第八話
ひとまず更新。金曜日に追加します。
『敵にからかわれているな』
『まだ序の口か?』
『だと困るが』
『どうするんだ?』
『スクランブラ範囲内が6人。お前や2Cには何としても範囲外に出て解除してもらわなければならない』
『連絡は取れないんだぞ』
『あっちもこういう時どうするかは十分承知している筈だ』
無線がかなり寂しくなった。実に4人(パーカー、ジャック、ウェルク、そして私)しか会話にいない。
さらにジャックは間もなくスクランブラ範囲内に入る。
『俺だけでも一応スクランブラを解除できるが、正直彼女の力は欲しい。できるならば援護してくれ。彼女は接近戦に向いていない』
「はい」
『僕からも頼む。この状況は不味い、とても』
確かに、この数分で戦況はみるみる下降線を辿っている。
何とかして打開する必要がある。
一先ず隊長への粗方の処置は終えた。
後は寝かせておけば問題ないだろう。
ならば私は、とライフルを取り出す。
この距離はまだ有効射程圏内だ。
勿論難易度が上がっているだろうが。
「………」
トリガーを引いた。
「一発だけです」
『上々。当ててくれれば結構』
『エリアに入る。後は頼んだ』
『おう』
『5Bシグナルロスト』
『3C。エコーは取ったか?』
「はい。付近には何も」
『そうか、OK、射撃を続けてくれ。俺はスクランブラの解除を始める』
「了解」
マーキングした箇所に撃ち込み、ダメージを集中させる。
自分の役割は硬い装甲を打ち抜き、アサルトライフルのダメージを内部に浸透させることにある。
マグチェンジをしつつ、敵の動きに注目した。
「!」
視界に何かが移り、そこに注意を向ける。
そしてやって来た「それ」にむけて発砲した。
「………これは、」
そろそろか。
「こちら3C、攻撃がこちらにも来ました。まだ一発ですが」
『そこにまだ1Cはいるな?』
「はい」
『回収要請を出せ。そろそろ下がってもらおう』
「了解です」
『Switch to 10 line...』
「こちらBクラス第三班レア・フロント。回収要請です。一人、男性」
『こちら回収班了解。………射程範囲内ギリギリに一体いるな。379か』
「出来ますか」
『問題無い。アウト』
『Return to 02 line...』
「回収要請出しました」
『了解』
伏射姿勢から立ち上がり、ライフルを背中に回す。
後ろ手にセーフティをかけ、周囲を見渡した。
「………」
右に現在より高いビルがある。
後ろに下がり、地面を踏み抜くように加速し、跳躍した。
「はっ」
着地し、ついさっきまで自分がいた場所を振り返る。
そしてそこはもう、敵の攻撃によってボコボコに穴の開いたビルが見えた。
撃たれたら移動する。
そう念頭において射撃を開始した。
デイリーはただいつも通りに今までやってきた事を繰り返すのがセオリーだ。
それが難しいことも然りだが。
「タレットは?動いているようには見えない」
「わざとだ。こっちに敵が来てもお前が相手するだけだが、それは今じゃない」
電源だけ入れられたタレットの近くの建物の影に潜んでいる俺たちは、いや俺は敵の展開するスクランブラの無効化の為にキーボードに手を走らせている。
援護に来て戻るに戻れなくなったパーカーはちらちらとバレないように向こうをのぞき込んでいる。
何気なくやっているが、あれはTPS(三人称視点のこと。誰かが上から自分を撮影していると同じ)視点での動きだということが見てわかる。
簡単じゃないんだぞ………?
「………お」
普段と違った反応を見せたウインドウを引き寄せ、元を探る。
「前言撤回。パーカー、今すぐ380のマークした場所を破壊しろ」
『了解』
言い終えた直後にはすでにトップスピードに到達している彼の加速度に舌を巻きつつ、問題の画面に向き直る。
こいつは一体何だ?
エラーを吐いてるのは分かるがその内容がおかしい。
このラインを誤魔化して次へ進むことは出来るだろうが、嫌な予感はプンプンしている。
早く脱出しろあの女………!
