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8話・新大陸へ

 残っていたチュートリアルを終わらせると、視界が暗くなった。

 しばし待つと暗い部分が上へとあがり、木目の 天井が視界に映った。

『陸地が見えてきたぞ!』

 遠くからそう、誰かの声が聞こえる。

「さっきまでのチュートリアルは夢だったていう演出か?」

「ベッドに寝るとチュートリアルと再戦できるらしいですよ」

「チュートリアルに再戦というのもおかしな言葉だけど……このゲームだとさして違和感はないわね」

「というか本当に強いなこれ、よく3号は相性の悪い重戦士に簡単に勝てたな」

「重戦士だけはいつ攻撃するかのタイミングの問題だったからな」

 1号と2号が苦戦しているさまを見ながら近くにあった階段を上る。外に出るときらめく太陽とその光を反射する海、そしてそれらに彩られたオープニングで見た巨大な大陸。

 ここから見るだけでも岩肌をさらす山脈とその裾に広がる森林、そこから流れ出る河が横切る広大な草原が見て取れた。

「確かオープニングには街や砂漠が映っていたよな?」

「ここから見えない場所にあるんでしょうね、わくわくしますね」

 4号と会話していると第三者視点に変って河口近くにある港へと船が進み、タラップが下りた。

 視界が元に戻るとその船の上にいた。

 周りには俺と同じようにチュートリアルを終わらせたばかりであろうプレイヤーたちが散見できた。

「サブロウタお兄ちゃん」

 アバターの名前を呼ばれたので振り返ると、銀髪をツインテールにして笑顔を浮かべる少女がいた。

「わあ!コロウタ可愛い!」

 彼女は歓声をあげながら俺の足元にいたコロウタに飛びついた。

 種族は人間。片腕には竪琴を抱え、胸には太陽を模した聖印。能力は恐らく神官兼吟遊詩人。

「4号か?」

「キャトルって呼んでください」

 そう言って4号……キャトルはすねた様に頬を膨らませて、口をとがらせた。

「表情が細かいな、何か好みのキャラクターを真似たのか?」

「こういう表情豊かな娘ってかわいいんですよ」

「自分でかわいいとか言ったら台無しだと思うがな」

「あざとかわいいという言葉も世の中には……」

「ないだろう、少なくとも俺が知っている限りではない」

 キャトルと言いあいながらタラップを降りていくと、そこは草原の一角に広がった開拓村だった。

 木材を組み合わせただけのログハウスがまばらに点在し、敷布を広げて机を置いただけの商店がいくつか開かれている。その外側を狼すら防げなさそうな簡素な柵が覆う。

 広大な草原から見れば一片のシミのようなこの村は一体どこまで広がるのだろうか……

「ロマンがありますよね」

「……否定はしない」

 1号と2号はまだチュートリアルで苦戦している。

「勝てないのなら止めればいいだろう」

『嫌だ』

 返答は偶然にも重なった、負けず嫌いだなこいつら。

「……先に始めよう」

「そうですね、まずはあそこに行きましょう」

 そう言ってキャトルが指さしたのはこのゲームの中心になるクエストを受注する冒険者ギルドの新大陸支部だった。支部とはいっても他の商店と同じように地面に敷布を広げて机を置いただけのモノだが。

 もともと冒険者は聖杯を探索する騎士たちから来ているらしくその意匠は杯なのだがそれも木製でいかにも間に合わせた感がある。

「新大陸支部員って出世コースから外れているよな絶対」

「まあ、新しくできたコースですしね……ひょっとしたら新しい出世コースになるかもしれませんよ」

「それまで何年かかるやら」

 肩をすくめ落ちを言った俺の前に出てキャトルが受付に声をかけた。

「こんにちは、いい天気ですね」

『いらっしゃいませ、こちらは冒険者ギルドです。先ほどの船で来られた方ですね、まずはこの地図をご覧ください』

 そう言って受付嬢は満面の笑みで簡素な地図を差し出してきた。

「この地図は?」

『この地図にこの村の周囲の地形や資源、狩場などの情報を書き込んでください。書き込まれた地図を提出していただけますと開拓点が支払われます』

「地図ってどうやって書くんですか?」

『開拓点は冒険者の皆さまを評価するためのモノでより多く集められると私たち冒険者ギルドから便宜を図ったり、より難易度が高いクエストを依頼させてもらったりします』

 受付嬢とは見事なまでに会話が成り立っていなかった。与えられた入力に定められた出力をするだけの人口無能だなありゃ。

 その後キャトルは会話をすることを諦めて、受付嬢の言葉を聞くことに専念していた。

『それでは、よき冒険を!』

 話が終わりキャトルが顔をうつむけて戻ってきた。

「何か悲しい気分になりました……」

「奇遇だな、俺もだ……」

 人間が類人猿を見ることがあったとしたらこんな感覚になるのだろうか?

 さておき、もらった地図を二人で眺める。河口から北の山脈へと河が流れ、この開拓村のすぐ外から草原があり、山すそに森が広がっている。それ以外は何も書いていない。

「どこから行くべきでしょうか?」

 キャトルの疑問に1号が応えた。

「森だろう。開拓村を見る限り建材にすら事欠いている様子だ。草原には食料になるような物はあるだろうが、建材になるような物はおそらくない」

「そうね、まずは河を使って木材を確保。本格的な冒険は拠点を拡充してからにすべきね」

「なんだお前ら終わったのか」

 やっと不利な相手に勝利した1号と2号に声をかける。

「なんとかな」

「今すぐそちらに行くわ」

 どうやら残りのチュートリアルは飛ばすつもりらしい、まあ俺とキャトルがクリアしてその情報はフィードバックしているからやらなくても問題ないという判断だろう。

「これで4人そろって始められますね」

「そうだな」

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