第六話
具体的にどうとは言えませんが8/24-8/28が地獄になった為投稿が遅れました。
来月に引きずらないか心配です。
ご迷惑をおかけします。
思えば、ダンスをしているような物だ。ワンテンポ踏み外したら舞台から永久退場させられるような。
焼けただれた火線をステップを踏んで回避しながら、自分、ルーク・クライスはそんな思考をしていた。
1分とちょっとの舞踏会の参加者は無骨で無口なロボットと自分だけ。
ああ、後で2人が飛び入り参加予定か。
『脅威[127]が接近』
機銃か。相手はハイテンポな曲を聞きたがっているらしい。
ギアを上げていこう。
『ギアチェンジ:5から6へ』
パワードスーツ『レッグ』は足の踏み出す強さで初速が決まるが、それではどうしても人間では出せない速度が存在することになる。
そこで、『ギア』という単位で速度を分割し、ギアを上げることで弱い力でも早い速度を出せるようにするシステムが存在する。
『ブースト』と似ているが、あっちは緊急脱出の意図が強い。
こちらは扱えるギアの高さによってクラスが決定する程機動戦闘において重要なものであり、上クラスは高いギアを平然と使いこなす。
現在の自分のベンチマーク(基準点)は5であり、AクラスやSクラスは7、8をベンチマークとする。
「……っ」
気づけば何発かの銃弾が自分の耳元を掠めていく。
慌てて切り返し、いくつかの擦過傷を負いながらも回避する。
『脅威[87]が接近』
『脅威[134]が接近』
上等。
機械の頼もしい駆動音をバックに横殴りの雨を捌いていく。
ミルキーウェイにしては黒く焦げているが、綺麗と言えば綺麗か。
右に左にとユーロを踏みながら真正面を見据え、正確無比にこちらを睨む物言わぬ砲塔と正対した。
―――お前で、何個目だったか。
『脅威[146]が接近』
『脅威[88]が接近』
『脅威[255]が接近』
いい加減に上で戦ってるパイロットに増援をこっちに送り込まないで欲しいのだが、無理な要求であることは無論知っている。
そろそろケリがつきそうだという友人からの連絡を、既に6回も聞いている。
上とは勿論、宇宙空間のことを指すが。
『1C!お前の負傷箇所がとっくに20を突破している!気づいてるか!?』
「ええ」
『大丈夫なのか?下がれないのか?』
「そうしたいのは山々なんですが…どうも、」
着弾した榴弾が巻き起こす爆発に世界は束の間闇に呑まれ、咳き込みながら敵の視界から脱出しようと試みる。
「私がフラッガーなんですよ」
『4C、5Bはどうした!』
「未だにヘイトが取れないそうで。不思議ですね」
『………?どういうことだ』
3Bはどうにも戦場では熱くなる傾向があり、自分が余りにも静かすぎるのかいつも突っかかってくる。
そのせいで彼は何回か上官に無礼を働いたことがあるそうだが、あれでは無理もない。
『脅威[22]が接近。特殊型』
思わず舌打ちが漏れた。
榴弾や機銃のドラムロール等ではない何かが迫っているという。
それは今回なら確実にアレであり、それは絶対とは言わないが1人では対処の難しい攻撃である。
別名『残り1秒の命』。食らった瞬間に意識を無限の彼方まで吹っ飛ばされる広範囲殲滅兵器。
ガスマスクこそ用意してはいる。
問題は神経毒だ。
科学者の固い頭は毒ガスに対抗できるフィルターを開発し、様々な毒に10分は持つ薬を持たせてくれたが、神経毒に対応したスーツを作る柔軟性は持っていなかった。
つまり食らえば身動きが取れなくなるわけで。
そのあとには死しか残っていないわけで。
滅多にこの手の攻撃は来ないから完全に失念していたが、非常に不味い。
「非常に不味いことになりました。身動きが取れません」
『後10秒もいらない』
「いえ、恐らく間に合わないかと」
『何故だ?』
『1Cシグナルロスト』
『なっ』
既に気味の悪い紫色の煙幕が辺りを包み込んでいた。
意識は既に刈り取られた後だった。
『1Cシグナルロスト』
「なっ」
「トップギア!!!」
世界が一瞬歩みを止めたかのような錯覚に陥り、続いてスイッチを再び押され再起動する。
踏み込む力はこれまでに無いほど力強く、自分でも驚くほどの風を身に受けながらも加速する。
4Cも一瞬呆けていたが、すぐに自分に付随した。
すでに敵の姿は見えている。
今やっとヘイトが取れなかった理由が分かった。
敵は彼を排除することでこちらの混乱を誘おうとしている。
上手い。敵は進化し続ける。
構えていた銃の引き金を絞ろうとすると、制止の声がかかった。
『やめろ。俺がやるから1Cの救出をやれ』
「了解」
後ろで発砲音が断続的に聞こえる。
セミオートで撃っているのか。
『よし。これで目は悪くなるだろう』
「………は?」
『センサーを潰した。まあまだ沢山残っているが、気休め程度には』
