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二体目の狼(後編)

  “冥暗狼:シェードヴォルフ Lv70”


「ところで、どうやったらこんなやつが出てくるんですか?」


 見知らない人には敬語。癖みたいなものだから、友達からは不自然って言われてたっけ。


「知らん!素材収集のために採取ポイントに向かおうとしたら急に現れた!徐々に街の方に追い詰められていてな。」


 ん~、街の外側から半径30mまではフィールドMOBは近寄れないはず……でも、この狼は街の方に近づいたんだよね?


「ぬぅ……森のせいで暗くて見えん!」

「ダメージも通らないですし……火力不足が深刻だなぁ。」


 冥暗狼の攻撃はどことなく黒狼妃を彷彿とさせる……


「あっ!ヘファイトスさんッ、こいつと戦い始めたとき何かボス戦に挑む前のような選択画面が出ませんでしたか?」


 そうだ、私がこの前の戦いで“逃げる”という選択肢を選ばなかったのは、ボス戦前の注意書(あのクエスト画面みたいなもの)があったからなのだ。


「いや……そういった類いのものは一切無かったぞ?」

「そうですか……よし!それじゃあ逃げましょう!!」

「あぁ?……確かにそれが最善策なのかあ……」

「三十六計逃げるに如かずっ!」


 第一に、私が受けた依頼はこの人を生かして街へ帰らせることで、こいつを倒すことは一つの方法にしかならないから……えーと?―――そうそう、私が足止めしている間に、逃げてもらうのが一番いい。

 この人の性格が歪んでなければ!帰る途中であえて死ぬような真似はしないだろうし……希望論になっちゃうけど。

 それに、ダメージが全くと言っていいほど入っていない。私の攻撃はもちろん、ヘファイトスさんでもだ。

 それに、逃げれる環境ならばこんな格上と戦うメリット何てないし…ね?


「って言うわけで、私を置いて街に逃げてください!」

「いや、どういうわけだよそれっ!……それに女を一人置いてくなんて……」

「じゃあ、報酬は上乗せしてください!それで手を打ちましょう。」

「……分かった。街についたらパーティー通話で報告する。三分間だ。それで絶対に街に逃げる。またなっ!」


 驚く勢いで走って行った。正直、彼を助けるメリットなんて一つもないんだけど、生産職との繋がりは作っておけと拓にさんざん言われたからね……これが過保護って言うやつなのかな?


―――ガァ!グルルル―――


「何もこう、迫力満点にする必要なかったと思うんだけどなぁ。」


 冥暗狼は何故か低姿勢で威嚇しながら、何かを待っている。

 何かはわからない、けど、直感がなんとなくこれではないかと伝える。


「今回は三分間だけだ。装備も揃ってない状態じゃさすがに戦えないからね。だから、全力でいこうっ!」


 それを口にした後、冥暗狼は一歩引いて、私めがけて一息に間合いを詰める。

 右斜め上の地面からおよそ50°から振り落とされた、既視感のある攻撃をしてくる。そんな通常攻撃でも全力で振るわれているのはかんじることができた。

 通常攻撃ならと思って、刀で流したつもりだったけど、あまりの重さにからだか沈んだ。


「うわぁ~火力高いっていいなあ。」


 ついでに足に刀を返して刺してみるも、効果無し。

 デスペナはLv30から継続時間が伸びて、Lv40から所持金の減少になるはずだから、ここで死んでも痛くはないんだけど……

 直感が背中をゾワッとさせた。すぐさま前方に飛ぶ。


「あぶないっ!……直感のスキル様々だね」


 第3の街は扇状地上の場所にあるから、その周りは山や森に囲まれている。そのためか、昆虫のような敵MOBが多い。

 今戦っているところもその森だ。


「全然見えない……これが夜だったら一回一回の攻撃が全て奇襲になりそう…。」


 集中スキルをフルで起動して、見えない冥暗狼の気配を察知。攻撃は大袈裟でもいいから必ず回避する。


『街の半径30m圏内に入った!もう逃げてこい!』

「分かりました。」


 これで、心置きなくやりあえるぜっ!……って思っていると、冥暗狼が黒い靄のようなものを発しながら、私の前に姿を表した。


「なるほど……その靄がよりいっそう見えにくくしているのかぁ……さて、私の目標は達成できたし、これで終わろっか。」


―――グルルゥ―――


 そうしよう、といわんばかりに唸る。

 終わるといっても一撃で倒せるような超絶的力があるわけではない。ただ、互いの攻撃を全力でぶつけようというだけなのだ。

 ……決して脳筋なんかじゃない…と思う。


 冥暗狼は黒い靄を纏ったまま、木々を使って立体的に飛び、その鋭爪で喉元を狙う。

 刀を水平に、切っ先を相手に向けるように構えていた私は、その鋭爪を刀のはらに乗せるようにして流し、体重を前に移動して、突きを頭に向かって放つ。が、


「っ!……その黒い靄は認識阻害の効果がついていたのかぁ…。しかも一撃だし。」


 流しきったと思った鋭爪攻撃は黒い靄によって、その腕の長さと、狙っていた場所が微妙にズレていた。

 正確に相手の攻撃場所を予測して、受け流すスタイルの私にとっては、その微妙なズレが命取りとなる。


「経験をこの短時間で積んだってことなのかなぁ?」


 体力が切れて画面が徐々に薄くなっていく。何回やってもこの感覚にはまだなれない。慣れたくはないけどね。


「冥暗狼、今回は負けちゃったけど、また来るから。そのときまで死なないでね?」


 自分でも何を思って言ったのかわからないけど、直感が言った方がいいとなんとなく伝えていた。


―――グルッ―――

 ちょうど死んだタイミングで起こったため、気づくのが大分あとになるが、このとき公式からの発表が重要なお知らせとして流れていた。

  ・

  ・

  ・

  ・

「今、どこにいますか?」

『おっ、帰ってきたか!!…どうだった?』

「無理です。そもそも商人が隠れボスに勝てるはずがありませんよ?」

『そうか?……とりあえずお礼と依頼の件について話をしなければならんからな。“火守りの家”って言うギルドホームに来てくれ。座標を送っておくぞ。』

「分かりました。」


 ギルドってことはいっぱい人がいるってことだよね?……はわぁ、すっごく不安になってきた~。まぁ、行くんですけどね?

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