冥暗狼シェードヴォルフとの闘い②
なにも考えずに、ただただ相手の攻撃を見極めていく。
この攻防に存在するのは愉しいという感情のみであった。
……いや、それだけを思うようにしているというのが正しいかもしれない。
「――――グラアッ!」
『ガァッ!』
そこに言葉は存在せず、あるのは獣の剥き出しの敵意……つまり生存本能。
冥暗狼にはいくつもの死線を潜り抜けてきた経験と種族としての有利性が。
ルフスにはスキルというシステム補整と黒狼妃の加護が。
普通は互角に闘えるはずはない。この創られた生物はレイドボスとなるようにして設定されている。
つまりソロでは、限界がある。
でも、その限界を超えてしまえば問題ない……というのがルフスのやりかただ。
ルフスは四足歩行に近い形で戦っている。まるで狼VS狼のように。
互いに体力は全く減っていない。そう……不思議なことに両者無傷であり、躱され、流され、受けられる。
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「グルァッ!」
刀を振り回した反動を、短剣を持つ手を軸にして回転することで後方に下がりながら低姿勢をキープする。
『ガァッ!』
その距離の差を一瞬にして詰め、その喉笛を噛み千切らんと飛び掛かる。
躱しきれないと踏み、自身も冥暗狼に飛び掛かる。
「初めてのダメージがこれか…」
『グルゥ……』
冥暗狼はルフスの喉笛ではなく左肩を噛み千切り、ルフスはなんと冥暗狼の耳を噛み千切っていた。
やっぱり……黒狼妃の加護は説明文が曖昧だったからよくわからなかったけど、本質的には黒狼妃の身体能力に近づけるものだと今わかった。
ということはだ、黒狼妃のなかで突出していたのは牙と五感だ。次いで爪とからだの柔軟さになる。上昇率としても、この順番で強化されていると考えていいと思う。
「だから、この犬歯で攻撃したんだよ。………時としては女性の方が凶暴なんだからね?」
『ガァッ!』
周りの闇に同化して、姿が見えなくなる。姿だけじゃない…気配までも消える
―――けど、MAPのマーカーは消えていない。
「ちょっとずるいけど、恨むなら運営を恨めっ!」
マーカーが向かった先、私の左後方に刀を振るう。
『ギャウッ?!』
見事あたった。マーカーは絶対に消すことのできない存在で、どんなに高レベルな隠蔽系のスキルをもっていたとしても、マーカーそのものを隠すことは不可能である。アバター防具として貰ったフードマントとですらマーカーは隠せない。
「正々堂々じゃないかもしれない……けど、野生において正々堂々何てないでしょ?」
『ガウッ…』
確かにな…とでもいうように首を縦に振り……闇の中から見える二つの目からは非常に理智的な光を放っていた。
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あれからどれだけたったかはわからない。分かるのは、互いの動きが徐々に鈍りつつあることくらいで…。
『ガァッ!』
何度目かの周りに同化してからの奇襲攻撃。振り落とされた爪を刀で受け、その衝撃を斜めに落とすことで受け流す。落とし終わる間際に手首を返し、その爪のある腕を切り裂く。
今ので冥暗狼の体力は残り4割をきった。
けれど、その奇襲攻撃を終えると同時に先ほども見たような、理智的な眼……自分の思惑が当たっていたことに喜ぶ輝きが一瞬だけ見えた。
いったい何をしようというんだ?
今までの流れとはなにかが違う空気を感じて、最大限の警戒をする。
直感のスキルの影響かわからないけど、確実に危険な雰囲気を察知していた。
『グルッ……』
この闘いだけで何十回と見た光景が行われていく。
冥黒のオーラが、冥暗狼を包んでいく。そのまま姿が見えなくなり、気配が感じられなくなる。
だがMAPには私の回りを大きく囲むように走り回る紫色のマーカー……つまり冥暗狼の居場所が映っている。
さっきまでなら、気配や姿を一切認知させないまま私の背後を取りに来る。
そう、さっきまでなら。
急に走り回っていた紫色のマーカーが動きを止める。距離としてはまだ10mと離れているのに。
MAPには動きがなかったから、少しだけ力を抜いたその瞬間
――――私の正面に冥暗狼シェードヴォルフが、今にもルフスを引き裂かんとするように、その腕を振り落とそうとしていた。
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