幼馴染の繋がり
昨日から桐紅はずっとこっちに来ない。……まぁ、中学のころは二日近く徹夜して、食べずの生活をしていたからそこまで心配はしていないのだが。
「ったく……あの世界にのめり込みすぎだな。」
リアルなVRMMOの弊害。“現実とゲームの境界線が崩れる”こと。
別にこれ以外のVRゲームはある。ただ、本格MMORPGのVR版はなかった。
―――いや、常識的に考えて出来なかった。
「広告では現在1万5000人がプレイしてるんだったか」
社会現象になったわりには少なく感じるが、ただ単にこのゲーム専用のVR機器が足りてないだけだ。どのみち、このイベントが終わる頃には第四期生の者が来るしな。
「はぁ……たった一つのMAPに1万5000人―――いったいどんな処理能力をもつサーバーを使っているんだ?」
他にも…高性能AIは存在する……人間と同様の知能を持ったAIという存在がな。
だが、あくまでも知能だ。人よりもデータの仕事は優れているが、人工知能であることにかわりはない。
「結局は人の手でプログラムされている物………なのに、“人すぎる”んだよな。あのNPC達は。」
いろいろと気にかかるところはあるが、害がないなら問題ないか。
さて、そろそろメンテナンスが入る頃だから……3……2……1……
「桐紅ーっ!ゲームのしすぎだッ!」
「…あっ!ごめん!!すぐに降りるねっ」
―――ガシャンッ!ガンッ……ガシャン―――
「……あの、バカッ…」
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「で、どうだった?」
「うん、魔王軍に所属したよ?」
「あー、そうじゃなくってな。なんかやろうとしてたことがあったんだろ?その結果はどうなった?」
「うーん…そだね、その情報を聞くに値する対価は…出せるかね?」
ほう、対価ねぇ………。
「いつもこの環境を用意してるのは誰だッ?!……俺もお前みたいに一日ログインしっぱなしとかしたいんだよっ!」
「え!………えぇ?……体に悪いよ?」
「お前が言うかッ!―――はぁ……とりあえず、このメンテナンスが終われば一度会いに行くがいいよな?」
「ん?…始めてから一ヶ月は干渉しないんじゃなかったっけ?」
まぁ、干渉はしないつもりでいたんだけど……こいつを一人にしておくと何をしでかすかわかったものじゃない。てか、近くにおいておかないと誰かに迷惑をかけてないか心配だ。
「そう言ったのは、次のイベントまで自由にやろうぜってだけ(建前だ。)で、正確に一ヶ月って決めてたわけではないからな。」
「ふーん……ってことはまたアンドレアルフスとして活動できるんだねっ!」
「お、おう………今度久しぶりに“あれ”をするか?「うん!やるっ」」
……さすがに現実ではもうやらねえが………ゲームの世界ならいいよな?
「あ、ちなみにだが、今日の午後14時から学校に行くぞ?」
「えっ?………中退したのに?」
「あー、あれはやむをえずだったからな。ってか校長先生が呼んでいるんだよ……部活動にも来いだってさ。」
「私一人?………」
「大丈夫だ。俺も一緒について行くから。」
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「大迫校長。結城さんを連れてきました。」
「おおっ!よく来たなっ!桐紅君よ!!」
「校長先生が呼んでるって言われたら誰も文句なんて言えませんよ?職権乱用……なのかな?」
「はっはっはっ!!これが職権乱用なら、世の中生きづらくなったわ!」
大迫校長先生。……何故か校長室にはおらず、いつも校舎の格技場で何かしている。しかも服は道着と、大分変わり者な先生だ。それでも、教師を16年間続けていると言うのだからすごい。
「まーた失礼なことを考えてないかぁ?………で、桐紅君。“脚”は大丈夫なのか?」
「なんとも言えない…かな? 下半身不随でも、不完全型らしいんだよね。だから脚だけ感覚がないっぽい。」
ん?ぽいってどう言うことだ?確か下部腰椎(L5)
の不完全型で排泄などのコントロールはまだできるが、脚(大腿の上部から全部)のコントロールはきかないはず……
「ということは動くようになってるのか?」
「んー、何が“ということ”かわからないけど…時々なんか感覚があるんだよね。今はなんも感じないんだけど。」
「そうか。なら部活動に復帰はできんか……ふむ、車イスでやるとするなら………」
なに無茶言ってんだこの教師は?!
「なーに、冗談だよ。後二時間もすれば部活動が始まる。少しだけでいいから顔を見せてやってくれよ?“私は元気だぜっ”てな。はっはっはっ!!」
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「はぁ~、久しぶりに同学年の仲間と会ったから緊張したー。………でも楽しかった。」
「そうか。また行くか?」
「そうだね。毎日はさすがに嫌だけど、一ヶ月に一回とかなら大丈夫かな?」
「だな。…さて、お前はゲームのやりすぎと馴れないことをしたせいで大分疲れているな?」
「え?………そだね。」
「実は、そういう疲れには睡眠療法が一番効くんだ。」
「そっか。…わかった。少し寝るね。」
「ああ、おやすみ。晩飯ができたら呼ぶが、今日は少し準備に時間がかかる。待っててくれ。」
―――よし、桐紅は寝たか。……今日の晩飯は無難に和食でいいよな?