マークされた目標は勿論だが硬い装甲の中だった。
今の装備で装甲は貫けないし、貫通力を持つスナイパーとは連絡が取れない。
いや、待て………?
「4C?」
『隊長。ついさっきスクランブラ範囲から脱出したところです。何か御用で?』
「やっぱりか。380のマークされた箇所を攻撃してくれ」
『確認しました』
憶測をもとに連絡をつけると、やはり彼は応答した。
4Cは戦闘が始まって以来380には攻撃をしていないおかげで敵のタゲから完全に外れている筈であり、また彼はステルスのスキルがとても高かった為いち早くスクランブラの範囲から脱出できたのだろう。
『脅威[14]が接近』
脅威を告げるメッセージが告げられたと同時にチェンジロールを噛ませて脅威判定を逸らし、焼けただれた銃弾の束と交錯する。
至近弾判定された旨のメッセージを無視しながら加速していく。
「ギアチェンジ+1」
『ギアチェンジ:5から6へ』
ギアを上げて一歩目の足で強引にブレーキを掛けた。
生み出された新たな、そしてより大きな運動エネルギーはこれまでの前へ進もうとする力を打ち消し、靴底が熱くなる程の摩擦を発生させて急停止する。
何故止まったのか。
『前方に敵榴弾着弾予定』
彼の視界前方に一本の赤いラインが引かれている。それは、敵の射程範囲を表したものである。重い弾頭ほど射程が短く、そのため榴弾は目の前の所までしか届かない。
ここから先は捌く難易度が格段に上がる。どれくらいかというと、Bクラス2班隊長であるパーカーでさえ入るのに躊躇するぐらいである。
ルークこそその境界線を悠々と踏めるが、それは彼の高すぎる回避能力による自信のお陰だ。
彼は呼吸を整え、マガジンを交換し、息を深く吸い込んで再び駆けだした。
『フラッグが移行:1B』
『脅威[78]を検知』
『脅威[101]が接近』
『LRマップを更新』
『味方を検知:<Error>[データ破損]』
『脅威[78]が接近』
走る速度は変えずにワンステップずらして大部分を回避し、続けてブレイクで安全地帯に滑り込む。
一撃目で庇いきれなかった範囲を埋め合わせるように攻撃が追う。
『脅威[100]を検知』
『脅威[1324]を検知』
『脅威[5]を検知』
「ルートを計算」
着弾するまでの時間で十分な距離を取っての回避が不可能と踏んだシステムが危険だが生存できる可能性を描き出す。
「ゴーゴーゴー」
背中を榴弾が撫でるように落ちる。横殴りの暴風の合間に見いだされた活路に身をねじ込み、駆けぬける。
『マークされた場所の装甲が貫通』
「チャンス…!」
見れば、確かに一点、まだ新しい穴が見える。
フェイクに引っかかって明後日の方向に着弾した攻撃が清々しい大爆発を起こしている一瞬で照準を合わせ、弾丸をぶちまける。
マガジンチェンジを高速かつ正確に遂行しここぞとばかりに叩き込む。
『ターゲットの破壊を確認』
「よし。一旦退こう」
速やかに踵を返し離脱を開始した。
R u n
「オーケイ。これで心置きなく仕掛けられる」
問題のコードの部分がごっそり欠落し、ついでに付近のシステムに傷跡を残したことを知ったウェルクはそう呟いた。
『敵冷却システムダウン。装甲内の温度上昇、スクランブラ強度減少。通信機能を再開』
『Reconnecting...』
『Connected 02 line』
『ごめんなさいねウェルク。手間取ってしまって』
『復旧したのかな?』
『ファインプレーだ2C』
『いやー、何とかなった』
『一気に騒がしくなりましたね』
『システムアシストが再開した。攻撃を強化する』
『フラッガーを移行するぞ』
「マール。今のうちにスクランブラを掛けておけ」
『分かってるわ』
『反撃、開始だ』
追記(2017/11/03/21/22)追加しました。