冥暗狼シェードヴォルフとの闘い③
(駄目だッ……躱しきれない!)
せめてものおもいで、後方へ飛ぶ。まぁ、すぐに距離は詰められるが。
「うっ!……」
もろに振り落とした爪が当たり、右肩から左下へと一直線を描くようにして裂かれる。
血や肉片のようなものが流れ出た。………ゴア設定してなかったんだった…。
うぅ…痛みこそは抑えられて、足が痺れているときにつつかれる程度のものになってるけども……何よりもまずいのが、
「残存体力は60/720か……いなすのも、受けるのも危ない体力。」
そう、すべての攻撃を躱していくしかあとはないのだ。
(頼む黒狼妃……システムオーバーするほどの加護を…私に貸して)
―――グルッ…―――
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『―――冥暗狼っ!これが私の全身全霊の攻撃だよ!………【黒狼化Lv◼️】『ガアアァッ!』」
ルフスを纏っていた紅黒き瘴気はその形を狼に変えていた。
第三者が見ればそれは、ルフスが狼にのまれたように見えるが、実際は狼という鎧を装備した姿というのが正しい。
“加護”……それは人智を超えし者が力を与え、護ること。それは冥助であり、冥加のことを言う。
神ではない。仏でもない。でも、この黒狼妃が道具に魂を宿し活きているなら、それは立派な霊であり。神仏即ち霊である。
私が高校のときにやっていた部活動の教えだ。
―――ガアアァッ!!――――
『グルゥァアッ!!』
ルフスは黒狼妃を鎧うて、自慢だった身体能力を爪を牙を―――全身を凶器とした身で飛び掛かる。その光景はいつかの闘いの一部を切り取ったかのようで……
冥暗狼は黒より暗き純粋なる闇でその身を覆った。気配や姿を消さず、逆に己の存在を示すように……
ルフスの攻撃は3段階に分かれていた。牙で喉笛を噛み千切り、前脚で首の骨を叩き折る。けど、この攻撃はすべて黒狼妃のものであり、ルフスは刀と短剣で首を切り落とした。
しかし、そのとき既にルフスの脚はなかった。首を落とすと同時に、手が足が引きちぎられたのだ。
本来の予定では、短剣で冥暗狼の攻撃を死んでもいいから受け流すことだった…が、冥暗狼は既に死ぬことを認めていた。
プレイヤーからすればそれはごく当然のことであって、死ぬということを軽視している。いや、そもそもゲームだから死ぬという考え方はないのかもしれない。
でも、NPCはこの世界に生きる者であり、その命は本当の生命だとおもう。
まして、私たちが呼ぶUBMなんかはたったひとつのオリジナルの存在なのである。
そんなただひとつの命を冥暗狼は、私に一撃をいれるためだけに差し出した。
そのせいで私は数瞬の迷いが出て、受けること能わず致命傷を負ってしまった。
冥暗狼はそうして私の意表を突き、結果として不意打ちになった。狙ってやったのであれば相当賢かったと思う。
「相討ち……かぁ~」
『ガルッ』
おおっ、頭だけでも喋ってるっ!!若干ホラーだ。
冥暗狼はしばらく私を見つめたあと、光の粒子となって消えていった。
「超高性能AI………限界はあるのかなぁ?」
数秒後に、私も光の粒子となって消えていった
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『メンテナンスを実行します。10秒後には強制的にログアウトされますので、お気をつけください。10………9………8…―――』
次は現実の話です!拓についてちょっと詳しくわかりますよっ