと補正がかけられるからか~。
「しかも、料理のスキルはパッシブですしね……たぶんレイラさんでは作れない…………」
「………ルフスさんのおかげで原因がわかりましたので、もう少しだけ挑戦してみますね。―――それと、この0%ポーションは全部あげます。回復効果を完全に持たないもので始めた方が効果もあげられるでしょう?」
「えっ!いいんですか?」
「ええ。というのも、この0%ポーションはいい媒体になりそうなのでいくつも作ってあるんです。私はこれを、ルフスさんは状態異常を………なかなかいい話だとは思いませんか?」
あれ?私が商人だよね?………レイラさんの方がマッチしてるというかなんと言うか…。
「ありがとうございます。………そうですね、ではこんなものとかどうですか?」
まだ効果は小さいけど、最近開発できたポーション?だ。
「タブレット……ですか?」
「はい!ポーションをなんとか固体化させました!………その過程で効果は幾分薄まりましたけど……どうでしょうか?私の新技術は」
「なるほど………では、アイテム製作に特化した作業台(魔動力式キッチン)をあげましょう」
「えっ?」
「これは魔力によって動いている設定なので、折り畳み?ができます。そのおかげかインベントリにも入るのでなかなか便利ですよ?」
私の考えが纏まらない最中、レイラさんは横30cm・縦20cm・高さ30cmの直方体の物体を渡してきた。
「これが?」
「ええ。試しに出してみましょうか」
その直方体に手をかざし何かした瞬間
「うぉうっ!」
いろいろな機能がついた、キッチンのような何かが飛び出した。
「このように、直方体の状態で一定量のMPを消費するとこれが出てきます。戻すときは、真ん中(上部)にあるレバーを引くだけでいいのでお手軽ですね。ちなみに、出したままログアウトしてもその場に残り続けるのでインテリアとしても使えますよ。最近拠点が出来たのでしょう?……ふふっ」
うわぁ~、絶対貰うしかあとがないじゃんー。いや、ほしいからいいんだけどさ?
……笑いながらずっと見つめてくるんだよ?しかも、断ったら何か起こりそうな雰囲気で見てくるんだよ?報酬をつり上げるなんて恐ろしくてできないよ?………悪徳な商人ってこういうことを言うんだね……。
「あ、ありがとうございます。で、では、今日はこのくらいで―――ってそうだ、レイラさんは結局どちらにしたんですか?」
「そうですね………秘密…ということにしておきましょうか」
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あの後、気になったんだけど……恐かったからそのまま店を出た。
家具とかも買ったし、防具もそこそこ(基準がよくわかんないから、ヘファイトスさんから預かった防具を参照した)なものを購入した。
そして現在……内装を必死に整えている最中である。
後、大型アップデートまで残り23時間




