冥暗狼シェードヴォルフとの闘い①
「ほい、これが俺からの礼だ。」
そう言ってヘファイトスさんは赤と銀の色をした短剣を渡した。
“深血牙の短剣”
製作者:ヘファイトス
耐久力:200/200
重量:0.4
物理攻撃力:70~95
魔力補整:+25
属性:無し
クリティカルダメージ:70%
<能力>
【吸血】
なかなかに高性能で能力付きだった。たしか、能力付きの武器は入手しづらく、作れる人もいないって言われてたはず。
「って…ええっ?!能力付きの武器を作れるんですか?!」
「……まあな。だが、この事は誰にも言わないでくれ。面倒なことになる。」
「わ、わかりました。」
ゴクリと生唾を飲んだ。それくらい真剣な表情だったのだ。それにしても、この唾を飲む感覚すらもリアルで、すごいと思う。
「あぁ、それとその武器をメンテするときはここに来い。てか、作ってもらった場所でメンテするのが、常識だからな?」
「ありがとうございますっ!」
「それと、PKには気をつけろ。一昨日、PKギルドが作られたようだからな。ちなみにそいつらはNPCすらも殺っているようだ。まぁ、AIだから問題ないっちゃぁ、問題ないんだがな。」
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―――パアァァァッ―――
「嘘っ?……何で?」
『危ないですっ!マスター!』
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『し…し、な…しな……で、くだ……い―――――デバイス本体、損傷率90%機能回復…不可能。デバイスを終了します。』
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「…………心に留めておきます。」
本当にありがとうございました。といって火守りの家を出る。
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「NPCだから問題ない……か。」
初めてのBM(ボスMOBのこと)との戦い。黒狼妃ノヴィシムルプスと相交えた時、意志を感じた。偽物のプログラムされたものではなく、本物の……人間よりも純粋な感情を。
蹴りを喰らったとき、ダメージなんてなかったはずだから、その瞬間に私を噛み殺すことなんて容易かったはずなのに、そうはせず立ち止まった。
あのときの眼には素直な称賛と満足感が含まれていた。戦った相手に礼を尽くしていた。
人形でなくてもNPCにはたしかに感情が―――やべ、ちょっとのめり込みすぎた。
ふぅ~、少し落ち着け。まず、私は何をしようとしていたんだっけ?
しっかりと落ち着いてから辺りを見回す。
「あれ?いつのまにか街を出ちゃってた?………この先は“光を覆いし森”っていうフィールドかぁ………」
ん?たしかそこって、冥暗狼シェードヴォルフと戦った場所じゃなかったっけ?
あれ?何でそんなとこに向かってるのだろう。
たしか、大型アップデートをする前にメンテナンスを行うから後12時間後、つまり今日の正午にはログアウトしなければならないのである。だから、それまでには宿に戻らないといけないのだけど……べつにいっか。今すぐ戻らないといけない訳じゃあないし。
どのみち、メンテが終了したら大型アップデートまでの間は街の外には出られないからなぁ。
「そういえば、私って昨日の朝9時からログインしっぱなしなのか。……精神的疲労が凄そうだなぁー。」
こんな考え事をしている間にも私の足は動いている。直感で動いているから自分でも行き先はわかんない。
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そうそう黒狼妃で思い出したけど、刀の能力【黒狼妃の加護】は身体能力を大幅に上昇させる代わりに、精神的負担が増加する…といったものだった。
これを見たとき一瞬目を疑った。なぜなら、VRMMOではその精神的負担や脳への疲労が原因で一時期社会問題となっていたからである。
何が言いたいかと言うと、運営はその精神的負担・脳への疲労を極力抑えるように精力を注いでいる。だから、現実の身体に直接的な影響を与えるものは存在しない――存在してはならないもののはず……ということだ。
「もしかして、運営はこれに気づいてないのかも?」
黒狼妃がもし運営にとって重要な役割を持っていて、このゲームにおいて何かしらの権限を与えられていたとしたら……考えすぎかな。
「長くログインし過ぎた弊害かな……ちょっとのめり込みやすくなっちゃってるや。なるべくなにも考えないようにしないと……」
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いつのまにか、開けた場所に立っていた。そこの部分だけまるで切り取られたかのように、円上に開けた空間が。
でも、そのエリアの上は木々の葉が覆っていて、陽の光が一切届いていない。
―――いや、1ヶ所だけ届いている部分があった。
「冥暗狼シェードヴォルフ……」
―――グルッ…―――
陽光に照らされ尚、黒より暗い色に覆われた狼は、私の返事に答えるようにして、その顔をこちらに向けた。
私と冥暗狼が互いに再開を歓び、視線を交わしている間に陽光が闇へと覆われていく。
けど、私たちには関係ない。ちゃんと見えている。
「あのときはしっかりと戦えなかったけど、今回は充分に闘えるよ。」
私たちが呼んでいるUBMとは、こういった者のことを指しているんだと今理解した。高機能AIが搭載された、たった一匹しかいないオリジナル。
「NPKか……これもそうなのかな?」
―――グルッ―――
冥暗狼は横に首をふった。
そして立ち上がる。冥黒のオーラを纏って。
「ん、ありがとう。やっぱり、ちょっとだけこの世界に呑み込まれてたよ。これも精神的負担かな?」
私も立ち上がる。いつものプレイスタイルに黒赤のオーラを纏って。
「さて……RPGで面白いのはやっぱり戦闘だよねっ!」
『ガルァッ!!』
ちょっとだけ長期ログインの弊害が出ちゃってます。脳は酷使しすぎないように気を付けましょうね?(笑)