9話・冒険へ
キャトルとともに商店で打っているものを確認しながら1号と2号を待つ、街が全く育っていない状況なので商店には最低限の物しか売られてはいなかった。
「それでも目つぶし薬が売られているってすごいですよね、最初に売られているものが強いって」
「序盤から使えるアイテムが強力というのは始めたばかりのプレイヤーが先行するプレイヤーに追いつきやすくなるためゲームの寿命が延びやすくなるらしいな」
単純な話、新しく始めるプレイヤーの数がゲームを辞めるプレイヤーの数を上回っていないとそのゲームは衰退していく。
簡単にトップとまでは言わないが並みの段階まで行けれないとつまらなくて新規のプレイヤーが辞めていき、ゲームは衰退していくわけだ。
少し話をしながら待つと船から二人の男女が下りてきた。
「待たせた」
「お待たせ」
男は天使と人間の混血である巨人の種族ネフィリム。太陽と月を模した聖印をあしらった全身鎧を纏った2mを超える巨体、その上背に匹敵する巨大さの大剣を背中に担いでいた。能力はおそらく重戦士兼神官
女の種族は魔力を可視する第3の眼が額にあるワイズマン。ローブと杖といういかにもな魔法使いの格好。あらゆる魔法に適した素質を持つが代わりに肉体的に劣るという設定どおりに線が細い。
「1号と2号だな」
「アインって呼べよ」
「私もイスナーンと呼んでほしいわね」
凛々しい面貌と理知的な容姿を歪ませて二人が口々に言う。
「解った、解った。ところでアイン、その大剣どうやって抜くんだ?てか、抜けるのか?」
アインの大剣の長さは腕の長さを超えている、つまりどうやっても上には抜けれない。
「俺もよく解らないんだが、抜こうと思ったら抜けれる」
「ところどころでゲーム的な雑さがあるな」
アインが俺の言葉にうなずいて、それでこの疑問についての話は終わりだ。
「さてそれじゃあ早速冒険に行くか!」
「ちょっと待って」
腕を振り上げて音頭を取ったアインにイスナーンが待ったをかけた。
「イスナーン、おれ格好つけたつもりなんだけど」
「ごめんなさい、それは置いとき召喚をしておきたいわ」
「……ああそりゃ必須だな」
イスナーンは召喚能力に特化した魔法使いだ、召喚をしていない彼女の戦力は半分以下に落ち込む。
「それじゃあ、始めるわよ」
そう言ってイスナーンが召喚術を詠唱し始め、地面に禍々しい魔法陣が魔力で描かれる。魔力の色合いは気分が悪くなるような毒々しい黒。召喚術だけは固定の色を持たずに呼び出そうとするもので色が決まる。
やがて長い詠唱が終わると、魔法陣から黒い巨大な腕が伸び上がりのたうち回る。
「お姉ちゃんの魔法って怖いのばかりだよね」
「《悪魔召喚》と《死霊術》に特化しているからね」
悪の魔法使いとしか思えれない組み合わせだな。
イスナーンはさらに背負っていたバックパックの中から二つの頭蓋骨を取り出した。
「正直頭蓋骨を持ち歩いているやつとは友達になりたくないな」
「残念ながら私たち兄妹なのよね」
言いながらイスナーンが双方の頭蓋骨を宙に投げると頭蓋骨を中心に悪霊が集まり始めた。
悪霊たちは脛骨になり、背骨になり、尾てい骨になり、体中の骨を模していった。
最後に剣と盾と金属鎧に悪霊が姿を変えて骸骨を装い、二体の骸骨の戦士が完成する。
そちらを見ている魔法陣の中から現れた腕が大地を掴み自らの体を引き上げていく。
魔法陣から現れたのはアインに匹敵する巨体、漆黒の肌、頭部に生えた二本の角、鋭い眼光、口から延びる獰悪な牙、隙のないたたずまい。
呼び出されたのは革鎧を纏い、腰に二本の魔剣を佩いた悪魔の剣士。
「おお、どちらも強そうじゃないか」
「スキルポイント的にはスケルトンが200点、悪魔が700点の強さね」
「……スケルトンが2体だから、全部で1100点分か……お前も行動できるから強い戦力だな」
「まあね、数で押すのが私の戦い方ね」
もっとも範囲攻撃魔法に弱い、多数の相手に指示を出さねばならない、純粋な魔法使いとしての能力は低くなると欠点は多々ある。
多々あるのだが……それでも多数のモンスターを戦力にできる《召喚術》と《死霊術》の組み合わせは強力なビルドだ。
「それでお姉ちゃんこの人たちなんて名前なの?」
「特に考えてないわね」
「なら俺が考えよう!」
『却下』
アインを他の全員であしらって名前を考える。
「猟犬をコロウタと名付けたし和風の名前がいいと思うが」
「私はそれぞれの特徴を表した名前がいいと思います」
「じゃあ、スケルトンだから助さん1号と2号と悪魔は角があるから格さんで」
「俺のネーミングセンスとどう違うっていうんだよ!」
落ちを言った長男を3人で笑ってやると、アインもギャグだと気付いて笑い返してきた。
一通り皆で笑った後にアインが気を取り直して宣言した。
「それでは改めて、冒険に行くぞ!」
「ええ」
「ああ」
「おお」
唱和し歩み始めた俺たち、これから1年間の冒険が始まるわけだ。
「ところでスケルトンと悪魔の本当の名前はどうするんだ?」
「別に助さん、格さんでいいだろう」