イベントキャラ?
ところで、この【魔法文字】のスキルに見覚えはないだろうか?
…そう!あのときの掲示板にのっていたものなのだ!なぜ不遇スキルなのか?と聞いてみると、
・入手方法がものすごく時間がかかる
・魔法文字で使える技は付与魔術と同じなのにコスパが悪い
・1000近くある文字とその組み合わせを覚えないと役に立たない
との返事がきた。
「うん、確かにこれは不遇スキルだね。」
ゲームなのに、新しい言語を完全に覚えなければならないって……なんか構文っぽいものもあったし。英語が苦手な人からすると鬼畜の所業だったんだろうなぁ…。
「でも、せっかくの自由な世界なんだから誰とも被らないようにするにはちょうどいいや。」
自由な世界ならば、やっぱり十人十色でなきゃ!私なんて最初のジョブ選択の時点で………はぁ。
―――ピコンッ―――
うおぅっ!なんだ!………と思ったら、ヘファイトスさんからのメールがきただけだった。
~短剣ができたぞ。取りに来い~
「うっわぁー、簡潔だな~。」
すごくお堅い文章で短剣ができたことを知らせている。まぁ、あの筋骨隆々とした人がキャピキャピした文章で送ってきたら、それもそれでどうかと思ったけど。
とりあえず、~今から向かいます~と送っておいて、
「レイラさーん。今日はありがとうございました!」
「ちゃんとこのお礼はしていただきますからね。」
「うわ、私よりもしっかりしてる………何はともあれ今日はありがとうございました。」
再度レイラさんにお礼を言って、店を出る。
そういえば、確認してないものがひとつあった。
「この【黒狼妃の加護】ってどういう効果があるんだろう?」
ヘファイトスさんのギルドホーム、すなわち第三の街に向かいながら、その効果を確認していく。
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「あー、やっぱり勝てないわね。」
「これでもみんなLv150なんだけどなぁ。」
「カカカ、さすがのトッププレイヤーの勇者様でも“深淵を護り続けし者”には勝てないか。」
「だーかーら!その二つなで呼ぶなっ!」
勇者の二つ名をもらったリオは計12回にもなる隠しボスとの戦いにまた破れていた。
「そろそろやめたら?ポーションも無限にあるわけじゃないんだしさ。」
「とは言ってもな…現在の最高レベルには達しているし、次のイベントまではすることがないからなぁ。」
「そうだのう、また挑戦しに行くか?」
「うーん、とりあえず今日はここまでにして、宿に戻ろう。」
私たちは、多くのプレイヤーから勇者御一行と呼ばれている。といってもただの四人パーティーなのだけど。
勇者リオ・大魔導師ウルガ・守護騎士スクード・回復術師クルル、とプレイヤーから認識されているみたいで、次のアップデートで二つ名がつけられるのではないかと言われている。
「はぁ、何でこんなことになったのかしら?」
「……たぶん、女神って最初のNPCのことだよなぁ。」
そう、そもそもこんなことになったのはキャラクリエイトの時のNPCのせいだ。
急にリアルのことを聞いてきたから、NPCならいいだろうとおもってしゃべったのがことの発端だ。
両親は小さいときからおらず、お爺ちゃんが一人で私たちを育ててくれた。そのお爺ちゃんが私の大学受験に合格したときに買ってくれたのがこのゲームで、幸か不幸か正式リリースされた当日から始めることができた。
これを羨んだ、弟(高校3年)の理緒がアルバイトで貯めたお金で購入、二日遅れで始めた。
そのあと、何故かお爺ちゃんが自らの弟を引き連れて参戦。お爺ちゃんはウルガとして、お爺ちゃんの弟はスクードとして、プレイしている。
そういったことを話したら、
『……大変だったんですね…ぐすッ………わかひました……ゲーム内では、せめて…私の祝福を…ぐすッ………』
と、何故か泣いていて、光と導きの女神の祝福というものを付けられた。
そして今に至る。
「で、私たちは結局どっちの軍につくの?」
「あー、たぶん、あの女神って勇者軍側だろ?なら勇者軍しかないんじゃないかなぁ?」
「そうだのう……じゃが、たしか剣聖は魔王軍じゃったか?」
「そうなんだよなぁ。まぁ、第三の街に戻って宿に行こうぜ。」
・
・
・
・
「ふぅ、相変わらず移動が徒歩しかないのはきついのぉ。」
「騎乗用の魔物とかいればいいんだけどなぁ。」
やっと宿が見えてきた。この街は現実で言う扇状地みたいなところで……まぁ田舎だね。
存在価値としては、たくさんの食料を確保できることと、このゲーム一の鍛冶ギルドがあることぐらいかな。
「…そろそろ大盾のメンテをしないと耐久力が持たない。」
「そうなのか!なら、今からでも火守りの家に行こう!」
「…頼む。」
「なら、わしの杖の修復も頼もうかの」
「イベントに向けてみんなの装備を直しておかないと…か。」
宿を通りすぎて、ギルド“火守りの家”のホームに向かう。
「やっぱりというか、この街って全然プレイヤーを見ないわね」
「だな。もしかしたら、ここにいるプレイヤーって俺たちと、あのギルドメンバーくらいかもな。」
「それはないで……しょ…う?」
何あれ?プレイヤー?
「……幻覚でも見ているのかしら?」
「いや?わしにも見えておるぞ?」
「…私もだ。」
「なんだよあれ?」
唐突だけど、このゲームの世界のNPCは高度なAIが積まれてるため、プレイヤーとの見分けがほぼできない。そのため、頭上にはNPCは青色の、プレイヤーは白色の、敵MOBは赤色(ボスは紫色)のマーカーがある。これはマップにも映るから判別はすぐにできる。
なぜこんな話をしたか、それは私達が見ているプレイヤーのマーカーが、1/4が白色で残りが紫色をしていたからだ。
「でも、あれってプレイヤーよね?」
「たぶんな。だって、あの表示を隠すフードマントってプレイヤーのみにくばられるアバター装備のはずだろ。」
そう、それがあったからこそ私たちはあれがプレイヤーだと思えたのだ。
表示を隠すフードマントはあくまでも、体装備と顔、表示を隠せるだけで、武器まで隠すことはできない。
「しかし……あれは初期装備かの?」
「…たぶん。」
そして、そのフードマントでも隠せないものがもうひとつあった。
「………あの身体を鎧うように纏わる赤黒いオーラって……防具の効果じゃないってことだよね?」
「フィールドボスにも似たようなオーラを放つのは見たことあるけど……次のイベントキャラとかなのか?」
「まぁ、注意はしとくべきかの。」
「…だな。」
そのプレイヤーは、私たちとは逆方向。つまり、宿の方に向かっていった。