嘘だろう。センサーが発する微弱な電波を捉えてそれを単発で撃ち抜くとは。
実際、敵からこちらに向かって攻撃はあるが脅威認定されるものは少ない。
「助かる」
『……しっかし、毒ガスとはまた猪口才なものを』
「生きてるのか?」
『見れば分かる。死なないとは思うが』
『霧を晴らしましょうか、2C』
『ああ』
「?」
何をするつもりだ、と思った瞬間に何かが霧の近くに着弾し、爆風を巻き起こして霧を晴らした。
「おお、晴れた」
『あいつ、彼女がガスをどうにかしなかったらどうするつもりだったんだ』
うるせえ。
ウインドウに表示された光点の場所に到着し、うつ伏せに倒れていた彼を背負いキルレンジから脱出する。
『そう長くは持たない。3Cに渡したら直ぐ戻ってこい』
「分かった」
『2C、指揮権1位を継承。1B、どっちだ』
『君でいいよ』
『了解。3C、1Cが到着次第手当を。5C、2Bは火力支援。4Cの指示に従え』
『はーい』
『おう』
『こちら3B。いい加減俺の出番もくれ。何もしていない』
『3B。今すぐ俺のところに来れるか』
『任せろ』
ウェルクの怒号が緊迫した戦場を統制していく。
徐々に角度を上げるアルフェスト(太陽系でいう太陽)は、まだ俺達を暖めるには弱かった。
隊長が倒れたという知らせを聞いて、私の心に若干の驚きが生まれた。
のどか―というよりは緊張感のない―会話が途切れ、ウェルクの指示が耳に響く。
3Cである私、フロントが請け負ったのは隊長の看護だった。
確か最後に誰かの怪我を看たのは8日前だったか。
今の時代の看護はAIが指示を全て出し、人間はそれに従って傷口を消毒したり包帯を巻いたりするだけで、つまり誰でも可能なわけだから、彼の看護を任せられた事には私が丁度近くにいた以外の何も理由はない。
「メディカルプログラム起動」
『メディカルプログラム起動中…起動完了。周囲の生命反応1。データ:レア・フロント。心拍数75、体温36.4度。外傷無し。精神状態安定。待機に移行します』
ウインドウを端に押しやり、横に置いていたライフルを構える。
視界がフォーカスされ、遠方の状況を鮮明にうつしだした。
2体の敵と立ち込める紫色の煙が見える。
時折何本か光の線と爆発が起こり、その音が拾われて耳が痛い。
指でボリュームを調節しながら、戦場を俯瞰する。
「霧を晴らしましょうか、2C」
『ああ』
隊長の周囲にはガスが溜まり、防護服無しではまともに近づけない。
バックの中から特殊弾を取り出し、マガジンを取り外して一番上のところに詰め再装填する。
出てきた弾薬を胸のポケットに入れ、セーフティを解除して狙いを定める。
引き金を絞ろうとして何か違和感を覚え、気づいて少しラインから外す。
誤射でもしたらスナイパー失格じゃないかと反省しながら、今度こそ引き金を絞った。
地面に向かって一直線に向かった弾丸は着弾した瞬間に風を巻き起こし、ガスを吹き飛ばす。
倒れている彼を視認できた瞬間、私に向けた言葉が来た。
『おお、晴れた』
『あいつ、彼女がガスをどうにかしなかったらどうするつもりだったんだ?』
『うるせえ』
『聞こえてる聞こえてる』
引き金から手を離し、一息つく。
遠距離からスキャンをかけたところではまだ彼は死んでいない。あのガスは常人なら一瞬で死亡する猛毒だが、アイリスの軍人は人体改造をへて様々な脅威に強い耐性を持っている。
…昔は、アイリス軍などというものはなかった。
各国がそれぞれ軍を保有し、また大方の国の軍隊は自立型AIによって構成され、情報の制御も人は最後のチェックでOKを出すだけの飾りだった。
しかし、敵宇宙船の非常に強力な――彼曰く「あとちょっと機器がイカレていたら世界は滅亡していた」――ECMによってかなりの数の電子機器がガラクタと化し、それによって軍のAIも全滅。補給もままならない状態であり、立ち向かう脅威に対抗できる国はごく僅かしかなかった。
数少ない人間を軍の構成に入れている国の所属である私達は、本来アイリスの国々が保有する戦力の総計の30分の1の戦力で戦うことになり、他の同じ様な国の軍と統合され、アイリス軍と相成った。
今こそ戦闘は優位に進んでいるが、昔は如何に侵攻してくる敵から損害を少なくするかに全力を尽くしており、そこを生き延びてきた先輩には頭が上がらない。
『こちら5B。3C、そちらに間もなく到着する』
「了解です」
『新たな生命反応を検知。データ:ルーク・クライス。ノンシグナル。外傷多数。心拍数43、体温34.5度。現最優先タスクに指定。データ:ジャック……』
銃にセーフティをかけ、伏せていた状態から立ち上がる。バックパックから医療キットを取り出し、彼らの姿が見えるのを待った。
追記(2017/10/08/2002)改稿を終了しました。
追記(2017/11/03/0846)システム変更による修正をしました。